第21話:罪の償い方、罰の受け方3
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腰まで伸びた栗毛色のウェーブ掛かった髪が、開けっ放しの扉から差し込む光を反射し光り輝いている。長く伸びた前髪を真ん中から分けており、童顔気味の大きな瞳と厚ぼったい唇が、顔の中にバランスよく収まり、非常に顔立ちが整っている。身長はミリアよりも少し低いぐらいだろうか――女性の平均身長よりは高いだろう。
そして、彼女は騎士団員が着用する純白のジャケットを身に着けていた。恐らくガタイの良い盗賊誰かが使用していた物であろう。
袖や裾はブカブカ――裾は膝上まで伸びており、袖は手全て隠れ見えない。しかし、胸だけはパツンパツンに張っている。
そして、健康的だが色白の首元に真っ赤な首輪を身に着けている。
通常であれば、男性の欲情を掻き立てられそうな女性だが――何故か色気を一切感じない――。
彼女は肩を怒らせながらズシズシとアルバートの前まで歩き、彼の前でしゃがみ、アルバートと目線を合わせると人差し指を突き立てた。
「だから!!!アイリスは!!!貴方と!!!離れたくないと思っているって何度も言ったでしょう!!!アイリスの気持ちを考えなさいよ!!!」
物凄い勢いでまくしたてる。アルバートはその勢いに負けじと「い……いや、だから……薬物と、催眠で……」と言い返すが、言葉を遮り、
「薬物と催眠で感情が無いんでしょ!!!何度も聞いた!!!でも、私は!!!アイリスは感情を失っていないって何度も言ったでしょ!!!それにも関わらず『もう全てを終わらせたい』って馬鹿じゃないの!?アンタ頭良いんだから、アンタもアイリスも幸せになる方法を考えなさいよ!!!」
なおも怒りのまま話し続ける彼女を、私とルークでなだめる。彼女はまだまだ言いたいことがいくつもあるようだが、何とか冷静さを取り戻した。
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「君がゴブリンに拐われた女性か」
私が質問をすると彼女は、まだあどけなさの残る顔で頷いた。
「はい。先日ゴブリンに――この砦に連れ去られました。名前はミラ=ハートと言います。」
先程の勢いは嘘のように冷静かつハキハキと答える。私は彼女が、この砦の男達に輪姦され酷いことになっていると想像していたが……。
「その……大丈夫なのか……?男達ばかりの砦で……」
「……?」
一瞬沈黙をはさみ、彼女はハッとした表情を浮かべた。
「あぁ、大丈夫ですよ。こっちが拍子抜けするくらい。私もここに連れ去られたときは覚悟をしたんですが――この首輪のおかげです。この首輪、アルバートに付けられたんですけど、着用者の性的魅力を無くすらしくて……本当に誰も襲ってこないんですよ。彼、そういう所は気にかけてくれるんですけど……アイリスのことになると頭が固くて……。」
「でも、アルバートから『かなり無茶をして貰った』って聞いたのだが……」
「無茶……あ~、無茶はしました。ここにいる全員分の家事をしたので!本当に困ったもんですよ、ここの人達!洗濯も掃除も雑で……料理なんか、毎日お肉を焼いて食べるばかりで――それを指摘したら「時々、山菜なんかも食べている。」って――彼らだけなら良いですけど、アイリスにもそんな食事させているんですよ!最低ですよね!それで、彼らに野菜を買いに行ってもらって、料理したり――大変でしたよ!」
拍子抜けする程の答えだが……何はともあれ無事なら何よりだ。
アルバートが想像よりも紳士的な対応をしていたようだ。欲望のまま彼女のことを滅茶苦茶にすることも、催眠により彼女をペットのように扱うことも出来るはずだが……驚きのあまり、アルバートを見ると、少女のようにも見える顔を真赤にしながら目線が左右に泳いでいた。
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ルークがアルバートの前にしゃがむと、くしゃくしゃと自身の頭を掻く。
