EP.003 無双、無双、無双!
《──
クロウの返答にそんな困惑の声が返ってくる。
(あれ、こっちではFOF乗りをそう言わないのか……?)
コックピットの中でそんな風に疑問して首をかしげるクロウ。
だが、それを聞き返すよりも先に、別の声がクロウの通信に割り込んできた。
《所属不明機。こちらはシティ〝カメロット〟所属の鋼槍機士団、コールサインF‐1〝ホーネット〟だ。まずは部下を助けてくれたことに心からの感謝を──》
通信に割り込んできたのは、眼下に展開するFOF部隊の一人。
多くの機体の中でも特に目立つ黄色いカラーリングが施された機体からだった。
《──ただ、和やかに会話をという状況ではない。すまないが、所属不明機。我々を助けたついでに、周囲のガイスト掃討を手伝ってほしい。もちろん、報酬は出す》
その頼みに、ふむ、と頷くクロウ。
正直、先ほどの重装甲級との戦闘で失われたAPRAの回復がまだだ。
この状態で戦闘をおこなえば、一発の被弾で即撃墜という事態にもなりかねない。
己の危険性と眼下で助けを求める人々とを天秤にかけ、その上でクロウが下した判断は──
「──わかった。報酬、期待しているぜ」
迷いは一瞬。決断は瞬時。
気負いもなく返答して、クロウは愛機〈アスター・ラーヴェ〉を加速させた。
腰部のプラズマジェットが噴射され、青白い炎をたなびかせながら瞬時に目の前で展開していたガイストへと肉薄。
目の前に展開しているのは
そんな軽戦車型とすれ違いざまに両手武装からビームを吐き出したクロウ。放たれたビームは精確に軽戦車型の装甲が薄い箇所へ着弾し、そのまま爆発四散させる。
「次ッ‼」
吠えて、さらなる敵へと向かって加速するクロウ。
迫ってきたのは
両手にカマキリの鎌のような刃を備えたそのガイストは、重装甲型と同様にFOFにたいしてかなりの脅威となる。
そんな近接攻撃型が、迫ってくるのにクロウはしかし臆せず接近。振り下ろされた鎌をかいくぐり、すれ違いざまにライフルを連射することで撃破。
《すげぇ》
《なんだ、あの機動》
鋼槍機士団のFOF部隊もそれを見て唖然とした声を出す。
「まだまだ!」
腰部のスラスターを吹かし空中で反転。
突っ込んでくる重装甲型を新体操選手よろしく身を捻ることで避け、そのままとった背後にマグナムの弾丸をぶち込んでやった。
ただガイストもそれを黙ってみているわけではなく、重装甲型を囮にクロウを包囲した軽戦車型が機銃の斉射を浴びせてくる。
「ひゃあ、怖い!」
クロウの機体はAPRAがすでに30%を切っている。ただでさえ装甲防御が薄い機体である以上、一撃でも貰えばそれで致命傷だ。
落ち着いて機体の体勢を制御したクロウは、そのまま機体腰部のプラズマジェットを吹かし──前へ向かって回避する。
まさかクロウが前進するとは考えていなかったのか、ことごとく機銃が外れ。それに慌てふためくガイスト達。
「はは、俺が前へ向かうのは予想外だったか? なら、これを喰らえ!」
背面左肩武装を起動。
三連装ビームランチャーが左肩で起こり、そうして銃口を展開する軽戦車型へと向けたクロウはそれを一気に放った。
エーテルビームの拡散爆発。それによって軽戦車型がいっきに葬り去られる。
なんとか回避した運のいい個体もクロウのビームライフルとビームマグナムの餌食となり、一瞬にしてクロウを包囲していた輪が砕け散る。
「いいね、いいね、いいねえ──‼」
だんだんノッてきた。
さらに戦闘速度を上げる。
腰部プラズマジェットを吹かし、急加速。
ゲーム内最速を誇った超機動力でガイストの群れへと突っ込み、すれ違いざまに右腕エーテルビームマグナムと左腕エーテルビームライフルを乱射。
そうしてガイストを複数体撃破すると、続いて背面より奇襲してきた近接戦闘型の斬撃を鋭角的な機動で回避し、ビームランチャーによるビームで返り討ちに。
「アハハハハハハハハハハ!」
楽しい。すっごく楽しい。
