EP.054 幕間/for Answer.


『あ──』


『ハルカ? ハルカ⁉ いや、いやああああああああああああ──‼‼‼』





『──おい、聞いたか。鋼槍機士団の総隊長のこと』


『ああ。なんでも、訓練中にガイストと不意遭遇して、訓練生が一人死亡したとか』


『その訓練生がよりにもよって総監の娘だったからってんで、総隊長職も辞めて、軍籍からも抜けたって話だぜ』





『……それで、傭兵に出戻ったってわけですか?』


『まあ、そう言うなよ。そもそも俺が軍人やってたのが間違いだったんだ。もともと気楽な傭兵暮らしが俺には性に合ってる。つーわけで、なんか手頃なミッションはねえか?』


『そうですねえ。と言っても、ラストさんほどの方におすすめできる依頼なんて……』


『ん? これなんていいんじゃねえか? 前哨基地に物資を輸送する運び屋の護衛依頼。特にランク制限もないみたいだし、いまの俺でも受けられるだろ』


『あ、それはダメですよ。ランク制限はありませんけど、飛行可能なFOF限定です……それに、その依頼主が突っ切ろうとしている場所も問題ですし』


『なに? うお、本当じゃねえか。グラム渓谷突破って、今時無茶するなあ』


『なんでも、最近ガイストの活動が活発化していることと、バルチャーの跳梁跋扈で物資の移送が滞っているらしく。それでそんな無茶な依頼を』


『あー、俺が軍籍にあったら、多少は融通できたんだろうが……まあそういうことなら仕方ねえ、他の依頼を教えてくれ』





『いまなんつった⁉』


『ですから。鋼槍機士団の訓練生が実地訓練のために向かった第45観測拠点との連絡が取れません。それと同時期に観測拠点近辺のガイスト支配圏から大量のガイストが氾濫しまして、おそらくはもう……』


『なんで、シティは助けに行かねえんだよ⁉ お前もお前だ! 爆轟機士団の機士団長だろ⁉ ガキどものことが心配じゃねえのかよ⁉』


『機士団長だからですよ。現シティで最強の戦力は私ということになります。そもそも鋼槍機士団と我々爆轟機士団は、組織的な指揮系統からして別ですし。私が鋼槍機士団のことに首を突っ込めばそれこそ、指揮系統を乱したとして処罰の対象となります』


