不徳の勇者、溺愛メイドに御奉仕される ~勇者「俺はショタ化したが大人だから自分でできる」メイド「大人ですか……では、夜の御奉仕も精一杯ヤらせて頂きますね」~

尾津嘉寿夫 ーおづかずおー

プロローグ1:死にたい勇者と訳ありメイド1

◆◆◆◆

 

 ボサボサ頭を掻きながら赤い芝生のような絨毯の上をフラフラと歩き、豪華な装飾のされた重々しい扉の前に立つと、気怠げにその扉を3回ノックした。中から「誰だ」と低い声で尋ねられ、小さな声で「タツミヤ セツナです……」と答えると、先ほどより少し嬉しそうな声で「入るがよい」と聞こえた。


 部屋の中は、外の部屋よりも繊細な刺繍の絨毯が敷かれ、私の身長の三倍はある大きなステンドグラスから入る光に部屋中が明るく照らされている。その部屋の中央に置かれた豪華な椅子に、白く立派な髭を蓄えた老人──国王が肩ひじをついて座っている。国王は自身の横で構えている甲冑を身に着けた四人の兵士たちに部屋から出るよう合図を送ると、兵士達は互いに目を見合わせた後「失礼します」と断り、しずしずと部屋を後にした。


 ステンドグラスから煌々と光が照らされるだだっ広い部屋に国王と二人取り残された私は、部屋に入りまだ数分と経っていないにも関わらず、既に帰りたい気持ちで一杯だった。


 国王は椅子に座りなおすと、優しそうな瞳をセツナに向けた。

 

「先の戦争の活躍ご苦労であった。貴殿が第四魔王──アルトゥーナ=ハルデンベルクを封印したことで、長きに渡る人間軍と魔王軍の争いに、一旦の終止符を打つ事が出来た。そのため、神域への立ち入りを許可しよう。神域に居る神は貴殿の願いを何でも1つ叶えてくれるだろう。」


 私の願い……。

 

 国王は椅子に座ったまま目を瞑り、小声で呪文を唱えた。一瞬私の目の前の空間に光が走ったかと思うと、人が一人通れる程度の古びた木製の扉が現れた。


 国王は私に目配せをすると「此処から先は一人で行くように」と告げ、扉を開けるように促した。


◆◆◆◆


 扉を潜ると天井も地面も奥行きも分からない真っ暗な空間が広がっていた。後ろを振り返ると、通ってきた扉も消えている。地面を踏みしめるように一歩一歩前にすすむと、闇の中から小さな光が現れ、同時に男性とも女性とも付かない声が頭の中に直接響いた。


「願いを言うが良い。」


 何故かは分からないが、この光が神様だと一瞬で悟った。


 私の願い……私の願いは……

 

「私に、皆が”納得”をする”死”を与えて下さい。」


 これでようやく救われる……私は勇者として今までに多くの魔族、そして人間を殺してきた。


◆◆◆◆


 私は騎士団の中で2つの仕事をしていた。


 1つ目は戦場で仲間を助け、魔族を殺すこと。”どんな状況であろうと”窮地に追い込まれた味方を守り、敵である魔族を殺す。そして殺した魔族の首を高らかに掲げ、味方の士気を高めるとともに”勇者(私)が来たので、ここの戦場は必ず堕とすことが出来る”という安心感を与えること。


 そしてもう1つが裏切り者の粛清。戦争が長引くことで騎士団の中でも様々な思想を持つものが生まれる。その中で騎士団の方針から大きく外れた者を暗殺し、見せしめにすることで騎士団全体の意思統一を行う。それが正しいか否かは関係がなく、命令に従い敵味方関係なく殺す。これが騎士団における私の仕事である。

 

「それは貴様が死を望むということか。」


「その通りです。私は多くの魔族と人間を殺して来ました。恐らく何かがあれば、また誰かを斬り、不幸にするかと思います。なので、この場で全てを終わらせたいのです。ただの死ではなく、全ての人が納得する死を与えてください。」

 

 私はこれからも多くの人を不幸にする。刀は人を傷つけるために生み出された道具、すなわち、他者を不幸にする為”だけに”生み出された物だ。


 私の家は侍の国の中でも特に有名な剣術一家であり、長男の私は物心ついたときから剣術を学んできた。しかし剣術など、休戦となった今では無用の長物であり、刀を捨てれば誰も傷つけることはない……しかし休戦後、何度刀を捨てようとしても、自身、そして周りの人々に止められ未だに刀を手放すことが出来ないでいる。これは今まで多くの者を、刀で斬り殺してきたことに対する罰であり呪いだ。そして今、その罰に耐えることが出来ず、神に祈ったというわけだ。


「分かった。ならば今の貴様を殺してやろう。そして、新たな人生をやり直すが良い。」


 新たな人生とは何を言っているんだ……そんな思考が頭を過ぎった瞬間、目の前が真っ暗になった。


◆◆◆◆


 目を覚ますとフカフカのベッドの上に寝かされていた。「私は一体どうしたのか」と、ベッドの横で花瓶の花を取り替えているメイドに話を聞くと、どうやら王室で意識を失い倒れていたとのことだ。私を発見した国王が人を呼び、城内の客室へと運ばれ今に至るらしい。どうやら死んではいないようだ……。


 クラクラとする頭を抑え起き上がると、違和感に気がついた。体を起こした際の目線が普段と比べ若干低い……服の袖をめくりあげ手を見ると、手の大きさが1回り小さく感じる……。


 まさかと思いベッドから跳ね起き、部屋に掛けられている大きな鏡を覗くと、大体12歳~13歳の頃の私が映し出された。悪い夢でも見ているのかと思い、メイドに今の私はどう見えるのか聞くと、私の目線に合わせるように腰を屈め、


「お若く見えますよ~。それに。とてもお可愛らしいです。しかし、セツナ様が神様に若返りを願うなんて少し意外でした。でも、気持ちは分かりますよ~。私も子供の頃に戻りたいと思うことがございますから。」


と、私の頭を撫でながらおっとりとした口調で答えた。


 私は頭を抱え天井を仰いだ。

 

◆◆◆◆


 私が王城に呼び出されてから数日が経ち、ようやく体が慣れはじめた頃、普段静かな扉からコンコンとノックをする音が聞こえた。私には恋人も友人も居らず、誰かを部屋に呼ぶ約束もしていない。


 部屋間違えかと思い暫く黙っていると、再度ノックをする音と女性の声が聞こえた。


「すみません。国王命令で参りました。セツナ=タツミヤ様はいらっしゃいますか。」


 今までの経験上、国王命令が面倒事でなかった試しは無い。このまま居留守を使おうかとも考えたが、流石にバレると私だけでは無く相手の立場も危うくなる。


 気だるい体を起こし扉を開けると、そこにはメイド服を着た美しい女性が立っていた。

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