EP.053 ワタリガラスが飛び立つ日・下

いつから君は、作者が土日のどちらかに更新すると錯覚した?


カクヨムコン9ラストスパート! 〝★〟を! 一つでもいいから〝★〟をよろしくお願いしまーーーすッッッ!

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「──それで、本当にこんな形になってよかったの?」


 シティ外縁。


 そこで出立の準備を進めている中、キャシーからそのような問いを発されて、クロウは顔を上げた。キャシーを見ながら彼は首をかしげる。


「よかったって……なにが?」


 本気で分からない、というように眉を顰めるクロウへ同じく搬出作業を進めていたキャシーが心底から呆れたというように半眼を向けた。


「だから、いいのかって聞いているのよ」


「……ああ……」


 ようやくクロウはキャシーが言いたいことを理解する。


「いいんだよ。これからの旅はきっと危険が伴うからな」


 今日、クロウはシティ〝カメロット〟から旅立つ。


 理由は、もちろん先日の謎の声。


 あれが示した新たなる〝導〟の先へ至るためだ。


 そのために運び屋であるキャシーの護衛ミッションという形をとって傭兵ギルドから依頼を受け、カメロットから出て行こうとしているクロウ。


 しかし、その隣にハルカの姿はない。


「ハルカは、この街の住民で、この街に住んでいる方が幸せな人だ。そんな人をともすれば、今回の母体型ガイスト以上の脅威が待っているかもしれない場所になんて連れて行けるわけがねえじゃねえか」