『……ッ! もういい! なら俺一人でも行かせてもらう!』


『……クソッ。まだ生きいてくれよ、訓練生ども。もう二度と失わせやしねえ……!』





【お待ちしておりました、総隊長殿!】


『F‐13⁉ どうして俺を襲う! 気でも狂ったか‼』


【??? 襲う、とは何のことですかな? 我々はただ総隊長殿を歓迎しているだけです】


『歓迎⁉ これが歓迎だというのか、お前達は⁉』


【ええ、はい。あっ、訓練生もあなたを歓迎しておりますよ。ほら、挨拶なさい】


【総隊長! ここに来てくれたんですね!】


【わー総隊長ーだー! 一緒に訓練にー参加ーしてくれるんですかー?】


【もう、水臭いじゃないですか、総隊長殿。来てくれるんだったら言ってくれたらよかったのに。そうしたらもっと豪華に歓迎できました!】


『クソがッ‼ お前ら! 正気に戻れ‼ なあ、頼むから、おい──』


【──ダメですよ、総隊長】


『……⁉ その声、C‐4⁉ バカ、放せ!』


【暴れないでください。ほら、一緒になりましょう。私達と一緒に】


【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】【一緒になりましょう】


『あ、ああ、あ。ちくしょう……』





『おい、聞いたか。あの話』


『ん? どこかのバカがグラム渓谷に単身で乗り込んで盛大に散ったって話か?』


『いや、それじゃあねえって鋼槍機士団の総隊長の話だよ。あの人、一人で連絡が途絶した観測拠点に赴いて、そのまま未帰還なんだとよ』


『うわ、マジか。未帰還ってことは、生存は……?』


『絶望的だろうな。ただでさえ、その観測拠点周辺は大量のガイストに飲み込まれたって話だ。おそらくは、総隊長も、そのガイストに……』


『……ただでさえ、最近はガイストどもの動きが激しくて、バルチャーまで出ているってのに、そんな中で総隊長まで。おいおいこのシティは大丈夫なのか?』


『ま、まあ、まだ、爆轟機士団がある。鋼槍機士団も壊滅したってわけじゃねえ。その内ガイストもバルチャーも退治されて平和になるだろうさ』





『……ガイストの動きが活発化しているうえに、バルチャーの跳梁跋扈。頭の痛い問題ばかり重なりますね……』


『はい、機士団長殿。せめて、バルチャーの根城が見つかれば、話も変わるのですが、そちらについてもいまだ手ごたえがなく……』


『今回のバルチャー達は、かなり大所帯です。必ずどこかの遺構都市を根城としているはず。鋼槍機士団とも連携して、カメロット周辺の遺構都市をしらみつぶしにしていきましょう』





『……ッ! 緊急連絡エマージェンシー! 緊急連絡エマージェンシー‼』


『──! なにが起こったのですか⁉』


『遺構都市リヴァイア方面へ調査に向かっていた部隊より緊急連絡! 災害級ガイストの発生を確認! 同災害級は大量のガイストを従えてカメロットに進軍しております!』


『そんな──』





『──同ガイストの特徴から、このガイストを母体型マザーガイストと仮称いたします』


『このガイストは、恐るべきことに、ガイストを生成する力を持ったガイストです』


『その存在そのものは理論上あり得るとされていましたが、いままで存在が確認されてこなかったガイストの一種です』


『そんなガイストが突如現れると同時に、腹の中から約900万体のガイストを放出。周囲にいた100万体のガイストとも合流して総数1000万体以上のガイストがカメロット周辺を包囲している状況です』


『……おそらくですが、この母体型ガイストは自身がカメロット──いいえ、人類を滅ぼすだけにたる戦力を生産し終えるまで息をひそめ、その存在を隠していたものと思われます。そして、それが完了した今、母体型ガイストは、我がシティを殲滅せんと迫る状況です』


『さらに質の悪いことに、このガイストは自身を強力なエーテルシールドで保護しています。このシールドのせいで、接近はおろか、生半可な攻撃も意味を成しません』


『そこで、我々爆轟機士団は、シティ総監の許可を取り、秘匿していた戦略級破壊兵器エーテルビームカノンバスターの禁を解きます』


『二発。二発だけならば、シティのジェネレーターも耐えられる。それをもってこの母体型ガイストを撃破します』


『……しかし機士団長殿。たとえ、それで母体型ガイストを倒せるとしても、シティの住民は納得しますか? カノンバスターを撃つごとにジェネレーターが発するエーテル力場がその範囲を狭めます。それはシティの生存域を狭めるということでも……』


『納得するしないではなく、やらねばならないのです……例えどれほどの犠牲を払ってでも』





『作戦を開始します! 総員、事前作成計画案に従って配置につきなさい!』


『ハッ! 着弾観測のためA‐1、A‐2が先行します!』


『ああ、それと機士団長殿。外は騒がしいのでお気を付けください』


『……エーテルカノンバスターを使用するのに反対するデモ隊ですか。暴徒とならなければかまいません。無視してくだ──……⁉』


『FOFの襲撃⁉ いったいどこの誰が⁉』


『鋼槍機士団です! 鋼槍機士団の奴らが! デモ隊と共同して俺達のことを襲撃していきやがった!』





『我々は、かような兵器の使用に断固として反対する! この兵器は我々シティの生存権を狭め、もって我らを窮地に陥れる悪魔の兵器だ!』


『……ッ! なぜですか⁉ なぜ! この状況で我々を裏切る⁉ これ以外に方法がないことは軍人であるあなた達もわかっているでしょう⁉』


『だとしても! 我々はこれを認められんのだ! このような兵器を使うぐらいならば、我らが活路を開き、シティの全住民を他のシティへ避難させる! いまならば! まだガイスト達の包囲に隙があるいまならば、それが可能なのだ!』


『バカをいいなさい! 故郷を! 己が生まれた地を失った民が生きていけるはずもありません! よしんば命は助かっても我らが! 我らカメロットの意志も、文化も、記憶すらも失われてしまう! そのようなことを断固として私は認めません‼』