「なあ、もう死ぬのをやめて、うちのギルドに来いよ。もちろんアイリスちゃんも一緒にさ。あと、ここにいる盗賊達も、迷惑かけた人達に『ごめんなさい』したら一緒に来い。」
「馬鹿な、アイリスと俺が一緒にギルドに入っても、俺が拷問の末に殺されて終わりだ。それならばいっそ……。」
「盗賊達が一緒なら大丈夫じゃねえか。盗賊達をしれっとギルド職員にしちまえば、『2人に何かあれば、2人と一緒に過ごしてきた盗賊達が、どこにどんなリークをするか分からない』って、上層部との交渉の材料として使えそうじゃね。あとは俺とかフェリシアが頑張れば何とか出来そうな気がするぜ。
それに、アイリスちゃんのことを生体兵器に変えたのはお前自信だ。仕方ない理由があるとは思うが、その事実は変わらない。であれば、アイリスちゃんを幸せにしてやる義務があるはずだ。お前と離れ離れになることが、アイリスちゃんの幸せか? 何とかして、お前とアイリスちゃんが一緒にいられる方法を考えようぜ。」
自分自身が行った罪は消えることがない……。
それがたとえ、誰かから強制されて行ってきたことだとしても……。
アルバートは少女達を犠牲にしてきたが、アイリスを幸せにすることで、その罪を少しだけ償うことが出来るのだろう。しかし、償うべき人が既にいない者はどうすれば罪を償うことが――罰を受けることが出来るのだろう……。
「気にかけてもらって悪いな。ただ、やはり暫くの間アイリスとはお別れだ。ミラを誘拐した罪は償わなければならない。私が罪を償った後、気が変わっていなければ俺も雇ってくれ……」
いつの間にか、鎖と縄が解かれたアイリスを呼び寄せ抱きしめる。
「しっかりと、みんなの言うことを聞くように」と優しい声で語りかけるアルバートに、ミラが呆れるような表情を浮かべている。
「ねえ、罪って何のこと? 私はただ、この砦に派遣されただけなんだけど。」
ポカンとするアルバートにミラは「紙とペンを貸して」と言う。アルバートは言われるままにノートの切れ端と墨を吸わせた万年筆を渡した。
「だから、私は『14人対1人の乱交お泊りコース4日間』で呼ばれただけってことにすれば良いんでしょ。店長には言っておくから。だから、この金額をお店に支払ってね。」
「これ、一桁間違えていないか……。」
どれだけの額なのかと思い覗き込むと、安い家を買うことが出来る金額が書かれている……何年かかれば返却できるのか想像もつかない。
ミラは腰に手を当てて胸を張りながら片目を瞑り、アルバートのことを見ている。まるで、他に何か提案があるかのように――。
「間違っていませんよ~。私、高級娼婦なので!ここに来てからは、みんなにはコキ使われていたけれど、私、一晩一緒に過ごすだけで金貨100枚はかかるんですから!」
「い……いや、手は出していないので、何とか割引を……」
「だ~め~!アイリスと一緒にいたいんでしょ!頑張って支払ってね!」
金貨100枚――普通のギルド職員の月々の手取りが金貨25~35枚程度である。まあ、貴族や官僚を相手にする高級娼婦であれば妥当な金額なのだろうが、我々庶民からするととんでもない世界だ……。
ミラは手を後ろに回しながら覗き込むようにアルバートを見てニヤニヤと笑いながら話す。
かつて騎士団の極秘事項扱いをされていた、”誰も見たことの無い天才「アルバート=ウィリストン」”が完全に弄ばれている。
夫婦漫才のようなやり取りを暫く眺めているとアルバートがシュンとした表情で「では、やはり罪を告白するしか……」と呟いた。思わぬ反応にミラは「ちょ……ちょっと待って。」と慌ていた。
「まだ手はあるから。ただ、その前にこの首輪外してよ。」
「その首輪は、街に着いてからでも……。」
「貴方がアイリスと一緒に居られる方法、教えてあげないわよ。」
何も言い返せなくなったアルバートは渋々首輪に手をかけた。赤い首輪がぼんやりと光ったかと思うと、カチャリと鍵が開く音が鳴り首輪がおちる。
その瞬間、その場にいる全ての男性が――いや女性も含め、全員がドキリとした。
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