久しく忘れていた感覚だ。
この脳の奥底、人間の本能ともいえる部分を強く刺激する感覚。
俗に闘争心と呼ばれるそれが激しく励起され、クロウの全身を支配していく。
そうだった。自分は、この感覚に魅了されたのだ。
この闘争心を強く刺激される感覚。それをゲーム〈フロントイェーガー〉はくれた。
それまで灰色だった人生に彩りが生まれたのも、クソみたいな人生が最高の生きざまになったのも、ぜんぶぜんぶぜんぶ、この闘争心のおかげだ。
「──ああ、俺はいま呼吸している」
体力は僅少。敵の数は膨大。
だが、それがいい。これこそクロウが求めていたものだ。
迫る重装甲型を撃破。軽装甲型は両手武装の一斉射で掃討。奇襲してきた近接戦闘型の斬撃をかいくぐり、ビームの一撃をお見舞い。クロウは次々とガイストを殲滅していく。
「ここが、俺の戦場だ!」
叫び、最後の一体となったガイストへと銃口を突き付ける。
哀れな被害者は軽戦車型。
同胞を殺しつくされてもなお、抵抗の意思を見せるそいつへクロウは最大の敬意を込めて、エーテルビームマグナムをフルチャージでプレゼントした。
爆発四散。
☆
《……正直、予想以上だな》
戦闘終了後、〝ホーネット〟からそんな通信が入る。
振り返れば、彼もクロウと同じくガイストを殲滅し終わった後で、そのイエローカラーの機体がクロウのすぐそばへと着地した。
《実力だけだったら、いますぐ我が機士団へ勧誘したいぐらいだぞ。一体君は何者なんだ?》
「あー、まあ。流浪の傭兵ってことで」
誤魔化すようなことを言うクロウに〝ホーネット〟がメインカメラを向けてくる。
《ふむ? まあ、詮索はよそう。その代わり、この後もしばらく手を貸してもらいたい。私は私の部下達を安全にシティまで届ける義務があるのでね》
言って、〝ホーネット〟が見たのは装甲をひしゃげさせて倒れ伏す機体だ。
クロウがこの戦いに介入する発端となったその機体。しかしそれはまだ内部にパイロットを残したまま、倒れ伏すそれを見て言う〝ホーネット〟に、クロウは気前よく頷いた。
「わかった。その依頼を受けよう……報酬は弾んでくれよ?」
《ハッ。いいだろ。吝嗇な主計科連中を脅してでも報酬は出させる。だから俺と俺の部下達を守ってくれ──
「おう、契約成立だ」
そんな風に言葉を交わし合ってクロウと〝ホーネット〟は倒れ伏す機体へと向かった。
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やあ、ご友人。もしよかったら、☆、♡、フォローをお願いできるだろうか。ああ、ありがとう。あなたは素敵なプレゼントを私に送ってくれる……花はどこだ。手向けなければ。
【ガイスト】
超古代機械文明が大崩壊以前に運用していたとされるエーテル無人殲滅兵器。コアと呼ばれるエネルギー源にエーテルナノセルと呼ばれる細胞レベルの大きさをしたエーテル製ナノマシンを纏わせることで、機械でありながら生物としての性質をも併せ持つこととなった兵器であり、現行人類にとっての最大の脅威。
なまじ数が膨大なので、完全な駆除は不可能。一方でエーテルナノセルの性質上、シティが持つ大規模エーテルジェネレーターのエーテル波動に弱く、シティ周辺では活動できないという弱点がある。この性質のおかげで人類はシティにいれば、ガイストに襲われないが、逆に言えばシティから一歩でも外に出ればガイストの襲撃を受けるというような状況で、人類が勢力圏を広げられない原因の一つとなっている。
このガイストの存在が大崩壊を引き起こしたとも、逆に大崩壊を終わらせたとも言われるが真偽は不明。超古代機械文明はなぜこのような存在を作ったのか、そしてその文明が失われた後もなぜガイスト達は活動し、人類を襲い続けているのか、その真相はもはやだれにもわからない。
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