第35話:持たぬもの5

【注意:このエピソードでは、話の視点が切り替わります】

◆◆◆◆:セツナ=タツミヤ視点

□□□□:フィリシア=ネイト=ローズ視点



◆◆◆◆


 2人とも見たことがある。騎士団で第1大隊の副長を勤めていた2人だ。停戦後、どこかに引き抜かれたと聞いたが、まさか、こんな所で出会うとは……。


 私の今の実力で、彼らを退けることが出来るのか……。そんなことを考えているとセルジュが声を上げた。


「これは決闘だ。もし、この決闘で命を落としたとしても、お咎めなしで良いかね。」


「もちろんですわ!」


「よろしい。では、私はこの決闘に己の進退を賭けよう。私は潔白だが、もし私が負るようなことがあれば、貴様の持ってきた資料をもとに素直に治安維持隊の取り調べに応じよう。貴重なな時間を使ってね。君は何を賭けるのかね。」


「私はネイト=ローズ家の……貴族の誇りを賭けますわ。」


 周りの貴族達がクスクスと笑う。小声で「貴族の誇りって……。」と馬鹿にする者もいる。セルジュもニヤニヤと笑いながら、馬鹿にするようにフェリシアに話す。


「それでは賭けにならないだろう。もっとマシなものを賭けてはどうだい。」


 しかし、フェリシアは真剣な表情のままセルジュを見つめる。フェリシアがどれほどの覚悟で「貴族としての誇り」という言葉を発したのか――それが、庶民の私にも伝わるほど真剣な表情だ……。

 

「貴族の誇りは私にとって、自分の命よりも重いものですわ。お父様、お母様や姉上達……ネイト=ローズ家を支えてくれる人々、多くの人のプライドを背負っております。もし、これが不満でしたら、貴方が望むものを何でも賭けますわ。」


 なおもフェリシアのことを馬鹿にした表情のまま話す。周りの貴族達も、彼女を馬鹿にするような……憐れむような目線を送る。彼ら、貴族達にはフェリシアの覚悟が伝わらないのだろう……皮肉な話だ。


「まあ、私が勝ってからじっくりと考えるとするよ。それで良いかね?」


「もちろんですわ。」


◆◆◆◆


 暴徒達の状況を確認しようと入り口に目を向けると、暴徒達と、その後ろに警備を行っているであろう騎士団員が何人かいる。


 そして、暴徒達と騎士団の間に、ルークがおり騎士団員達と口論をしている。南ギルドから戻ってきて、すぐに”これ”とはルークも災難だ……。


 ただ、何はともあれ、暫くは騎士団の突入無いだろう。そんなことを考えていると、フェリシアがこちらを見る。


「とりあえず、1人任せましたわよ。負けたら承知しませんからね。」


「分かっている。フェリシアこそ、負けたら大変なことになるぜ。」


「全部承知していますわ。でも、暴徒達は命がけで貴族の不正を訴えているんですもの。正しい貴族として、ワタクシ様も、命以上の何かを賭けなければならないでしょう。」


◆◆◆◆


 この部屋に入ってから、ずっと気にかかる……というか鼻につくことが合った。目の前にいるスーツの男の態度だ。


「おい、お前、何か言いたいことがあるのか?」


 先程からずっと、私の方をちらりと見ては伏し目がちに、やる気の無さそうな表情を浮かべている。


 スーツの男に話しかけると、男は心底残念そうな顔でこちらを見つめ、私の方に歩きながら答えた。


「騎士団時代に勇者セツナ=タツミヤの伝説はいくつも耳にしている……。その頃は、貴方に憧れ、是非、手合わせ願いたいと思っていた……。私が研鑽を重ね、身につけた剣技が彼にどこまで通用するのか……是非見極めたかったのだ。しかし、今の貴方は……力を失ったと噂には聞いていたが、正直ガッカリだ。」


「そうかい、でも、お前は今から弱体化した私に敗北するんだよ!」


 私は、相手の右首元を目掛け袈裟懸けに木刀を振り下ろす。今の私が出来る最速かつ最大の力で行う攻撃た。


 しかし男は、左手に持つ大きな盾を、私の斬撃に合わせて傾け斬撃を”いなし”た。私が普段、木刀の峰で行う”いなし”と同じ原理だ。


 そして、体制を崩したところに、右手に持つレイピアで突きを繰り出した。私はいなされた時の動きを利用して身体を捻り避ける。


 正直、今のレイピアの突きを躱しきったのは半分直感だ。「もう一度同じことを行え。」と言われたら正直出来る気がしない。


 どう攻めるか考えている内に、相手が少しずつ距離を詰める。


 そして、相手が間合いに入った瞬間、突きを繰り出した。それも、目にも留まらぬ疾さで何度も繰り出す。周りで見ている人達には、何本ものレイピアで突きを繰り出しているように見えるだろう。


 私は、避けられる突きは回避し、それ以外の突きは木刀で弾いた。致命傷は受けていないものの、2、3発の突きを受け損ない、腕と頬をレイピアが掠めた。


□□□□


 相手は、脇しめ腰を落とし今すぐにでも飛びかかることが出来る構えでどっしりと構えている。しかし、相手の武器がトンファーであれば、私のサーベルの方が間合いが広い。懐に入り込まれたら向こうの方が有利だが、こちらの間合いを保ちつつ、一撃で仕留めれば良いだろう。


 そう考え、相手との距離を少しずつ狭める。


 一足飛びでギリギリ攻撃が届く間合いまで近付いたその瞬間、糸目の男が地面を蹴り縦拳を放つ。私はサーベルを引いて鍔で相手の拳を受けたが、突きの威力が高く体ごと後ろに弾かれた。


 倒れる寸前のところを踏みとどまり、サーベルを構え直そうとした瞬間、目の端で、相手が上段蹴りを繰り出すモーションが見えた。身体を限界までそらし歯を食いしばると、相手の上段蹴りが鼻先を掠めた。


「(今、絶対にやられたと思った……動きやすい格好で本当に良かったですわ……)」


 相手は回し蹴りの勢い利用して、中段の後ろ回し蹴りを繰り出す。私は、それを腕でガードした。しかし、威力が殺しきれず横へと弾き飛ばされ、料理が並べられたテーブルへと突っ込んだ。

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