EP.002 導
ガイストが突進を仕掛けてくる。
そんなガイストの種別を見てクロウが叫ぶ。
「
正面から側面までを装甲で覆われたガイストだ。
突進するしか能のないガイストではあるが、その装甲はこちらの駆るFOFの武装をもってしても抜くことは難しい。
ゲーム中でも最序盤の強敵として登場したガイストの突進に再度クロウは回避を選択。
だが、まだ本調子じゃないクロウはその突撃すらも装甲をかすり、手痛い一撃を貰う。
《──
「ああ、この紙装甲‼」
愛機〈アスター・ラーヴェ〉の弱点だ。
機体を守るアクティブフェイズリフレクション装甲──APRAと評され、ゲーム中においては事実上HPの役割を果たすそれが、この〈ラーヴェ〉は極端に低い。
その分の出力を機動力に割り振ったという設定であり、ゲーム時代は防御力と引き換えにゲーム内最高の超機動力を得るという形でバランスをとっていた設定。
だが、それが現実となると意味が大きく変わる。
「──やべ、俺、死ぬかも」
想像通り、この世界がもし現実となった世界ならば機体の撃破が意味することは一つ──搭乗者たるクロウの〝死〟だ。
ゲームならば機体が撃破されても、それはミッションの失敗というだけのこと。
だが、それも現実となれば機体が撃破されるということはそのまま中に乗る搭乗者の死をも意味するということ。
おそらくこの世界にコンティニューなんて便利なものはないだろう。
「はっ──」
ブルリ、とクロウの体が震える。
目の前に迫った死。
その圧倒的な現実を前に、クロウは恐怖した──のではない。
「はっ、ははっ。はははははは──最高ッじゃねえか、それッッッ‼」
大歓喜。
そう表現するべき感情がそこにあった。
「なめんじゃねえッ。こちとら、ストーリーモードをノーダメクリアしてんだぞ。そんな俺がいまさら、重装甲型ごときに後れを取るかよ──‼」
吠えると同時に、クロウは機体腰部に接続されたプラズマジェットを噴射した。
二次元推力偏向ノズルが、盛大にプラズマの青白い炎をたなびかせ、機体を加速させる。
瞬間的には音速を超えクロウが駆る〈ラーヴェ〉が向かうは重装甲型ガイスト。
あろうことかクロウは真正面からガイストに突っ込んでいったのだ。
もちろん重装甲型ガイストもそれを見逃さない。
クロウの加速に合わせるようにして重装甲型が突進を開始する。
真正面から互いに突っ込んでいく両者。
そうして激突するか思われた──その直前。
「おらっ!」
プラズマジェットを駆動させて足元へ向かって噴射。
そうすることでクロウは〈ラーヴェ〉を上方へと向かって跳躍させることにより、ギリギリで重装甲型の突進を回避した。
今度はかすりすらせず、重装甲型の頭上を通過したクロウ。
そうして重装甲型とすれ違ったクロウはそのままガイストの背後を取り──
「──重装甲型の弱点は、後ろ‼」
唯一、重装甲型の中で装甲がされていない背面。そちらへとクロウは右手に握ったエーテルビームマグナムを突き付ける。
フルチャージした極太のエーテルビームが重装甲型の背面へ突き刺さり、爆発四散させた。
そうして、ガイストを撃破したクロウは、地面に着地する。
激しい戦闘で加熱した機体を空気噴射で冷却しながらメインカメラを頭上へ向けたクロウ。
「……さて、ガイストに勝ったわけだけど……これからどうしようかな?」
ポツリ、とそんな呟きをクロウは漏らす。
「そもそも俺って最終高難易度ミッションとやらを受領してこの世界に来たわけだよな? つーことは、そのミッションとこの状況は関連があるわけで……」
《──あなたに告げます》
声。
突然響いたその声にクロウが顔を上げる。
そんなクロウへ向かって、女性めいた謎の声がこんなことを告げてきた。
《
「え、は? 導ってなんのこと──?」
一方的に告げられた言葉に戸惑うクロウ。
異変が起こったのはまさにその時だった。
「───」
クロウの頭上。
〈ラーヴェ〉のメインカメラ越しに、クロウは頭の上で赤い光を見る。
それは瞬く間に、面積を増し、さながら赤色のオーロラと言った風になると、その赤色のオーロラはとある方角へと向かって急速に伸びて行った。
「……なるほど。あっちへ行けってことか」
あの赤いオーロラが謎の声が言う〝導〟ってやつなのだろう。
