第69話:勇者と経営者1

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 通称、始まりの国と呼ばれるこの王国は、世界で最も発展した国の1つだ。長きに渡り行われた人間と魔族の戦争において、人間側の中軸国家は始まりの国であり、その結果、最も先進的な魔法を扱う国になった。


 しかしその弊害なのか貧富の差は激しく、行き場を失った者達が最後に行き着く場所として、治外法権である赤線が黙認されていた。


★★★★


 この国には無駄が多い。


 貴族共は、自分達の保身しか考えていない無能ばかりだ。同じ王国民でありながら、自分達は税を支払わず、国民からは税を巻き上げ至福を肥やす。何と腹立たしいことか。

 

 騎士団、治安維持隊、冒険者ギルド、こんな物、全て国王直属である騎士団を中心に据えて、治安維持隊と冒険者ギルドは騎士団の1部隊とすれば、運営コストは下げられるはずだ。


 そして何より赤線……。同じ王国民でありながら、貴族と同様に税を支払わずネズミのような暮らしをしている。ただのネズミならば問題はないのだが、赤線内では大きな経済が出来上がっている。これを野放しにするなど無駄の極みだ。


 金とは本来、循環してこそ意味がある――いや正しくは、循環してこそ意味が”生まれる”のだ。もし、金が全く循環しなければ、金などただの金属片に過ぎない。


 であれば正しく働き、正しく金を収めている人達が、十分に金を使える国にするべきなのだ。


 大した仕事もせずに無駄に金を蓄えて、循環を滞らせる貴族達や、無駄な制度により無駄な循環路を形成する集団、閉じた人々の間でのみ金を循環させる赤線などは、戦後復興期のこの国にはあってはならないのだ。


 俺が正しく金を回してやる。


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 先日の事件にて、中央銀行幹部のセルジュが捕まったことにより、セルジュに関わる多くの権力者達が辞職した。そのうちの1人に財務大臣も含まれていた。そのため、先日までは一時的に副大臣が大臣職を兼任していたのだが、先日、新たな大臣が決まったのだ。


 新財務大臣の名前はクレタス=ハッドフィールド――通常、この国では、国の中枢に関わる役職は貴族達が就任するのだが彼は平民だ。


 ただし、平民とは言え様々な会社を大企業に育てた経営者であり、国民から絶大な支持を得ている。彼は戦後、財政が厳しい王国の立て直しと、王国民の信頼回復を図れる人材として抜擢されたのだ。


 そして、彼が掲げた政策の目玉は、赤線内からも税を取る代わりに、赤線内の人々に王国民と同様の権利を得ること。つまり事実上の赤線廃止を宣言したのだ。


 もともと、赤線も王国の一部なのに税を収める必要が無いことに対し、不満を持つ人は少なくない。彼は、この人達の支持を一気に集めたのだ。


◆◆◆◆


 冒険者の支援準備のためバックヤードに入ると、ルークがミラを呼び出して話を聞いていた。ルークはバックヤードの真ん中に陣取る、大きなスタンディングデスクに持たれながら頭を掻く。


「ちょっと確認をしたいんだけど、クレタスの政策で赤線内のお店、大丈夫だと思う?」


「厳しいお店が多いと思いますよ。まあ、私の努めていたお店は、たぶん大丈夫だと思いますけど……それでも、女の子達のお給料は下がるでしょうから、辞めちゃう娘が沢山出てくるでしょうね。それに、小さなお店は軒並み畳むしか無いと思いますよ。だって、娼館にかかる税金が大きすぎるので……。」


 赤線内には大小多くの娼館が軒を連ねている。その理由の1つは赤線内では税が掛からないためだ。


 王国内で娼館を経営すると大きな特別課税がかかる。しかし、赤線内は王国外であるという考えから税が掛からない。そのため、王国内と比べて容易に経営出来るのだ。


 ミラは腕を組み、真剣な表情で考え込む。


「それに赤線って、人々の最終的な受け皿なんですよ。あまり良い言い方ではないかもしれませんが、税を支払うことすら出来ないほど困窮し、赤線へと流れ着いた人も少なくはありません。そんな人達は、この先どこで生きていけば良いんでしょうね。」


 巻き込まれないようにと思い、足音を立てずに立ち去ろうとしたが、ルークに声をかけられた。


「セツナ、明日、ブルーノのところに行って、赤線内の状況を探ってこい。」


「私じゃなくて、ルークが行った方が良いのでは?」


「俺は明日忙しいの。中央ギルドで会議があるんだよ。赤線は我々ギルドのお得意様だろ。もし、赤線が無くなったら、赤線内で起きる問題まで騎士団や維持隊に奪われちまう。そしたらギルドは解散か、騎士団へ吸収されかねない。だからみんなで何とかしようって頭突き合わせるんだってよ。」


「分かったけど、私だけで良いのか? 見た目的にまずくないか?」


「そこで、アルと一緒に行って欲しい。」


 凄く嫌な予感を感じつつも、断る理由がないため渋々首を縦に振った。

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