幕間5:拐われた女と拐った男5

○○○○


 アルバートが私達の部屋を訪ねて来てから、いつものように3人で他愛のない話をする。


 過去の失敗の話……今日の狩りの話……本当に取り留めのない、おばさんたちの井戸端会議のような会話……それが今の私にとっては幸せだった。


 アルバートを見ていると、確かにアイリスの言うとおりだ。私がジッと見つめると私から目をそらす。少し肩を寄せると一瞬ピクッと反応し肩を離そうとする。見た目も相まって思春期の男の子のようだ。


 そう言えば、先日会話をした際に、アルバートは勉強と研究漬けで女性との接点が無く、女性をどう扱えばよいか分からない旨の話を聞いた。


 私との交流で今思春期が来たのだと考えると、たまらなく愛おしい。


○○○○

 

 やがてアイリスがウトウトとし始めたため、ベッドに横にさせた。


 普段であればアルバートは「今日もありがとう。おやすみ。」と言って部屋を去るのだが、今日は珍しく部屋に居座りジッとこちらを見てくる。


「どうかした?」


「いや、ゴブリン達は本当に良い仕事をした。拐ったのが君で本当に良かった……。君にとっては災難だったかも知れないけどね。」


「どうしたの? 改まって……。」


 暫く沈黙が流れた後、アルバートはゆっくりと口を開いた。


「明日、君を開放する。」


「き……急にどうしたの……。」


「明日、冒険者ギルドの連中が君を助けるために、ここに来る。その連中に君のことを引き渡すので、そのまま保護されてくれ。」


○○○○


 その後、アルバートに今回、私を拐った本当の目的を教えて貰った……最終的にアルバートが死ぬこととなる作戦についても……。


 アルバート自身とアイリス自身のことは詳しく話して貰えなかったが、恐らく、私に話してしまったら、相当な危害が及ぶことなのだろう……。


 アイリスが普通の生活をするために仕方のないことだという理屈は分かる。しかし、どうしても彼が死ぬことは受け入れることが出来なかった。


 私もアイリスのことを大切に思っているが、同じようにアルバートも大切なのだ。


 一か八か国外に密航し、誰の目も届かない国で3人で暮らしても良い。もしアルバートが仕事につけないのであれば、私が身体を売ってお金を稼ぐ。


 もし、私がお荷物であれば2人で逃げて欲しい……。


 どんなことをしてでも、この2人には生きていて欲しいのだ。やっと見つけた――心から好きな人だ。たとえ離れ離れになったとしても、生きてさえいれば、いつかどこかで再会するかも知れない。


 私は涙を流し、声を荒げながら訴えた。このままではアイリスが起きてしまうため場所をアルバートの部屋に移し、なおも話を続けた。

 

 朝まで言い争った結果、最終的にアルバートが私の顔に紙を貼り付け、何かを唱えたところで意識を失った。


○○○○


 私達の部屋で目を覚ました、頭を抑え辺りを見渡すと――アイリスがいない……。


 既に手遅れかもしれないと思い、急いでジャケットを羽織りアルバートの部屋に駆け込んだ。


 アルバートの部屋に飛び込むと彼は壁に持たれながら座り込み、ギルド職員達と盗賊達に囲まれている。


 彼が生きていると安堵した――と共に、生気を失った表情を浮かべる彼に怒りが込み上げてきた。


「(アルバートも幸せになる道にすがりついてよ!)」


 アルバートの前にしゃがみ込み、涙をこらえながら思っていることを全てぶち撒けた。


○○○○


 その後、ギルド職員の人達と話を行い、この砦にいるメンバ全員が冒険者ギルドに務めることとなった……ただし、私の誘拐が罪に問われなければ……。


 今回の件は赤線内のことであり、大した罪には問われない。それに、私としては、誘拐されたことなどどうでもよのだが……彼の性格上、罪を犯したのであれば何らかの罰が必要なのだろう。


 私には、これを打開する策が2つある。1つめは「私が砦に派遣されたことにすること」そして、2つめは「私を足抜けさせること」


 店長の性格上、この数日間で私が稼ぐ予定だった金額以上の支払いを行えば不問して貰えるはずだ……。


 ただ、私はこのまま娼婦を続けることは出来ないだろう……彼と出会ってしまったから……。だから……。


「『14人対1人の乱交お泊りコース4日間』で呼ばれただけってことにすれば良いんでしょ。店長には言っておくから。だから、この金額をお店に支払ってね。」


 嘘ではない。この、シュチュエーションで彼が支払うべき金額は、私が4日間出張し、アルバートと盗賊の計14人を相手にしていた分で間違いは無いだろう――。ただ、店長の求める金額よりも相当高い額だとは思うが……。


 やはり支払えないとのことなので「足抜けすること」を提案する。


 しかし、ただ足抜けするのではなく、交渉をしたいことが2つあった――私の欲望……ワガママが2つ。


 この2つの願いを聞いてもらえるのなら、他の願いは叶わなくて良い……。そう思える程切実なワガママ。


 首輪を外してもらい、言葉と身体……私の全てを使って、アルバートに「分かった。」と言わせて見せる。

 

 1つ目は「アルバートとアイリスと私の3人でこれからも一緒に暮らすこと。」好きな人と離れ離れになるなんて嫌だ。なんとしても一緒に暮らしたい。


 アルバートは、複雑な表情を浮かべながらも了承してくれた。


 そして2つめは……。


 アルバートを抱き寄せる。私の言葉を聞き逃さないようにガッチリと頭を抱きかかえ、彼の耳に唇を近づけて囁いた。


「”エッチ”しよ。」

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