EP.035 可能性の開拓者Ⅸ/汝、役を全うせよ

本日は二話更新。こちらはその二話目ですので、前話を見ていない方は、前話を見てからご覧ください。


また、本日の更新に伴い、水曜日分を前倒しする形での更新となりますため、本来予定していた水曜日の更新は取りやめとし、次回は来週土曜日に更新させていただきます。


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《──〈アームドギア〉の時もそうだった》


 ズタボロになりながらもアルデバランはチェーンソーを構えた。


《貴様はいつもいつもそうだ。俺の前に立ちふさがる。ゲームのPvPでも、世界大会の決勝でも──そしてこの世界でもッッッ‼》


 アルデバランが加速する。


 腰部のスラスターを吹かして、アルデバランが突っ込んでくるのにクロウはとっさに機体を跳躍させることで振るわれたチェーンソーを回避した。


「………ッ! あんなズタボロでこんなに動けるのかよ⁉」


「クロウさん、データベースを見たところあのチェーンソーはかなりの威力を秘めた武装です! 一撃でも喰らえばAPRAが大きく減衰すると思ってください‼」


 後席でハルカが武装のデータベースを調べ、クロウへ警告する。


「そりゃあヤバイ」


 再び振るわれたチェーンソーを避けつつクロウは一度アルデバランから距離を取った。そんなクロウへ、またもアルデバランが叫ぶ。


《そうだなあ、そうだよなあ⁉ お前は高速戦闘が得意だった! そうやって避けるのだけが上手いだけで、俺達を翻弄して、他の奴らを踏みにじって──⁉》


「ああもう、なにを言ってるんだよ、いったい⁉」


 アルデバランの言っていることがクロウにはいっさいわからない。


(──〈アームドギア〉⁉ なんのゲームだよ、それ⁉)


 クロウが知っているゲームは〈フロントイェーガーズ〉だ。


 それとは異なるゲーム名を口に出すアルデバランにクロウとしては困惑するしかない。


《お前もここに来ていたんだあ、おい⁉ いつからだ⁉ また俺を邪魔するのか⁉ なあ、そうなんだろう! また、俺の──アコの復讐の邪魔をする気なんだろうッッッ‼‼‼》


「いや、知らねえよ⁉ つーか、アコって誰だっての⁉」


 遮二無二に迫るアルデバランの攻撃を避けつつ、クロウはエーテルビームライフルの連射を食らわせた。高速で動きながらも精確にアルデバランに着弾させていくクロウの射撃。


 しかし、それを受けてもアルデバランは止まることはしない。


「こいつッ⁉」


 もはや死兵だ。どれほど攻撃されても構わずに突っ込んでくるアルデバランに、クロウはギョッと目を見開く。


(──命が惜しくないって動きだなあ、おい⁉ ここはゲームの中じゃないんだぞ⁉)


 突っ込んでくるアルデバランの自機のAPRAがどれほど減ろうとも構わず突っ込んでくるその動きはいっそ狂的ですらあった。


 とてもではないが、命の惜しい奴の動きじゃない。


「俺はあまり追いかけっこしたことないんだけどな……!」


 言いながらクロウは一度建物の裏に退避する。接近された危険だと判断したのだ。


 そうして建物の裏で体勢を整えようとして──


《──させねえよ》


 アルデバランの声。


 それと共にクロウの目の前で壁面が内側から破壊される。


「ビルの中を抜いてきたのかよ⁉」


 驚くべきことに、アルデバランはチェーンソーとバズーカによってビルの壁面を破壊して、ビルの中からまっすぐクロウへ吶喊してきたのだ。


「アルデバランは元サルベージャーですッ。遺構都市で崩落の危険性があるビルを解体しながら旧文明の遺産を掘り出していた方だから、ビルを崩落させずに壁面だけを破壊することが可能なのでしょう……‼」


