第24話:勇者とメイドの甘美な時間2
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午後からミリアと買い物に出かけた。と言っても、日常生活で必要となる雑貨や夕食の材料ばかりだ。
買い物デートと言う感じではなく、2人で買い出しに出かけたといった方が妥当だろう。
途中でミリアに「洋服やアクセサリー等、何か欲しいものは無いか。」とそれとなく聞いたが「セツナ様のメイドでありメイド服が普段着であるため不要です。」とのことだ。
両手が一杯になるほどの買い物を行い家に着くと、ミリアはすぐさま夕食の準備に取り掛かる。私も手伝い、いつもよりも早いペースで夕食の準備を終えた。
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ミリアが来てから大きく変わったことが1つある。それは毎日、大衆浴場へと行く習慣が出来たことだ。
侍の国にいた頃は、街中の至る所に浴場があり、毎日必ず風呂に浸かっていた。
しかし騎士団に入隊してからは桶に水を張り、タオルで身体を拭いて済ませていた。
それをミリアに伝えると。
「”めっ”です。身体を清めなければ一日の疲れは取れません。だから、毎日必ず大衆浴場へと行きましょう。」
と言われた。
一番近い大衆浴場でも家から若干離れた場所にある。ただ幸いなことに、ギルド帰りに丁度良い場所にあるため、ミリアとギルドの業務をしているときはギルドから帰る際に必ず2人で浴場に向かうことにしている。
また、ミリアが休暇を取得している場合でも、必ず浴場に行く習慣が身についた。
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まだ、太陽が頭だけを残し辺りが赤紫色に染まる夕暮れ時の大衆浴場からの帰り道――。今日一日の出来事を思い返したが、ミリアは全く休めていないように思える。
朝早く起きて朝食を作り、朝食後に洗濯と掃除を行った。
午後は買い出しを行ってから夕食の準備を行い、夕食後、大衆浴場で今日の汗を流し今に至る。
ミリアにそのことを伝えるとミリアは「私、セツナ様のメイドとして働くことは、趣味なのかも知れませんね。」と微笑みながら話した。「明日はカフェにでも出かけてゆっくりしよう。」と提案すると、ミリアは手を後ろに組み腰を屈めて覗き込む。
いつも通り、ヴィクトリアン風のメイド服は身につけているが、メイドキャップが外され長い髪を下ろしている。
垂れた前髪の間から覗き込むように上目遣いで見上げたがら話した。
「承知しました。ただ、この後もう1つ私の趣味を行いたいので、それに付き合って頂けますか?」
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ミリアが家の扉を潜ると、後ろ手で扉をパタリと締めた。
私は、いそいそと寝巻き姿に着替えるとメイド服姿のままのミリアが真剣な表情を浮かべ質問をした。
「セツナ様、失礼を承知で伺います。下半身の処理はどのように行っていますか。」
一瞬何を言っているのか分からなかった。それ程唐突な質問だった……。
下半身の処理……。恐らくこの時の私は”鳩が豆鉄砲を食らう”ということわざの、見本として紹介出来るような顔をしていただろう。
「な……何を言っているんだ……。」
「では、聞き方を変えますね。セツナ様は3日に1回、夜にベッドから抜け出してトイレに入り、御自身で性欲を処理していらっしゃいますね。」
ミリアは事務的に、さも当然の質問を行っているかのように淡々と話す。
一方で私は背中にジットリと冷たい汗をかいていた。
ミリアのような美しい女性が隣で無防備な姿を晒しながら、毎晩同じベッドで寝ているんだから……しかも、シングルベッドの上で身体を密着させながら……。
私も健全な男子だ。何か悪いことを行った訳では無い。
精通したての肉体であり、溜まる速度が早いんだから仕方がないだろう……。と、心の中で開き直りはしたが、私の精神は悲しいもので言い訳をした。
「な……何を根拠に……」
「はじめは匂いです。ある朝トイレに入ると、イカのような生臭い香りが微かにしました。なので、暫く前から予想はしていたのですが、先日トイレを掃除した際に、便器の縁の裏側に、飛び散った精液が付着していました。」
しっかりと片付けを行ったつもりだったが……こんなことでバレてしまうなんて……。
今後は消臭剤の準備と、より徹底した処理が必要か……。
「……わ……私も男だから……仕方がないときもあるんだ……。」
我ながら驚くほど動揺している。こんな、この年になって母親にエロ本が見つかり怒られる子供のようなことになるとは、数分前の私は想像していなかった……。
「先日『私の身体も心も好きなようにお使い下さい。』とお伝えしたのですが……私、そんなに魅力が無いですか?」
話の風向きが変わった……。
◆◆◆◆
”ミリアに魅力が無い”などということは一切無い。とりわけ、容姿に関しては今まで出会った女性の中でトップレベルに美人である。
性格も大人しくて細かな所によく気がつく――個人的な感想だが、妻にするには理想的な性格だと感じている。
しかも一緒に暮らす中で、あまり気を使う必要が無く、今まで”人と暮らすなどゴメンだ”と思っていたが、ミリアとなら”これからも一緒に暮らしたい”とすら思っている。
ただ……。
「ミリアのことは魅力的な女性だと思っている。しかし……君のことを大切にしたいと思っているんだ……。」
半分本当で半分嘘だ。
ミリアは魅力的だしミリアのことを大事にしたい気持ちはある。
しかし、ミリアの他に大切に思う人――その人と、あの夜のことが呪いのように、今の私を締め付けている。
「では、私が求めれば、応えてくださると言うことでよろしいですか?」
「いや、そういうことではなくて……。」
「では、どういうことですか? 私とは”シたくない”ということでしょうか。」
「そんなことは言っていない。こっちも、我慢していたんだ……。」
言ってから後悔をした……。「我慢していた」は、相当キモい発言だろう……。
なんて考えていると、ミリアに強引に頭を押さえつけられて唇を奪われた。
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