 がりがりと後頭部を掻きながらクロウはそんな呟きを漏らす。


 母体型ガイストとの戦いで身に染みたが、あの謎の声がクロウにやらそうとしている【最終高難易度ミッション】とやらは、確実にろくなものではない。


 きっと母体型ガイストとの戦いすら可愛く見えるほどの脅威がこの先にも待っているのだろう──自分はともかくとして、そんな戦いにハルカを巻き込むのは気が引けた。


 そう呟くクロウを、一度ジッとした眼差しで見た後、肩をすくめるような動作をして見せるキャシー。そのまま彼女はクロウを見やり呟く。


「ま、気持ちは分からなくもないけどね。特にいまのあの子は〝シティの英雄〟だから」


 言って、キャシーが顔を上げる。彼女が見やる先、そこには投影された立体映像があり、それを画面としてある報道番組が放送されている。


『本日は、シティを救った英雄ハルカ・エーレンベルクさんについて特集します!』


『彼女は現シティ総監ベリウス・エーレンベルク氏のご息女として生まれ、幼少よりその類まれな才覚を発揮。一時は鋼槍機士団のFOFパイロット訓練生でもありました』


『そんな彼女ですが、任期途中で訓練生を辞し、傭兵へと身を転じます。そこでも優れた才覚を発揮した彼女は、数々の英雄的な活躍を残し、ついには母体型ガイストを──』


 尾ひれ背びれその他もろもろついてもはや原型も残していないほどの内容でハルカのことを褒め称える報道番組に、クロウは思わず呆れた眼差しになってしまう。


「あんな扱いだ。どっちにしろ、ハルカのことをこのシティが放さないだろうぜ」


 クロウの言う通り、ああして英雄扱いされるハルカを誰が手放したいと思うか。


 仮にクロウが共に行こう、とハルカに告げても、シティ側がそれを許さないだろうことは想像に難くなく……それを考えてクロウは秘密裡に出立するという選択をした。


「そうはいうけどね、クロウ。このご時世、多少刹那的に生きても、文句を言われることはないと思うわよ、私は」


 クロウを見やりながら、そう告げてくるキャシーにしかしクロウは首を左右に振って、そんな彼女の言葉を固辞する。


「……俺は、多少身勝手に生きているが、それでも自分で責任を負えないようなことをしたくはねえんだよ」


 ハルカにはハルカの人生がある。


 そんな彼女の人生をクロウの我儘で台無しにすることはできなかった。


 クロウがそう告げるのに、彼の横顔を見ていたキャシーは「ふうん」と口にして、


「ま、どっちにしろ。ご愁傷様、とは言っておくわ」


 などと意味深なことを言うので、思わず怪訝な表情になるクロウ。


「??? おい、それってどういう意味──」


 だよ、と言いかけて、しかしクロウの言葉はそこで止まる。


 クロウの目の前へカーゴベイがやってきたからだ。


 内部にクロウの愛機であるXTM‐001WC〈アスター・ラーヴェ〉を格納しているカーゴベイ。それがやってきたのに、クロウは一度会話を止めそちらへと視線を向けた。


 カーゴベイの中から愛機を出し、そのままキャシーと共に旅立つ……続きはその道中の暇つぶしがてら聞けばいいだろう。


 そんな風なことを想いながらクロウはカーゴベイへ向かい、


「来たな、それじゃあさっそ──……ッッ⁉」


 瞬間、クロウにとって予想外のことが起こった。


 カーゴベイの格納扉が開くと同時、あろうことか一人でに〈ラーヴェ〉が動き出したのだ。


 もちろん〈ラーヴェ〉には自動操縦機能は存在しない。

 動かすには中にパイロットを必要とし、それにはまずポータブルデバイスPDでの正規認証を行わなければならないはずだった。


 この場合〈アスター・ラーヴェ〉を動かせるのは正規パイロットであるクロウと──


《わっ、ととと。初めて操縦しますが、かなり敏感な設定になっていますね⁉》


 声。


 愛機の内側から響いてきたそれはクロウにとっても聞き覚えのあるものだ。


 春風のように軽やかで、美しく響くその女声は──


「ハルカ⁉」


 まさかのハルカだった。


 なぜかわからないが、彼女が〈ラーヴェ〉を操縦している。


《はい、どうも、クロウさん》


 言いながらクロウの目の前に立つ〈ラーヴェ〉


 そのまま〈ラーヴェ〉の背面にあるコックピットブロックがキャノピーを解放。


 中から、少女が立ち上がり、その銀色の髪を風になびかせる。


「クロウさん。ひどいですよっ。私を置いて行こうとするなんて!」


 眼下のクロウへ向かって、そう不満を口にするハルカ。


 頬を膨らませて顔いっぱいに不服を露わとするハルカにたいし、クロウはしかし困惑の表情を浮かべた。そのままクロウは頭上、愛機のコックピットに立つ少女を見上げる。


「い、いや、だけどハルカは──」


「──シティの英雄だから、ここから出られないとでもいうつもりですか?」


 クロウの言葉を遮って、そう告げてくるハルカ。


 図星なそれに思わず言葉を詰まらせるクロウへ、しかしハルカはため息をついて見せ、


「確かに、シティは私を放したくないでしょう。仮にもシティ総監の娘ですし、シティを母体型ガイストから救った人間として恰好のプロパガンダ素材だとは思います」


 ですけど、


。私が進む道は、私自身が決めます」


 それは、ハルカがかつてクロウから教えられたこと。


 自分を意識する。


 クロウのその教えはしっかりとハルカの中に根付いていて、だからこそ彼女は自分がなすべきことを誰に教えられるでもなく理解していた。