 ハルカの説明。それと共にアルデバランがまたも通信機越しに叫ぶ。


《まだこの世界に来て日が浅いな⁉ ならば知らんだろう! この世界の戦い方を‼》


「なるほど、それは勉強になったッ!」


 エーテルビームバズーカが放たれ、それによる爆風に愛機〈ラーヴェ〉がさらされる。


「──ッ。APRA残数40%!」


 久方ぶりの被弾。もともと防御力が高くない〈ラーヴェ〉は単なる爆風だけでも大きくAPRAが減衰する羽目に。


「こりゃあ何度も受けられないな」


 そう呟きつつ、額に汗するクロウにたいして、アルデバランは苛烈な攻撃を続ける。


「クロウさん、このままでは!」


 悲鳴のような声を出すハルカ。彼女の態度にも表れているように絶体絶命の窮地だ。


 それに対してクロウは──


「落ち着けよ、ハルカさん。別に負けはしないから」


「え──」


 冷静な声音でクロウが告げる。それを聞いてハルカは驚愕に目を見開いた。


 対してクロウは、頬に伝った汗を片手でぬぐいつつ、ダイレクトリンクで視界に重ねられた愛機の視界にアルデバランを見据えた。



 機体を加速させるクロウ。


 腰部のスラスターを噴射し、青白いプラズマの光をたなびかせてクロウは加速。


「──⁉ クロウさん、なにを──」


「あいつを倒す」


 言いながらクロウは吶喊していく。


 そんなクロウの接近をもちろんアルデバランも捉えている。左腕のチェーンソーを振るってアルデバランはクロウを攻撃しようとした。


「当たらねえよ」


 下をかいくぐる。


 機体の姿勢を低くし、ほんの紙一重、ほぼ背部装甲の数センチ上を擦過するようなギリギリでアルデバランのチェーンソーを回避することに成功したクロウ。


 そのままほぼ密着状態になりながらクロウはエーテルアサルトライフルの零距離射撃をアルデバランの腹に食らわせた。


《───ッ‼》


 ビームの乱射を受けてたまらずたたらを踏むアルデバラン。


 それでもアルデバランは密着したクロウへお返しとばかりに左肩のエーテルバズーカを自身も被弾すること承知で発射。


 だが、クロウにそれは当たらない。


「ほら背中を取ったぞ」


 急噴射クイックスラスト


 すさまじい加速を得て砲弾が炸裂する直前にクロウはアルデバランの背後を取る。


 アルデバランは自らが放ったバズーカの爆風と背後のクロウに板挟みとなり動きを止められる結果となった。


「ここ!」


 クロウはビームランチャーを発射。エーテルパルスを発生させる一撃。


《───》


 それに対し、アルデバランはとっさに右手のエーテルビームライフルを投げ放つことで対処した。ビームランチャーの砲撃を代わりに受けて爆散するアルデバランのビームライフル。


