EP.034 可能性の開拓者Ⅷ/猛牛疾走
本日は二話更新。
次話につきましては、水曜日分を前倒しする形となりますので、次回更新は土曜日となります。
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ギュイィィイイイインンンッッッ‼‼‼
すさまじい轟音を立てチェーンソーが刃を回転させる。
それを振りかぶって、牛頭のFOF──アルデバランが左腕のチェーンソーを振るう。
「………ッ‼」
緊急回避。
振るわれたチェーンソーを前に、クロウはとっさに機体腰部のスラスターを全開で吹かし、大きく機動を取った。
一瞬前までクロウがいた場所を薙ぐチェーンソー。
それ自体に直撃すれば容易くFOFのAPRAを破壊してのける凶悪な一撃を前に距離を取ったクロウは左腕のエーテルビームライフルを連射する。
しかしそれに対し、アルデバランはとっさの動きで後退することでこの連射を避けた。
クロウは、そんなアルデバランを見て舌打ちする。
「嫌な相手だ。戦い慣れてやがる」
なんとなく、ゲーム〈フロントイェーガーズ〉のトップランカーを思い出させる。
単純に戦い慣れているというだけではない。
言うならば、死に慣れている。
ゲームという
「……どういうことだ? 俺と同じ場所から来た奴か……?」
「クロウさん……?」
クロウの疑問に後席のハルカが怪訝な声を出す。
それを受けて、クロウは意識を現実に戻した。
「ああ、気にするな。ハルカさ──……⁉」
接近するアルデバラン。
牛頭のFOFがその左肩に装備したエーテルビームバズーカを発射。無反動で放たれた強力なエーテルビームの塊が〈ラーヴェ〉のすぐそばで炸裂する。
「───‼」
自らも被弾することを構わず砲弾を撃ち放ったアルデバランの攻撃を受け、クロウはとっさの回避をまたも強いられた。
「……これは本気でやらないと
ゴクリとつばを飲み下すクロウ。
クロウがここまでの強敵と戦ったのは、この世界に来て初めてだった。
単純に死の気配が色濃いだけならばあのグラム渓谷で戦った重砲撃型などがいたが、そういった脅威とは異なり、目の前のそれはただただ〝強い〟──それがクロウの中で警戒度を極限まで高める。
「いいぜ、なら俺も久しぶりに本気で相手してやる!」
叫び、クロウは腰部スラスターを吹かす。
加速、そして接近。
相手もまた近接武装を持っているにもかかわらずそれを承知の上でクロウは自ら相手の武装の間合いへ接近し、左手に握りしめたブレードを振るった。
八十七式極型霊光刀〈白虹〉がその刀身に纏う
一方のアルデバランはそれに対して、チェーンソーを輪転させ、クロウの斬撃をふせいだアルデバラン。そのままクロウの〈白虹〉をからめとって破壊しようとしてきたので、クロウは逆に蹴りをアルデバランの機体に叩きつけることでそこから逃れ、さらに左肩の三連エーテルビームランチャーを斉射。
エーテルパルスを纏ったビームの爆発を、しかしアルデバランは寸前で回避した。
「……これも避けるか」
目を細め、機体のカメラアイ越しにアルデバランを見詰めながら、クロウはいまの攻撃が防がれたことを冷静に受け止める。
「俺よりも鈍重な機体だろうに、それを回避するってなると、操縦する奴の実力か。先読みする能力が高いんだな……」
言いながらクロウはエーテルビームライフルを連射した。もちろんこれもアルデバランは回避する。それを見やりながらクロウは一度〈白虹〉を格納。
その上で、エーテルビームランチャーと持ち換え、チャージを開始したクロウは、小刻みな機動とライフル及びランチャーの射撃でアルデバランの動きを制することで、狙いを定め、チャージしたマグナムの一撃を叩き込んだ。
だが、それにもアルデバランは対応する。
アルデバランの右肩武装。それが起動し、エーテルの光を放つ。
ただし、それはビームではない。
エーテルシールドパルスランチャー。
特殊な作用により整列したエーテル粒子が空間中で球状に固定され、ある種のAPRAと同じ力場を発生させてクロウのエーテルビームマグナムによる一撃を跳ね返す。
「やるな」
クロウの一撃をふせいだアルデバランの動きにクロウが素直な関心を口にした。
一方で背後のハルカはそんなアルデバランに表情を強張らせる。
「なんて動きを……! ここまで攻撃されても致命打を与えられないなんて……‼」
ハルカの言葉にクロウも同意の頷きを返す。
「そうだな……だけど、そろそろ動きにもなれてきた」
言ってクロウは接近を試みる。
ビームマグナムを八十七式極型霊光刀〈白虹〉に換装。同時にビームライフルの連射を行うことでアルデバランに回避を強制させ、さらにそうして回避したアルデバランへクロウはランチャーを発射してすぐそばでエーテルパルスの爆発を引き起こす。
それによってアルデバランの動きが止まる。エーテルパルスが駆動部のエーテルを阻害し一瞬の隙が発生した。
クロウは、それを見逃さない。
「───‼」
刃を振るう。
横薙ぎに奔った斬撃は、一時的なスタン状態となったアルデバランの胴体を精確にとらえ、その胴体へ直撃する。
「直撃です! 敵機APRAの残数40%!」
「しゃあ。ついでにこれも喰らっておけ!」
クロウが叫び、二度目の斬撃を放つ。
アルデバランはそれに対してエーテルパルスシールドランチャーで球状のシールドを発生させるが、クロウは巧みな剣捌きでそのシールドを避け、アルデバランに直撃させた。