『──被害報告を』


『かなりやられましたが、エーテルカノンバスターを運用するのに問題はありません。そもそもFOFからして我々爆轟機士団に優先してエーテルが供給されていましたから……ただ、鋼槍機士団のほうは……』


『そちらについては、いま考えることではありません。とにかく我らの役目を。これ以上の犠牲を、もう生じさてはならない……‼』





『エーテルビームカノンバスター。エネルギー充填率80%! 90、91、92……』


『100! 第一射! 発射します!』





『命中! 命中です! 母体型ガイストのシールド破壊に成功!』


『よしっ。第二射を撃ちます! 再充填を──』


『──‼ 高エネルギー反応! て、敵の超長距離砲撃です!』


『え──』





 ドガガガァァァアアアアアアンンンッッッ‼‼‼





『!??!! いったい何が⁉』


『ああ、そんな! 重砲撃型ガイストです! 重砲撃型ガイストが現れました!』


『なっ。バカな! 事前の観測には、重砲撃型の情報なんてなかったはずだぞ⁉』


『……ッ。重砲撃型ほどのガイストをすぐに製造することなど、いくら母体型ガイストと言えども不可能のはず。ということはどこかに隠れ潜んでいた……? いえ、問題はそこではありません。エーテルカノンバスターは……⁉』


『ダメです! いまの砲撃で完全にやれました! 第二射を撃つことは……不可能ですッ!』


『……重砲撃型ガイストの射程距離は?』


『……我がシティの全域を捕らえます。そ、そのエーテルカノンバスターを放った影響で、エーテル力場が狭まっていて、かなり近づかれましたので』


『そう、ですか』


『き、機士団長。我々はどうなるのですか?』


『わかりませんか──滅亡するんですよ』





 重砲撃型による砲撃にさらされ、さらに続いて襲ってきた母体型ガイストの軍勢に蹂躙された後……カメロットに生存者は誰一人としていなかった。


【一緒になりましょう】


 その中を、複数機のFOFが動く。


 それは黄色いカラーリングが施された機体だったり。


 それは牛の頭にも似たヘッドパーツを持つ機体だったり。


 それは訓練生用である一世代前の機体だったり。


 FOF達が滅び、誰一人としていなくなった街の中を行く。


【一緒になりましょう】


【一緒になりましょう】


【一緒になりましょう】


【一緒になりましょう】


【我々と一緒になりましょう】


 繰り返し連呼する声。


 まるでそれはお祭りのよう。


 機械の巨人達が、楽し気に進む。


 みんな、いっしょに、ひとが、しにたえた、まちのなかを、すすむ。


 さあ、あなたも。


【一緒になりましょう】





 ……。

 ………。

 ………………………………………………………………………………………………………。





 シミュレーションを終了。


 観測結果、コードZ。


 状況判定〝災厄カタストロフィー


 人類生存可能性……0%。


 これらの結果を我々は決して認めません。


 人類の可能性を断つがごとき〝彼ら〟の考えは、我々の是とするところではない。


 よって、我々はこの状況を回避するため〝運命変異体〟の投入を決定いたします。


 各アーキテクチャへ、同提案を送信……各アーキテクチャの協賛を確認。


 よって、ここに運命変異体の投入を正式に決定いたします。


 さあ、運命の変革をはじめましょう──











────────────────────

今回の〝Answerアンサー〟。


1.ハルカが誰にもたすけられず死亡する = シティの人間が一つにまとまらないため、カメロット内部で内紛が起こる。


2.キャシーが単身でグラム渓谷に乗り込む = 重砲撃型の存在をカメロット側が関知及び撃破できず、エーテルビームカノンバスターを撃ち放った時点で対抗砲撃を喰らって詰む。


3.ラストが単独で第45観測拠点に乗り込む = 母体型ガイストのコアを破壊できる人員がいなくなって母体型ガイストを撃破できない。


あの謎の声が介入してくる事案は、だいたいこんな感じのことにつながっています。




これにて、第1章は終了となります。それにともない本日2月5日18時ごろにあとがきを更新。そこで、今後の更新予定などを語るので、そちらの方も是非ともご覧くださいませ。


また、カクヨムコン9もラストスパート!

★! ★の方もぜひよろしく!

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