EP.036 可能性の開拓者F/〝ファーストステージ〟

「最強愛機」がカクヨムコン9に応募中!


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 その異変に最も早く気付いたのは、クロウでも、ましてや他の傭兵でもなく──ラスト・フレイル。鋼槍機士団の総隊長たる男だった。


《総隊長。すべての戦闘が終了いたしました。リヴァイアに潜伏しているバルチャーは全機撃破された模様です》


 部下からの報告。それを聞いてラストは「ご苦労」と告げる。


 ラスト達は現在、部隊右翼側と合流し、残りのバルチャーを掃討しているところだった。


 エーテルビームブラスターという想定外の戦力と、それによる足止めこそあったが、左翼に置いていたクロウが活躍したおかげで、その拘束から脱したラスト達は、すぐさまバルチャーの大群へ襲われ窮地に立たされていた右翼の傭兵部隊と合流。


 これを共同して撃破していき、つい先ほどそれも終結したところだ。


 その上で、しかしラストは警戒を解かずに周囲へ鋭い眼差しを向ける。


「ああ、よくやった。ただ、まだ気は抜くな。撃ち漏らしや、こちらが把握していない伏兵が存在しているかもしれねえんだ。お家に帰るまでが遠足だぞ」


 冗談交じりではあるが、そう警告を発するラスト。


 彼の態度はある意味において正しいものだった。戦闘はおおむね終結しているとはいえ、自分達が把握していない伏兵がいる可能性は大いにあるのだ。


 だから、警告したラストへ、しかし部下はその機体の首を左右に振る。


「大丈夫ですよ、総隊長。少なくとも撃ち漏らしはありません。左右両翼に展開したバルチャー達の数はちょうど26機。そのどちらとも全機撃破されています」


 彼がそう告げる通り、周囲にて撃破されたFOFの数は13機。さらに、左翼側でも同数を撃破されたことが、部隊間情報統合コマンドリンクによって把握済みなので、彼の言葉は嘘ではない。


「さらに頭目のアルデバランとウェアヴォルフも撃破されていますから、全28機の機能停止は確認されています。伏兵がいても、この戦力差なら大した脅威じゃあないでしょう」


 と、そう軽く請け負う部下に、しかしラストが浮かべたのは怪訝な表情だ。


「待て。お前いまなんて言った?」


「えっ、ですから。と──」


 そう告げた部下の言葉を、しかしラストは途中で遮る。


「待て待て待て! それはおかしいぞ⁉」


 とっさに、ラストは視線をコックピット内のモニターへ向けた。それを素早く操作し、自分の戦闘記録を照合する。


 戦闘が始まってから、終わるまでの間、ラストが撃破したFOFの数と周囲で撃破され残骸となったバルチャーのFOF……それらを照合して、ラストは自身の違和感に確信を得る。


「やっぱりだ。! 俺達は、!」


 ラストの記憶でも、作戦開始当初、バルチャー達を砲撃可能位置へ誘い込みをかけていた時も何機か撃破した記憶がある。


 だから本来撃破された機体の数が全28機などあり得ないのだ。なのに、記録ではそれ以上の数を撃破したことになっていることに、電撃を浴びたかのような衝撃を受けるラスト。


「まさか──」


 愕然と目を見開き、ラストはとっさに通信機へ手を伸ばした。対象を指定しない周辺全機体への無差別通信。部隊指揮官としての上位権限をもって、それを作戦に参加した機士や傭兵達すべてへ発信する。


「作戦に参加している機士団、傭兵連中総員傾注! ただちに戦闘データを照合しろ! 特にを確認しろ! これは最優先命令だ!」


 ラストが突然発した命令に、機士達は上官からの命令に戸惑いながらも即座に、傭兵達は面倒がりながらも雇い主への義理立てとして、各々が戦闘情報の精査を行う。結果は──


「……マジかよ……」


 同じ機体が、何度も撃破された記録が各所に残っていた。


 戦闘データを全機で共有し照合した結果、別々の場所で別々の人間が、同じバルチャーの機体を何度も何度も何度も撃破し続けたという記録。


 それも単に機体の外観が似ているとかではない。FOFが持つエーテルリアクターが放つ固有周波数までばっちりと全記録適合。それを見てラストの脳裏にはとある記憶がよぎった。


 ──ラスト! 倒すなら、完全に一刀両断するか、動力部を破壊しろ! 


