第16話:メイドと女子会1
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私は厨房へと入り料理スタッフに声をかけた。
「これはギルド長命令ですわ!!!このギルドで1番高い”おハーブティ”を2つ、バックヤードに運んできなさい。なる早でお願いしますわよ!」
声をかけられた料理スタッフは、突然のことに狼狽えながらも急いでお湯を沸かし始めた。
「これでよし」と呟きバックヤードへと戻ると、部屋の隅に設置された丸テーブルの前に、ちょこんとミリアが座っている。
天窓から入る太陽の光に照らされながら朝の空気を感じ、小さなテーブルを私と美しい女性で囲みモーニングを楽しむ――なんて優雅なんでしょう――などと考えながら、ミリアの前へと座った。
ミリアのことを近くで見ると同性でありながら、その美しさに吸い込まれそうになる。長いまつげに艷やかな唇……思わず身を乗り出した。
「失礼」と断りを入れて、前髪に触れるとサラサラとしており、絹のように柔らかい。そのまま手を滑らせ透き通るような頬に触れると、シルクのような手触りだ。
「貴女、本当に美しいわね」
思わず言葉が口からこぼれ落ちた。
ミリアは少し照れ、私が頬に触れた際にズレたメガネを直しながら「いえ……滅相も御座いません。」と消え入りそうな声で囁く。
私は椅子に座り直し、色々と質問をした。
「ミリアさん、髪のお手入れはどのようにされていらっしゃるのかしら?私、毛量が多くて困っておりますの。」
「そうですね……お風呂の時に使うシャボン(※)は必ず中央市場の中にある、行きつけの雑貨屋さんから買うようにしています。昔、色々なお店のシャボンを試したことがあるのですが、あそこのお店の物が1番、私の髪に合っておりましたので。」
(※)こちらの世界の「石鹸」や「シャンプー」の俗称
「何処のお店か、今度詳しく教えて下さいまし。何なら次のお休みを教えて下さったら、私も合わせますので案内して頂けますと嬉しいですわ~。」
暫く話をしていると、先程声をかけた料理スタッフが、2つのティーカップとティーポッドをお盆の上に乗せて、私達を探しウロウロとしている姿が目の端に写る。
「こちらですわよ~。」
と声をかけると、私達の席へと素早く駆け寄りティーカップにハーブティを注いだ。
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それからも暫くの間他愛の無い会話を続けた。そして気がついた事がある。
それは、ミリアは元々の美しさにかまけること無く、努力をして美しさを作り出しているタイプだ。
そして、それを当然の如く自然体で行っている。
彼女とのお喋りは十分に楽しめたので本題の質問を行った。
「ミリアさんから見て、私はどのように映りますか。」
「気品高く美しい方に見えます。」
「ありがとう。でも、私の求めている答えは少し違うのですわ。正直に白状しますと先程、私が臨時ギルド長としての挨拶をした時に貴女の視線を感じましたの。私、視線には敏感なのですわ。それで、あの視線はどちらかというと――私を”観察”する視線。」
ミリアの顔をジッと見るが動揺する素振りは無い。それどころか、柔らかくも凛とした表情でほほえみ返してきた。
「もし、気を悪くされたのでしたら申し訳御座いません。私も色々な人を観察する癖があるんです。そうですね……」
と、ミリアは顎に手を当てて少し考える。恐らく、答えは出ているが失礼ではない言葉を選んでいるのだろう。そしてゆっくりと口を開いた。
「『貴族等の裕福な家庭に生まれたが、何らかの事情により庶民の暮らしをしているお嬢様』のように見えます。」
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「(私、自己紹介の時にフェリシアとしか名乗りませんでしたわよね……。)」と自己紹介時の内容と光景を思い返してしまった。それ程までに――恐ろしい程に的確な回答だった……。
ミリアの言う通り、私は確かに貴族の家に生まれたが、”とある事情”で家を出て、今は幼少の頃から共にいる侍女と2人で暮らしている……。
私は動揺を抑えつつ質問を続けた。
「何故、そう思ったのかしら。」
ミリアは顎に手を当てて再び短く考えた後「少し長くなりますよ」と前置きをして話し始めた。
「まず、大きな声を上げてギルド内に入って来られましたね。あの時に、ギルド内の職員達の注目を集め、彼らの反応から”フェリシア様自信のことを知っている人はどの程度いるのか”、確認しているように見えました。
そして、ギルド内での挨拶の際にフルネームではなく名前だけを名乗られましたね。その時私は『この人は名の知れた一族の方』なのだろうと感じました。
極めつけが先程話された『視線に敏感』である点。これは、舞踏会など、公の場に出ることが多く、周りからの視線を気にする必要があったため身についたものではありませんか――。
しかし、気になることも幾つかございます。例えばフェリシア様の香水――私もお気に入りなのですが、これは中央市場で購入出来る市販のものです。
また、ハーブティを飲みながら交わした会話の中にもかなり庶民的な会話が含まれておりました。
これらを考えると……『裕福で家庭育てられたが、現在は庶民の暮らしをしているお嬢様』のように私には映りました。」
今までどの様な――どれほどの人生を歩んで来れば、これ程までの観察眼を手に入れることが出来るのだろう……。
私も人を”視る”タイプだと思っていたが、ミリアは視ている世界が違うのだろう……しかし、今、間違いなく必要な人材だ。
「パーフェクト!!!パーフェクトな回答ですわ!!!」
私は思わず立ち上がり、拍手をしながら叫んだ。そして、ポカンと口を開けこちらを見るミリアの手を取り立ち上がらせると、腰に手を回して叫んだ。
「私達2人で最も重要な仕事を行いましょう!!!このギルドの存亡に関わる重要な仕事を!!!」
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数日前、東ギルドのギルド長であるルーク=エドワーズが突然私の下にやってきた。要件は、1日だけ臨時で東ギルドのギルド長を行って欲しいとのことだ。
そんな訳の分からない提案、普通なら直ぐに却下するのだが、普段は飄々としているルークがあまりにも必死に頼み込むものなので話だけでも聞いてやることにした。
「聞かれるとマズい内容なのでしょう!裏で話しましょう!」
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