胴体にクロウの斬撃を受けるアルデバラン。激しく胴体部分がひしゃげ、見るからにわかる致命傷を負う。
「敵機APRA全損!」
ハルカの叫び声。その言葉通り、敵機のAPRAが称しているのをクロウも機体のレーダーでとらえる。
「じゃあな、強敵。俺の勝ちだ」
クロウは剣を引き抜いて、自分の勝利を宣言する。APRAが全損。動力部がある胴体を大破され、動けるFOFはいない。
だからクロウは勝利を確信して──
《まだだ》
「───」
通信。オープン回線で入ったその音声にクロウの眉がピクリと動く。
そんなクロウの目の前で大破したはずのアルデバランの機体が起き上がる。
「……ッ! 敵機再起動‼ またAPRAを展開します」
「……攻撃が浅かったか」
先ほどの斬撃、エーテルパルスシールドに防がれたせいで機動が捻じ曲げられたが、そのせいなのかなんなのか、動力部を完全に破壊していなかったらしい。
そうして立ち上がるアルデバランはまたチェーンソーを回転させながらカメラアイをクロウの方へと向ける。
《……まだだ。まだだ。まだだ……‼》
ギュイイィィィイイインンンッッッ‼‼‼
激しく轟音を鳴らすチェーンソー。同時に灼光するカメラアイの光源。
《俺は、こんなところで終われない。こんなところで止まれない。俺は、俺は、俺はッッッ‼ あいつの……、アコの復讐を果たすために、止まれない‼》
裂帛の気勢を上げ、アルデバランがこちらを睨みつけてくる。クロウは、それを見て怪訝な表情をしてアルデバランを見た。
「アコ? 復讐? 何を言っているんだ、こいつ……」
言いながらもクロウは〈ラーヴェ〉を改めて戦闘態勢に。ブレードの切っ先を向けながら退治するクロウに、はたしてアルデバランは、
《お前、その動き……見たことがあるぞ》
唐突に呟かれたアルデバランの言葉。それにクロウはますます訝し気な想いを抱いた。
「……? だから、お前いったい何を──」
《──ゲーム世界大会の優勝者機》
「───」
アルデバランの言葉にクロウは両目を見開く。
それはこの世界の人間には知りえない情報だ。
「……なぜ、それを知っている?」
《知っているに決まっているだろ。そうだ、そうだ。俺は知っている。お前のことを、あの世界のことを──ゲーム〈アームドギア〉のことをッッッ‼》
「は?」
クロウはポカンとした表情でアルデバランを見る。
「待て、お前なにを──」
あまりにも意味不明なアルデバランの言葉にクロウが本格的に戸惑う中、しかしアルデバランはそんなクロウの言葉に答えず絶叫した。
《──だから、邪魔するなよ、俺は、俺の役を果たすためにお前を倒すッッッ‼‼‼》
そして戦闘は最終局面に入る。
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【アルデバラン機の武装】
本日はアルデバランが装備している武装について解説。
ViAC‐0020《ICHII KOUKU》
エーテルチェンソー。回転する刃の一つ一つにOVPRが纏われており、これを相手に押し付けて刃を回転させることで、連続的にダメージを与えて瞬時に敵機のAPRAを破断させる。開発元は企業同盟の十二企業でが一つであるヴァルゴ社でもともとは建物解体用の工業用重機に着想を得て開発されたもの。体制転換後のヴァルゴ社珍兵器シリーズの第20弾として発売され、一部の変人に根強い人気がある。
RAR‐47《ANDERSSEN》
エーテルアサルトライフル。伝統と格式で知られる企業同盟最大の企業リーオン・グループが販売している速射性に優れた使い勝手のよいFOF用エーテルビームアサルトライフル。ごくごく平均的な性能をしており、全体的にバランスがいい。もともとはシティ〝トロイア〟に配備されていた警備隊FOFが装備していたものをアルデバランが強奪したもの。
ViB-101《SEITEN NO HEKIREKI》
エーテルビームバズーカ。エーテル被膜で覆ったエーテルを打ち出し、その爆発力で敵を攻撃する兵器。その際に、反対側でエーテルジェットを噴射することで反動を殺しながら発射するので軽量機体や中量機体でも体勢を崩さずに高威力を出せるのが強み。その分エーテル消費量が大きくて連射性と装弾数が低いという欠点を抱えているが、二脚フレームなどの反動を殺すのが不得意なFOFが楽に高威力を出すための武装としてよく装備される。もともとは遺構都市の強固な隔壁や壁面を破壊するために装備していた。後に体制転換後の主力となった開発チームの初開発商品で、体制転換前のヴァルゴ社では最も売れ、ヴァルゴ社破綻までの経営を支えた。
EPSR‐GEN3《ZWIEBELMASCHINE》
エーテルパルスシールドランチャー。それを特殊な整波装置によりエーテルパルスを操り、空中にエーテルの障壁を展開する武装。出現時間も長くまたエーテルビームマグナムなどの一撃も防げるほど強力で、ある程度ならば物理的な衝撃も受け止める。企業同盟の十二企業の一つでエーテルパルス技術に変態的なこだわりを持つツウィリングスフィッシュ重工が開発した第三世代エーテルパルスシールドランチャーで、もともとは遺構都市探索時に、崩落の危険性などがある場所で展開し、安全に調査をするために使用していた。
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