それはつまり、クロウが受諾した【最終ミッション】とも関連のあるものだということで。
「まっ、とりあえず行けばわかるだろ」
言ってクロウは機体を浮遊させる。
そうしてクロウは愛機〈ラーヴェ〉を
さながら戦闘機といった見た目となった愛機を飛翔させ、クロウは示された方角へと向かって飛行を開始する。
その先へ何が待っているのか、そんな期待に自分の胸を躍らせながら──
◇◇◇
「んで、かれこれ一時間は飛行しているわけだけど……」
飛行モードで上空を飛翔しながら一時間近く。
すでに赤いオーロラは消え去り、見る影もないが、それ以外の手がかりがない以上、クロウとしては示された方角へと向かって進む以外にないわけで。
「どうすっかねえ、これ」
さすがにこれ以上の飛行は肉体も機体も負担になる。
いったん地上に降りるべきか、と悩みだすクロウ。
「ん? なんだ?」
ピーと言う音を立てて、レーダーがなにかを感知した。
見やると地上にガイストの大群がいるらしいと表示される。
その情報に基づいてクロウは眼下へと視線を向けた。そうして彼が見たのは、無数のガイストと、それに取り囲まれるFOF達だ。
「あれは……戦闘しているのか?」
どうやら眼下ではFOFの部隊とガイストが戦闘しているらしい。
ただ、状況は劣勢なようで、実際、クロウの目の前で推進エネルギーが切れた一機が、真横からガイストの突進を受けて吹っ飛んだ。
先ほどクロウも戦った重装甲型ガイストだ。その重装甲型から強烈な一撃をもろに食らい、
まるで小石のように跳ねて地面に打ち付けられた末、ピクリとも動かなくなった機体を見て、さすがのクロウも顔をひきつらせた。
「うわ、あれは致命傷だろう」
かすっただけであれほどの衝撃を受けたのだ。
重装甲型の突進が直撃すればどうなるか。想像しただけでクロウの顔は青くなる。
「……見過ごせないな。袖すり合うのもなんとやら……とはちょっと違うだろうけど、ここで見捨てるのも寝覚めが悪いし──しゃあない、たすけるか」
言って、クロウは上空にて〈ラーヴェ〉を飛行モードから人型モードへ変形させた。
右手のエーテルビームマグナムと左手のエーテルビームライフルを構えて、真下へ向かって連射する。クロウの精確な射撃は、倒れていた機体を取り囲むガイストを確かに撃滅した。
いきなりの攻撃にビクリと固まるFOF達。
戦場で足を止めるなんて危ないなあ、と思いながらクロウはそんな部隊を見下ろした。
と、同時に通信機がザザッという音を立てて誰かからの通信を傍受する。
表示された通信相手は、眼下で倒れ伏す機体。
《……あな、たは……?》
向こうの通信機が壊れているのか、ノイズがひどく相手が男なのか女なのかもわからないような不鮮明な音声。
それでも辛うじてそう問いかけていることだけはわかって、クロウは「むっ」と悩む。
「俺は、か……えっと」
ここで何と答えるのか、クロウはしばし迷ってしまった。
まさか馬鹿正直に「やあやあ皆さん。私は地球と言う世界からやってきた異世界人です。ここはゲームの世界で私はそのゲームのトッププレイヤーでした」などと言うわけにもいかず。
結果、どう答えたものか、と迷ってしまったのだ。
だが、それも一瞬だ。
クロウはゲームの中で自分達のような存在がなんと言われていたのかを思い出した。
「そうだな、俺は──
──そして、物語は冒頭へと至る。
────────────────────
Q.この作品の主人公ってどんな奴?
A.某鳥頭さんがいま漫画版で戦っているリアルヒーローさんの御同類。
【FOF】
フレキシブル・オペレーション・フレーム。〝柔軟な作戦遂行を可能とする外骨格〟という名称の通り、さまざまな環境、状況、任務に耐えうる人型機動兵器であり、二脚、多脚、逆関節などといった五種類のフレームに頭部、胴体、両腕、脚部と言ったアーマーを装備させることで多様なカスタムをできるのが特徴。そうして組み上がった機体は一定の適性を持ったパイロットとのダイレクトリンクによって、さながら自らの体と同じように操作することが可能となっている。
ほかにも核兵器の直撃にも耐える「
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