第15話:勇者の同属7

【注意:このエピソードでは、話の視点が切り替わります】

◆◆◆◆:セツナ=タツミヤ視点

□□□□:フィリシア=ネイト=ローズ視点



◆◆◆◆


「もう彼女がこの砦を出発してから2時間程度経つ。もう東ギルドに着いた頃だろうね。東ギルドの戦力はどの程度だい?」


 私は地面を蹴り、全体重をかけてアルバートの左肩口に木刀を振り下ろした。


 しかし、”パン”と乾いた音と共に目の前の見えない壁に阻まれ、私の木刀が弾かれた。


「まあ、聞きたまえ。止める方法が無いとは言っていないだろう。止める方法は2つもある。1つ目は、彼女を殺せばいい。それが1番手っ取り早いだろうね。そしてもう1つは……」


 そこまで言うとアルバートはバックステップで距離をとり、右手を前に突き出した。


「私を殺せばいい。そうすれば彼女への命令が解け、彼女のことを無力化出来るだろう。」


 彼が言い終えた瞬間、彼の右手のひらに風が集まり風の玉が手のひらから発射された。


◆◆◆◆


 手のひらから風の玉を発射する魔法――通称”エアブラスト”と呼ばれている。


 アルバートは詠唱をせずにエアブラストを連発する。恐らく私が来る前に、何発分かの詠唱を予め行っておき、いつでもエアブラストを使用出来るように調整していたのだろう。かなりの高等技術だ。


 私は、彼の放つエアブラストをかわしながら反撃の隙を伺っていた。


 彼が球切れするまでかわし続けることも出来るのだが、それでは時間が掛かり過ぎる。何とかヤツを瞬殺しなくては……。


 そんなことを考えた一瞬、彼の動きが止まった。


 マナが切れたのか……球切れか……何にせよチャンスと思い、私は木刀を構えて踏み込んだ。


 その瞬間、アルバートは「掛かったな!」と叫び、俺の眼前に手をかざす。


 彼の手のひらに風が集まるのを感じると同時に私は身体を捻り、超至近距離で放たれるエアブラストをかわしつつ、遠心力を上乗せした一撃をアルバートの横っ面に放った。


 先程と同様に見えない壁にアルバートへの直撃を阻まれ、木刀も弾かれた。しかし、先程とは異なり、見えない壁は粉々に砕けた。


 バックステップで距離を取るアルバートに対し、距離を取らせまいと私は再び踏み込み木刀を振り上げる。そして、再びエアブラスを放つために突き出したアルバートの右手に木刀を振り下ろした。


 ゴッという鈍い音とともに俺の手のひらに確かな感触があった。アルバートは「くっ」と声を漏らし、とっさに右手を引っ込め左手で右手を庇う。


 私は木刀を構え直し、アルバートの首元に刃先をつけ、


「勝負ありだな。」


と宣言した。


◆◆◆◆


「殺せ。」


 アルバートは私を見て言いそう言い放ち、腰に身に着けていた短剣を私の足元に滑らせた。彼は、その言葉とは裏腹に満足げな表情を浮かべている。


 私はやつの短剣を拾いながら、もう一度彼に質問をした。


「本当に貴様を殺せば、戦術兵器は止まるんだろうな。」

「止まる。私の誇りにかけて約束しよう。」


 ここでまた、こいつを手にかけたら……もう戻ることが出来なくなる気がする……。


 しかし……もしここで躊躇したら東ギルドが壊滅させられる……。


 いや、既に壊滅させられているかも知れない……。


 既にアルバートと戦闘を始めてから、30分程度は経っているだろう……。


 呼吸を整え短剣を握る手に力を込た瞬間、ミリアの顔が思い浮かんだ……。


 「(ごめん)」と心の中で呟き、アルバートの首に短剣を突き立てようとした瞬間、部屋の入り口の扉が勢いよく開き、俺の脇にタックルをされ動きを止められた。タックルを仕掛けた相手はルークだ。


 ルークに続き、他のパーティメンバや盗賊、何故か東ギルドに居るはずのディアとミリア、そしてミリアの肩にもたれ掛かり、真っ青な顔をして今にも吐き出しそうにフラフラとしているフィリシアまでなだれ込んできた。


□□□□


 ――パーティメンバがギルドを出て直ぐ――


 エレガントな挨拶を終え、暫くの間、私はギルド受付の脇にとどまった。東ギルドの職員達を優雅に観察するためである。


 東ギルドのメンバの中で、私がダニエル=ネイト=ローズの娘であると確信している者はいないようだが、何人かは感づいていそうに見える。


 まあ、ギルド職員には元騎士団員が多いので仕方がない。


 あと、それ以外で気になるのは……と考えながら、机を拭く給仕係スタッフに目を向けた。すると、プラチナブロンドの髪色で、黒縁メガネを掛けた給仕スタッフと目が合った。


 給仕スタッフは容姿の良い女子が多い。しかし、彼女は頭1つ抜けて美しかった。


 ニコリと微笑み返し手招きをすると、彼女はキョロキョロと周りを見渡し自分に向けられた手招きであることを確認した後に、パタパタと小走りで駆け寄ってきた。


「貴女、お名前は?」


「ミリア=ミッシェルです。」


「今日はお暇かしら?」


「いえ、お給仕のお仕事と、キッチンのお仕事がありますので……」


「そんなこと、他のスタッフに任せなさいな。今から貴女に任せたい仕事がありますわ。今すぐ給仕課長に『ギルド長に緊急の要件を任されたため、午前中は持ち場を離れます。』と言ってきなさい。」


「は……はあ……!?」


 ミリアは”腑に落ちない”という表情を浮かべ、小走りで給仕長の元へと駆け寄った。


 給仕長と共に、こちらをチラチラ見ながら話をしている。そして再び私の元へと戻ってきた。給仕仕事とキッチン仕事を免除して貰えたとのことだ。


 私は、なおも怪訝な顔を浮かべるミリアの肩にポンと手を置き、もう片方の手の親指でバックヤードを指した。


「今から裏で、ワタクシ様と女子会をしましょう。」

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