第56話:勇者と彼女達の関係5
◆◆◆◆
「ディアは復讐のために剣を学んでいるのか?」
「……いえ、そんなことはありませんが……。」
「復讐か……。私は復讐される側の人間だからな……。だからかもしれないが、復讐については否定も肯定もしない。ただ、今まで復讐のために剣を手にする者を何人も見てきたが、多くは、最終的に不幸になっていた。道半ばで倒れた者はもちろん、人生をかけて最後までやり遂げた者も……。復讐を遂げた者が、逆に復讐されるなどということもあったからな。だが、復讐をしなければ前へと進めない人間もいる。それならば、絶対に復讐を成し遂げるべきだ。」
そう、彼らは”仇討ち”や”弔いのため”と口にする。しかし実際は、彼ら自身が前へと進むために必要だから復讐をするのだ。
だから……私は、私に復讐を誓う者に討たれなければならない……。
私のせいで歩みを止めている者たちが、私が討たれることによって、前えと進めるような……皆が納得する形で死ななければならないのだ。
「そう……ですよね……。復讐を誓った時点で、不幸になることは決まっているんですよね。でも、その歩みを止めることは出来ない。その決意が無ければ、初めの一歩を踏み出してはいけないんですよね……。」
私は、まだ一口も食べていない団子をディアの口の中に突っ込んだ。
「復讐なんてものはな、自分のために行うんだから、嫌になったらそんな覚悟捨てちまって良いんだ。私だって、私のことを恨んでいる者達が全員『セツナへの恨みなんて別に良いや』って思ってくれたら、それに越したことは無い。」
串を引くと、ディアの咥えた玉がディアの口に残った。
ディアは大きな団子を無理やり口の中に詰められ、頬をパンパンに膨らませながら”モクモク”と団子を咀嚼する。
私は肩ひじを突きながら、串を横にして団子に噛みつき串をスライドさせて口の中に入れ、急いで咀嚼して煎茶で流し込む。
「そもそもな、復讐してスッキリして”ざまぁ”ってなるやつも見たことがあるし、復讐を諦めて幸せを掴んだものもいる。これがディア自身のことであれば、自分の心に素直に従えば良いし、他人のことであれば、ディアが思い悩むことではない。」
3つめの団子も同じように食べ、最後の団子を咥えた瞬間ディアが身を乗り出した。
視界の半分以上が彼女の顔で埋まる。女性特有の生々しくも甘い香りと、若干の汗、そして微かなシャボンの香りが鼻孔を突く。
彼女は私が咥えている団子に噛み付いた。唇がギリギリ触れないところで団子を噛み切り一玉の半分を持っていく。
顔を離すと、彼女はいたずらっぽく笑った。
「何だか、悩んでいるのが馬鹿らしくなっちゃいました。でもセツナさん、自分は復讐されて当然みたいなことを言っていますけれど、そんなことはありませんよ。セツナさんの振るった刀で救われた人もいるはずです。それなのに……という事で、チョットだけ腹が立ったので、最後のお団子は、半分没収です。」
そして、彼女は自身の団子を咥えると、咥えた団子を指さしながら話す。
「ふぁふぁには、ふふしゅう、ふぃてみますか?(たまには、復讐してみますか?)」
「バカなことを言わないで、早く食べちゃいなさい。」
彼女は急いで口の中の団子を飲み干し、串で私を指しながら話す。
「セツナさんの意気地なし。」
私は彼女の串についた最後の団子にかじり付き、口の中に入れた。
そして口の中のものを飲み込みドヤ顔を浮かべる。
「これで、復讐完了だな。」
◆◆◆◆
家に帰ると、土間で待っていた稽古着姿の父に引き止められる。荷物を置いたら修練場に来いとのことだ。
言われるがまま修練場に向かうと父は木刀を持ち準備している。
何を行うのか察した私は、木刀を構える。
「思いっきり打ち込んで来なさい。」
父は木刀を地面と水平になるくらい真っ直ぐに構える。私は父の腕を狙い、斜め下から切り上げるが、峰を使い滑らされる。私は木刀を途中で止めて、袈裟斬りを仕掛けるが、父は私の動きを読んでいたようで、半歩後ろに下がり紙一重の位置で避け私の頭にコツンと木刀を当てた。
「貴様は弱くなったな……。本当に弱くなった……。」
「もう一本、お願いします。」
「今日は稽古を付けるために刀を取ったわけではない。今日のところはこれで終わりだ。」
「私は、強くならなくては駄目なのです。」
「ならば、まずは、その心の弱さを何とかしろ。貴様は自分の命を軽く見すぎている……。ただ、貴様が王国で何をやっていたか――そして今、何をやっているか、ミリアさんから聞いた。」
父は木刀の鍔元を左手に持ち、修練場の扉へと向かう、振り返り私を見て話す。
「貴様でも振ることが出来る刀を頼んでいる。明日、リンのことを連れて刀之陸のところへ取りに行きなさい。」
刀之陸(カタナノロク)――有名な鍛冶師だ。
かつて侍の国には、刀神(カタナカミ)と呼ばれる天才鍛冶師がいた。
その鍛冶師は10人の弟子をとり、その弟子達も有名な鍛冶師となった。その弟子達は一番弟子から順に刀之壱~刀之拾と呼ばれている。
タツミヤ家で新たな刀を用意する時は、必ず刀之陸に打って貰うことにしているのだ。昔、父に理由を尋ねたところ「偏屈な爺だが良い刀を打つ。それに隣町なので、取りに行くのも楽だから頼まない手は無いだろう。」とのことだ。
私は、幼い頃から”刀之陸”と呼ぶとどうしても噛んでしまうため、”ジンロク爺さん”と呼んでいる。因みに、”ジンロク”という呼び方は本人も認めてくれている――幼き頃、本人に”ジンロクさん”と呼んで良いか聞いた際に「俺だって分かれば何だっていいさ」と言ってくれた。そのため、今でも呼ばせて貰っているのだ。
刀自体の必要数は減ったとはいえ人気の鍛冶師であるため、彼の打つ刀は注文してから1年以上立たないと出来上がらない……。つまり、父は休戦後すぐに刀の注文を行っていたのだ……。
「父さん、ありがとう。」
「私は注文をしただけだ。残りは支払いを含めて、お前がやっておきなさい。」
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