 アルデバランはその爆風を盾にエーテルパルスの影響も受けずにその場から離脱。


 先ほどアルデバラン自身が空けたビルの穴に飛び込み、その向こう側に対比する。


「──ッ! アルデバランが逃走します!」


「いや、違うな」


 クロウの宣言通りだった。


 ビルの向こう側に消えたアルデバランが急噴射クイックスラストを使って機動。そのままビルの隙間からエーテルビームバズーカの一撃を叩き込んでくる。


「………ッ!」


 クロウはその砲撃に対し、スラスターを吹かして一度回避。


 だが、それでも爆風を完全に回避することはできずAPRAにダメージが入る。


「APRA残数30%」


「それだけあれば十分。それよりもハルカさん。アルデバランの居場所は捉えている?」


 クロウはハルカに対してそう問いかける。ハルカはそれを聞いて戸惑いに目を震わせた。


「え、ええ。いま表示します」


 聞きを操作し、ハルカがアルデバランの居場所をマーカーとして示す。それへ目をやりつつクロウは小刻みなステップでアルデバランとビルを間に挟み込む形で対峙。


 クロウはそこで一度機体の足を止める。


「……っ? く、クロウさん。どうして機体の動きを止め──」


 機体をその場で停止させたクロウにハルカが疑問するが、それを口に仕切るよりも先に事態が動いた。


 轟音。アルデバランがビルの壁を抜いてまた接近を試みようとしたのだ。


 このままでは、アルデバランがまた吶喊してくる。そんな状況でクロウはしかし、


「よし、チャージ完了」


 言って、クロウは視線だけで八十七式極型霊光刀〈白虹〉を見た。


 愛機〈アスター・ラーヴェ〉の左腕に握りこまれた武装はこれまでに見たことがないほど激しい光を放っていた。


「──⁉ クロウさん、これは──」


「──俺がこのブレードを好んで使う理由さ」


 そうクロウが告げると同時。


 ──オーバーチャージ機構発動。


 すさまじい光が巻き起こった。


 クロウの手にした八十七式極型霊光刀より放たれる膨大な光。


 それは刃だけにとどまらず、さらに長くのび、その身の丈を二倍──いや三倍に伸ばす。


 一閃。


 膨大な光を放つエーテルの刃が振るわれた。


 横薙ぎの斬撃はクロウの目の前、ビルの壁を破壊して迫るアルデバラン──





 ──





《───》


 ビルごと切断する長大な斬撃。


 それは内部にいたアルデバランも確かにとらえる。


 壁面を削っていたアルデバランはそれを避けられない。


 逃げ場もない中で、受けたその一撃により、


《アコ──》


 アルデバランはその機体を一刀両断された。


「──アルデバラン。動力反応消失。撃破しました」


 戦いが、決着する。





     ☆





「はあ、ようやく終わった」


 言いながらクロウは〈白虹〉を下ろした。白い虹、というその名とは裏腹にいまのその武装は刀身の白さを失い、刃本来の鉄色に変わっている。


 オーバーチャージ機構。チャージ機構のさらにもう一段階上。二度のチャージによって威力と間合いを増幅させたその一撃はビルを両断し内部のFOFを撃破するほど絶大。


 代償として、一度使用すればその戦闘中〈白虹〉をもう二度と使えなくなるそれを、しかしクロウは躊躇わずに切り、見事アルデバランを撃破することに成功したのだ。


「ついでに、エーテルビームブラスターがあったビルも破壊しておいたから、これでエーテルビームブラスターも使えなくなったし、本来の目的とバルチャーの首領。その双方を倒せて、一件落着ってな」


 そう告げる通り、クロウが破壊したビルはエーテルビームブラスターが乗っていたビルでもあった。


 それごとアルデバランを撃破したクロウはハルカに呼びかける。


「ハルカさん。他の場所の状況は?」


「あ、はい。えーと、戦闘はもうほぼ……あ、いえ完全に終息しました。バルチャー側の機体は全反応撃破されています」


 観測機器を見やって、各種情報からそう報告してくるハルカ。


「それは重畳。バルチャーの頭目もやったし、これで一件落着かな」


 バルチャー殲滅という任務はこれで終わりだろう。そう判断してクロウは機体の踵を返す。


 そのままラスト達本隊と合流しようと、クロウは機体を加速させた。


 まさに、その時──



































































































































































































 


《ア、アア、アアア》


 ザザ、ザザザ。


《ア、アア》ザザ《アアアコアア》ザザザ《アルアアアルルアアル》ザザザザザ《アルアアアル》ザザザ《アル、で、バラ、ん》ザザザ《ヨヨア、ヨヨアルアアア、アコアルヨリヨヨリ》





 ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ──





 そうだ、おれ、は、


 おれ、の、な、は、


 おれ、という、そ、んざ、いは、


 ある、で、ば、らん──


 ──





【アルデバラン──否、





【上級執行権限を行使──に緊急接続】


【要監視対象〈レイヴン〉の解析を完了】


【当該監視対象の因果係数……異常閾値】


【運命増幅指数……危険域】


【当該監視対象〈レイヴン〉を


【よって、近衛将軍型レガトゥスガイストとして母体型マザーガイストへΩ──】





【──所定のプロトコルを実行せよ】





 その時は、来た。











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いつからクロウが人類バルチャーと戦っていたなどと錯覚した?

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