EP.001 やりこんでいたゲームがサービス終了した。日本しね
やりこんでいたゲームがサービス終了した。日本しね。
……そんな風に八つ当たりしたくなるような気分だった。
「……はあ、とうとうこの日がきちゃったのか」
目の前に展開したメニュー画面。
そこに映る『本日でゲーム〈フロントイェーガーズ〉はサービスを終了いたします』という文字に彼──プレイヤーネーム〝クロウ〟の名を持つ少年は絶望をその顔に浮かべる。
西暦20××年のこと。世の中に全感覚完全没入型VRゲームが出てきて、ゲーム業界は新たな時代を幕開けた。
その中でも特に一世を風靡したのが〈フロントイェーガーズ〉だ。
プレイヤーは人型兵器FOFのパイロット──通称〝
最新型VRゲームとして、そのリアルな造形がなされた人型兵器を駆るアクション性の高さを売りに〈フロントイェーガーズ〉は一世を風靡したこともあった。
……あった。そう全部過去形だ。
〈フロントイェーガーズ〉が人気を誇ったのはもはや過去の話。
いまやゲームは過疎り、PvPのマッチングすら数時間もかかるという有様。
結果、発売から五年たった今日。〈フロントイェーガーズ〉はサービス終了と相成った。
「……なんで、終わっちゃうんだよ。俺の青春……」
またため息をついて、クロウは今日にいたるまでの日々を思い出す。
まだ中学生だったころにはじめて触れてから以来、ずっとこのゲームをやりこんできた。それこそ、一日足りとてログインしなかった日はない。
最初は拙かった操縦も次第にうまくなり、めきめきと腕前を上達させた結果、PvPランキングで世界一位に躍り出るほどにまで上り詰めた。
それなのにこのゲームが終わるということに、クロウは自らの心へぽっかりと穴が開いたような気分に陥る。
「……はあ、このゲームがなくなったら、俺はどうやって生きていけばいいんだ……」
クロウにとって〈フロントイェーガーズ〉で遊ぶというのは呼吸するのにも等しい。
比喩表現ではない。ある種人生を懸けて熱中した物を持つ人間にとって、その熱中した物を取り上げられるのは冗談抜きで呼吸を止められるのと同義の状態に陥るのだ。
ゆえに〈フロントイェーガーズ〉のサービス終了とは、クロウにとって呼吸を止められるのに等しい衝撃を与えた。
それが逃れられないことだとはわかっていても、それでもクロウはその現実を受け入れることがいまだできない。
「せめて──」
ふと、彼は顔を上げた。そうして見やるのはハンガーの最奥。
そこに吊るされる形で鎮座する漆黒の機体だ。
──機体名〈アスター・ラーヴェ〉
一昨年行われたゲーム内PvP世界大会の優勝者に贈られる専用機体。
ゲーム内に登場する最強NPCが乗っていたことで有名な同名の機体を世界大会優勝者用により機動力と武装積載量を高めた世界でただ一つ、クロウだけが有する機体である。
世界大会優勝者用の機体というのもあるが、それ以上にクロウのプレイスタイルともマッチする機体性能からずっと愛用し続けたそんな愛機〈ラーヴェ〉をクロウはジッと見上げた。
「せめて。この世界が終わるその果てまでお前と一緒にいてやるからな。〈ラーヴェ〉」
呟いて、クロウは〈ラーヴェ〉のコックピットに向かった。
背面にせり出すような形である操縦席のキャノピーを開き、複座となったその座席の前側に座ったクロウ。
「ダイレクトリンク」
言葉にすると同時にクロウと機体の体感覚がリンクする。
機体と一心同体となり、自分の体のように操れるようになった愛機を見下ろしながら、クロウはそんな愛機と最後に出撃するミッションを選ぶためシステムウィンドウを起こした。
「さて、どんなミッションを選ぶかな……ん?」
システムウィンドウをスクロールさせていくクロウ。ふと、その時彼は見覚えがないミッションが画面内に存在していることに気づいた。
「……サービス終了に伴う最終高難易度ミッション? へえ、粋なことするじゃん」
どうやら運営は、最後の最後までプレイヤーを楽しませてくれるらしい。
「こんな挑戦状を叩きつけられたら、世界第一位のプレイヤーとして選ばざるを得ないよな~。いいぜ、挑んでやる。その最終ミッションって奴に」
クロウは迷うことなくその最終高難易度ミッションを受領した。
同時にクロウの視界が白く染まる。
ミッションエリアへの転移が始まったのだ。そうして視界が白色に包まれていく中、クロウは舌なめずりしながら顔を上げた。
「どんなミッションでも来い。俺と〈ラーヴェ〉が全部叩き潰してやる」
《ええ、期待しています》
え? とクロウは顔を上げた。
突然聞こえた謎の声。
ゲームのシステム音声とも異なるそれが誰なのか、とクロウが問うよりも先にクロウの体感覚が完全に消失する。
そして──
☆
「──ん?」
気づいたら、クロウはどことも知れない場所に立っていた。
赤茶けた大地。
灰がかった空。
「どこだ、ここ?」
ゲーム内にこんな見た目のマップはなかった。
ゆえに疑問しながら周囲を見渡すクロウ。
警告音が鳴り響いたのは、まさにそんな時だった。
「───⁉」
突然の敵襲。それに驚いて振り向いたクロウは自身へ突っ込んでくる巨大な影を目撃した。
「ガイストだと……⁉」
ゲーム内に登場する半機械、半生命体の敵MOB。それが目の前に突如として現れて突っ込んでくるという事態にクロウは激しく混乱した。
本来ならミッションスタートの合図とともに始まる戦闘が、全くの無警告で行われたのだからそうなるのも無理はない。
そんな状態でも体に染みついた動作からクロウはとっさの回避を選択する。
機体の腰部に備え付けられたプラズマジェットを吹かし、横方向へ回避したクロウ。
ただ驚きに支配されていたクロウの動きは精彩に欠き、彼らしからぬことに機体へその攻撃をかすらせてしまった。
そうして巻き起こるすさまじい衝撃。
「──⁉ なんだ、この衝撃ッ⁉」
VRゲームとしてはあり得ない衝撃だった。本来なら何重安全策が施されたことで、VRゲームでは一定以上強力な衝撃を受けることはない。
しかしいまの衝撃はコックピット内にあるクロウの肉体に痛みを生じさせるほど強く、その事実にクロウの額からは冷や汗が浮かび出る。
「……? 汗? おいおい、現行のVRゲームに発汗の再現はないはずだろ……」
なのに汗をかくという事実。
いや、それだけじゃない。
ほかの体感覚も妙にリアルだとクロウは気づく。
機体とドクドクと鼓動する心臓。
肌の下を走る血液の感触。
それに先ほど受けた機体への衝撃はあまりにも大きかった。
これらの事実を勘案するに、つまりいまクロウの目の前に広がっているのは──
「……現実、なのか……⁉」
予想だにしない事実へ絶句するクロウ。
その瞬間、ガイストがクロウに向かって突進する。
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用語解説など所詮フレーバーテキストです。作者からも読み飛ばすことが許可されています。最終的にはそちらの判断ですが、無理はしない方がいいのでは? 説明は以上となります。作品との繋がりを強くする好機です。悪い話ではないと思いますが。
【〈フロントイェーガーズ〉】
21世紀も半ばを超えた地球にて登場した
人型兵器は当たり前だが人間とは根本的な体の構造が違う上に、人間の肉体にない機構なども意識だけで操る必要があり、これらを高度に操るには高い
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