 ゆえにクロウの前に現れたハルカは〈ラーヴェ〉の膝をつかせる。


 そうして、クロウが乗りこめる位置まで機体の位置を下げて、ハルカはその手をクロウの方へと向けた。


「クロウさん。私は、あなたについていきます。あの声や、導き……そういったものもそうですけど、それ以上に私はあなたと共に行きたい」


「───」


 驚きに目を見開くクロウ。


 そんなクロウの瞳を、ハルカは真正面から見やった。


 少女の蒼い瞳とクロウの黒い瞳が交差する。


 刹那とも永遠とも思える見つめ合いの果て──結局、降参したのはクロウのほうだった。


「ったく。どうなっても知らねえぞ」


「覚悟の上です。なんたって私は、あなたのオペレーターなんですから」


 ハルカの返しにクロウはまた苦笑しながら、彼女の待つコックピットへ乗り込む。


 見れば、眼下でキャシーがニヤニヤとした笑いを浮かべているので、どうやらこのことに彼女も協力したらしいと気づいて、やれやれ、とクロウは首を振った。


「それじゃあ、行こうか、ハルカ」


「はい。クロウさん、行きましょう」


〈アスター・ラーヴェ〉が立ち上がる。


 クロウとハルカを乗せた漆黒のFOFは地面へとしっかりその足を立て、全身にAPRAの鎧をまとった。


 HbEによって姿勢制御をしながら確かな一歩を踏み出す〈ラーヴェ〉


 出力安定。


 各種機能、オールグリーン。


 右腕エーテルビームマグナム、左腕エーテルビームライフル、共に機能に問題なし。


 右背面、八十七式極型霊光刀〈白虹〉安定状態で待機。


 左背面、三連エーテルビームランチャーも全弾の装弾を確認。


 腰部エーテルプラズマジェットスラスター、充填完了。


 準備は完璧。


 メインシステム。戦闘モード起動。


「XTM‐001WC〈アスター・ラーヴェ〉発進する!」


 叫び、そしてクロウは飛びだった。


 遥か空の果て、その先にある新たなる新天地へ。


 ワタリガラスが、その漆黒の両翼を広げ、羽ばたく。



































































































































































































     ★






 ……同時刻。


 クロウとハルカがシティ〝カメロット〟を出立したのとまったく同じ時間、カメロットの総監にしてハルカの父であるベリウス・エーレンベルクは、とある場所へと訪れていた。


「………」


 そこはカメロットの中でも特に地下深くに位置する場所だ。


 代々の総監達を含め、カメロットでも極少数しか存在を知らないその場所。


 ベリウスは、専用エレベーターに乗ってそこへ共も連れずにやってきては、一人暗闇に染まった空間の中を歩く。


 カツン、カツン、という硬質な足音だけがその空間に響いた。


 しばし歩いたベリウスは、そこで、この空間ただ一つの光源を見る。


 緑色に光る水晶体。


 高密度エーテル結晶体と呼ばれるエーテルを極限まで濃縮して創り出されたこれは、現生人類の技術ではどうやっても砕くことのできない史上最硬の物質だ。


 空間の最奥に安置された、その前へとベリウスは歩いていき、ただ一人、そんな緑色に輝く結晶体を見上げる。


「……娘は行ったぞ」


 ポツリ、とベリウスがそのような声を漏らした。


 答える者なき空間で、しかし誰かへ語り掛けるように彼は言葉を紡ぐ。


「これもお前達の望みか? あのような少年を導き、娘と共に何をさせようとしている?」


 ベリウスの問いに、当たり前だが返答はない。


 ここにはベリウス以外の生者はなく、ゆえに彼の言葉はむなしく響いては空間の中で反響し溶けていくだけ。


 それなのに、ベリウスは目の前に確かな意思を持つ存在がいると確信しているようだった。


 彼が見やるのはエーテル結晶体。


 緑色をした、それには、しかしそれ以外の『ナニカ』が埋まっていた。


 それはFOFだ。


 全長10mに達する巨大な鉄の巨人。


 まるではりつけにされるようにして、結晶内部に埋め込まれたそのFOFは、上半身だけを露出させ、右わき腹から伸びる情報収集用のプラグがさながら槍のように突き立てられていた。


 ベリウスは、そんなFOFを見上げ、コックピットごと結晶に埋まっているため、パイロットがいないはずのそれへ、静かに語り掛ける。


「答えぬか。私にはその資格がない、とお前達は言いたいのだな」


 告げてベリウスは睨んだ。


 唯一の光源たるエーテル結晶の中にいるFOF──〝〟輝くその機体を。


 彼は強い意思を宿した眼光で、その黒いFOFを睨み。


 その名を告げる。





「──〈〉」










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後1話、おまけの話を更新して、第1章は終了となります!


カクヨムコン9ラストスパート! とにかく〝★〟を! 〝★〟を一つでも多くくださいやがれですわよこのやろー!

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