第18話:メイドと女子会3
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戦術兵機の襲撃に備え待機していたサポ課メンバも武器を手にしてぞろぞろと集まるが、私は彼らに少し待つように指示を出した。
「(どういうことですの……。)」
ルークの話によると、戦術兵機は薬学と魔術の複合技術によって感情を失っているはずだ……なのに、眼の前の少女は確かに涙を流している……。
暫く待ち少女の涙が止まると、ミリアは少女の肩に手を当てた。
「落ち着きましたか?」
本当に心配していることが分かる声色と表情だ。少女はコクリと頷いた。ミリアが「どうして泣いていたんですか?」と質問すると少女は、ジッとミリアを見返し「マスターが……帰ってくるなって……お別れだって……」とここまで言うと、また涙を流した。
感情が失われているにも関わらず涙を流す――余程アルバートと離れることが辛いのだろう……。
当然か……彼女は改造をされているとはいえ、まだ子供だ。いきなり一人ぼっちになるなど耐えられないだろう……。
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少女が再び泣き止むと、背負っている薄いカバンから分厚い紙の束を取り出し「……ンッ」と言ってこちらに渡した。
ざっと目を通したところ、履歴書と……魔術研究のレポート……?
所々破かれてはいるが重要な箇所は特定可能であり、よく読むと――。
「これ、”魔物向けの催眠魔法”ですわ……。」
冒険者ギルドからすれば喉から手が出るほど欲しい技術だ。
現在、冒険者ギルドが依頼を出しているクエストの失敗原因の上位として、クエスト完了後の帰還時に、冒険者が馬車ごと魔物に襲われる事例がある。
クエスト完了後は冒険者達の気が緩みやすく、そこに奇襲を仕掛けられると、ある程度実力のある冒険者であっても、あっさりと倒されてしまうのだ。
しかし、”魔物向けの催眠魔法”が一般化すれば、馬車をドラゴン等、多くの魔物達の天敵となる生物に偽装することで、上記の事例は激減するだろう。それどころか、国家間の馬車による貿易の安定性が増し、経済活動がより活発化する可能性すらある。まさに、世界を変える可能性のある技術だ。
しかし、一点問題がある――この技術の出所だ。
元々アルバートのみが使えた技術だったとはいえ、技術その物を成熟させたプロジェクトは生体兵器の開発である。
その為、この催眠魔法を冒険者ギルド主導で導入した場合、生体兵器の様な非人道的行為が明るみに出ることを恐れた騎士団に目をつけられる可能性がある。
最悪の場合、冒険者ギルドは解散となるだろう……。
ならば、騎士団に持ち込むか……そんなことをすれば、生体兵器のことを知っている私が殺され、この催眠魔法は永遠に世に出ることは無くなるだろう……。
つまり、この催眠魔法は世に出すことは出来ない……。
そんなことを考えながら生体兵器の少女を見た瞬間――私の中で点と点が繋がった!
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私はミリアの隣に膝を付き、少女に話しかける。
「ワタクシ様は、フェリシアと申します。貴女のお名前は?」
「……アイリス」
「良いお名前ですわね。」
涙で濡れるアイリスの頬を手のひらで拭い、そのまま髪を撫でた。少女の髪は良く手入れされており私の手をスルスルと滑らせる。
「アイリスに質問なのだけれど、私が送り届けますのでアルバートのもとに帰ることは出来るかしら?」
「……出来ない……『戻ってくるな』って命令されたから……マスターの近くに行くと……身体勝手にマスターから離れようとする……。」
表情の無い顔のままうつむき、再び泣きそうになるアイリスの両頬を両手ではさみ強引にこちらを向かせた。
「泣いては駄目よ、アイリス。可愛らしい貴女のお顔が台無しになってしまいますわ。私に良い考えがありますの。だから安心なさい!」
アイリスの肩、腕へと手を滑らせ、彼女を「気をつけ」の姿勢にする。そして、スカートから縄を取り出してアイリスのことを縛り上げた。
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私はアイリスのことを縄で縛り上げた上で、さらにアイリスが連れてきたゴブリンの亡骸を結んでいた鎖を外して、アイリスのことを簀巻きにした。
身体が鎖で締め上げられ、鎖の塊の上に頭だけが乗っているように見えるアイリスのことを引きずりながら、レッドブラウンの髪色の褐色女性職員に声をかける――確か、ルークとセツナの出発準備を手伝っていたサポ課のスタッフだ。
「貴女、4人乗りの馬車とありったけのポーションを用意しなさい。そして、貴女も準備をして直ぐに出発しますわよ!あとミリア、貴女もついてきなさい!」
2人に指示を出すと、2人は今すぐに私がアルバートの居る砦へと向かいたいことを察したようで、素早く準備を始めた。
そして、イモムシのように身動きが取れない状態のアイリスに宣言をした。
「貴女のことを悲しませたバカを一発ぶん殴って『戻ってこい』と言わせてやりますわ!」
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