EP.052 ワタリガラスが飛び立つ日・上
カクヨムコン9もラストスパート!
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かくして、シティに平和が訪れた。
「パーティ、パーティ、またパーティ……! いくらシティを救った英雄だからって、こんなに引きずり回すんじゃねえ──‼」
夜半。星々が輝く夜空の下で、そんな絶叫をクロウは上げる。
クロウは現在、連日にわたりパーティへ参加する羽目になっていた。
それもこれも母体型ガイストを倒した立役者。シティ総監の娘と共に脅威へ立ち向かった英雄という立ち位置ゆえだ。
美しきお姫様と共に、人類滅亡の驚異へ立ち向かった勇士……人々の好奇心をくすぐるにはこれ以上の題材はないだろう。
おかげさまでクロウは別にカメロットの人間というわけでもないのに、ここ数日ずっとパーティに呼ばれては、そんなに得意ではない愛想笑いをたたき売りする日々を憶いる羽目に。
とはいえ、さすがのクロウも我慢の限界を迎え、いましがたこっそりとパーティ会場から抜け出してきたところだった。
「はあ、疲れたあ。FOFを乗り回してえ」
ため息交じりに辟易した想いを吐露しながらクロウは頭上を仰ぎ見る。
そうして夜空へとクロウは視線を向けた。
地球にもよく似た、でもどこか違う星々の瞬き。
中でも空の一点でひときわ大きく輝く星へクロウはその両目を向ける。
「ずいぶんと大きく輝いている星だな。あれはいったい……」
「──
と、そんな声がクロウの横から割り込んできた。
振り返ったクロウは、そこで夜空になびく銀色の長髪を見る。
「ハルカ」
「はい、こんばんは、クロウさん」
微笑を浮かべ、クロウの隣に立つハルカ。
同じくパーティに参加していた少女は、どうやらクロウを探してこんなところまでやってきたらしい。
そうして並び立つハルカをクロウはちらりと横目で盗み見る。
ずいぶんとおめかしをしていた。
少女が身に纏うのは濃い藍色のドレス。
胸元の白いコサージュが特徴的なその衣服は、彼女の整った体型を美しく際立たせており、大きく開いた胸元が、これで十代の少年であるクロウをして目に毒と思わせるほどだ。
少女の相貌も美しく化粧が施されており、ただでさえ美人な少女が、これまたひときわ美しく見えて、なぜだかクロウはドギマギとしてしまう。
「あー、すまんな。勝手に抜け出して」
「いえ、かまいません。そもそもクロウさんを無理やり連れてきたのは私達のほうですから」
苦笑を浮かべてそう告げるハルカ。
彼女の言う通り、このパーティはすべてカメロット側の事情。総監の娘であるハルカはともかく、流れの傭兵であるクロウには本来関係のないものだ。
「私は一応名家の娘としてこういったパーティには慣れていますけど、クロウさんは大変でしょう。多少抜け出すぐらい、責めはしませんよ」
「……そうだな。うん、ありがとう」
ハルカとしては、クロウの罪悪感を解消する目的で告げた言葉だったのだろう。
だが、その言葉がクロウとハルカの間にある見えない壁を表しているようで、クロウはなぜだか寂寥にも似た思いを抱いた。
(……そろそろ、ハルカとも別れの時が近づいているな)
名家の娘にして、シティを救った英雄の一人。
いまやそんな立場にいる彼女は、もうこのカメロットを出ることはかなわないだろう。
一方のクロウは、傭兵だ。
FOFに乗り、ガイストを倒してその日の食い扶持を稼いでいるような自分と目の前の少女は、そもそも根本的な身分が違いすぎる。
彼女が軍を辞めさせられ、あらぬ傭兵団に所属しようとしていたから代わりに雇い入れて始まった関係。
だが、その必要もなくなった現在では、もはやハルカと一緒にいる理由もない。
それがなぜだか寂しくて、そう思う自分にクロウは苦笑を浮かべる。
「ハルカ。俺達はどこまで行っても仲間だよな」
「……? ええ、もちろんです」
ポツリと呟いたクロウの言葉に、ハルカが首を傾げながら頷きを返すのでクロウはそんな彼女の蒼い瞳を見やって微笑む。
それが起こったのは、まさにその時だ。
「──来たか」
時間が、止まる。
夜闇の中、舞い落ちた木の葉が空中で停止していた。
遠くパーティ会場から響いていた旋律が途中で止まり、あたり一帯を静寂が支配する。
クロウにはこの現象に覚えがあった。
この世界にクロウを導いた謎の声が話しかけようとしているのだ。
「さて、今回はなにを言ってくるかな──」
「──⁉ クロウさん、これはいったい⁉」
声が響いた。
ただし、それは謎の声じゃない。
クロウの隣、そこに立つ少女の声だ。
「え──」
驚いてクロウが振り返る。
一方、ハルカの方も、そんなクロウを見返して混乱の眼差しをクロウへと向けていた。
「く、クロウさん。時間が……⁉ 時間が止まっています⁉ いま、私達にはいったいなにが起こっているんですか⁉」
突然の状況に理解が追い付かないのだろう、ハルカがそう取り乱す一方でクロウとしても時が止まった世界の中でハルカだけが動いているという状況に混乱していた。
「は、ハルカさん。この中で動け──⁉」
るのか、と言う言葉は、しかし最後まで言えない。
その前に、クロウ達へ語り掛けてくる声が生じたからだ。
《あなたたちへ告げます》
謎の声。
クロウを導いたその声が、クロウだけでなく、ハルカにも話しかけてくる。
《かくて【最終高難易度ミッション】
突如響いたその声になぜだかクロウもハルカも声が出せなくなって、ただただその声に聞き入る。そうして地上にて自身の声を聴く二人へ一方的に謎の声はそれを告げた。
《よって、我らはあなたたちへ続く特異点へ至る道を示します》
声が告げると同時、夜空に赤色のオーロラが発生する。
それは巨大な導となって、ある方角へと向かって伸びて行った。
東の方角だ。その方向を示した謎の声。
《エリュシオン・ラインへ至りなさい。そこにてあなたは──あなたたちは自らの運命を
謎の声がそれを告げたのを最後に、時間が再び歩み始めた。
木の葉が落ち、演奏が再開する。
赤いオーロラも消え去った後、クロウとハルカはただただ呆然と夜空を見上げるしかなく。
夜空の一点で、旅人達を導く導星だけがただ、その輝きを放っていた。
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カクヨムコンもラストスパート
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