 ──


「………………………………………………………………………………………………………」


 かつて、第45観測拠点での戦闘で戦友たる少年から言われた言葉。


 それを思い起こしてラストは背後へと振り向く。


 ギギギッとまるで油の切れた機械人形のように機体のカメラアイを向けた先は背後で倒れる一機のFOF。かつてバルチャーが乗っていた──ラストがそう思っていた機体だ。


「おい、まさか、お前達の正体って──」


 ラストが答えにたどり着いたのと、その異変が起こったのは同時だ。





 バルチャー機から、黒い粘膜が噴き出る。





 FOFのどこにそれだけの量が入っていたのか、というほど膨大な質量の粘液。


 それも一体や二体だけではない。


 周辺すべて、見える範囲のバルチャー機から噴き出る黒い粘液。それを目の当たりにして、ラストはうめくように声を出した。


「嘘だろ、おい‼」


 まさか、こいつらは全部──


「──‼‼⁉」


 近衛従兵型ケントゥリア


 かつて第45観測拠点を壊滅に追いやった悪魔が、また牙をむく。





     ☆





「は──?」


 機体を加速させようとスラスターを吹かし浮かび上がっていたクロウは、その直後に聞かされた通信に愕然と目を見開く。


 それと共にクロウは背後へと振り返った。


 倒壊したビル。その中にはクロウが倒したアルデバランが──


「───ッ! エーテル反応増大! 反応はあのビルの中です!」


 観測機器が示した異常反応にハルカが叫び、同時にクロウの目の前で倒壊したビルの瓦礫が内側から吹き飛ばされた。


【AKOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO‼‼‼‼‼】


 大絶叫。


 通信機ではなく、実際に空気を震わせる音声としてアルデバラン──、が叫ぶ。


 それは異様な姿をしていた。


 クロウが放った八十七式極型霊光刀のオーバードチャージ機構により斬撃を受け、確かに破壊された胴体。一刀両断され、その中にあったはずのエーテルジェネレーターすら残骸と化しているはずなのに、その機体はいまだ駆動している。


 各種の破壊された部位を繋ぐのは黒い粘液だ。


 近衛従兵型のそれと似た。しかしそれよりも圧倒的な質量とエーテルの光を放つそれらがまるでそういう生物かのごとく有機的に動き、寸断された機体を繋ぎ合わせている。


 それを失われた動力部代わりに立ち上がり、しかしそれでも立ち切れず不規則に粘液を暴れさせるアルデバラン。


「……人間にたいする冒涜だな」


 クロウをしてそう評させるほど醜い姿と変わり果てたアルデバラン。それを見下ろしながらもクロウは戦闘体勢を取る。


「……ブレードは使用不可能。ビームライフルの残弾はわずか……はは、こりゃあきつい」


 ウェアヴォルフ、アルデバランと立て続けに戦闘をしたため、すでに武装の状態が心もとない。特に手痛いのはブレードだ。先ほどのオーバーチャージ機構のせいで現在八十七式極型霊光刀が使用不可能となっている。


 それでもなお、クロウは目の前の敵から逃げられないと思った。


 あれは、自分が倒すべき存在だと。


 だから戦闘体勢を取るクロウ──それが起こったのはその時だった。


「え──」


 視界の端でクロウは違和感を感じた。なんだ? と首をかしげたクロウは目の前にいるアルデバランの存在すら一時忘れて、そちらへと視線を向ける。


 そうして見たのは〝赤色〟だ。


 クロウが見下ろす遺構都市リヴァイア──その地面からなにか赤いオーラのようなものが立ち上っているのをクロウは見た。


「あれは──!」


 クロウにとって見覚えがあるものだ。赤色のオーラ──それは、クロウをこの世界に導いた謎の声が〝導〟と呼んだもの。


 それをクロウが見つけた瞬間。


「───」


 赤が噴き出した。


 まるで間欠泉のごとく、すさまじい勢いで赤色のオーラが地面より吹き上がる。


 クロウの目の前だけでなく、都市全体。目の前にいたアルデバランの姿すら覆い隠すほど膨大な輝きを放つ〝導〟。


 それにたまらずクロウが機体を後退させる中、しかし背後で怪訝な声が上がる。


「??? クロウさん。なぜ機体を後退させて……?」


 首をかしげてそう問いかけるハルカ。それを聞いてクロウは、驚きを得た。


(まさか、見えていない……? ハルカさんには、この赤いオーラが見えないのか⁉)


 これほどまでにあからさまな現象が、しかしハルカには見えないらしい。


 いや、ハルカだけではなく。オーラに飲み込まれているはずのアルデバランもその様子が変わらないのを見るに、おそらくあの〝導〟はクロウ以外には見えないようだ。


 その事実にクロウが内心で驚愕する中、次なる現象が起こる。


《あなたに告げます》


 声。それはクロウをこの世界に導いた謎の存在。それが発するもの。


《ただいまをもって【。あなたには、これへただちに挑み、可能性を開拓することを要請します》


「……なん、だって……?」


 謎の声が告げたその言葉にクロウは愕然とする。


 そんなクロウに、しかし謎の声は気にせずに、それを告げた。


《あなたよ、。この世界の人類の命脈はわずか。閉塞した可能性は収束へ至り、その因果係数は閉じたる解を出した》


「は⁉ 待て、お前はいったいなにを言って──」


 とっさにクロウは声へ向かって叫ぶが、それはしかしそれ届かない。


《これを我々は認めない。、あなたよ。可能性の開拓者たる運命変異体よ。あなた自身の力をもって、どうか、この世界の可能性を切り拓いてください──》


 まるで大いなる意思を宿したかのように一方的な形でクロウへ告げる謎の声。


 そうしてクロウへ告げるだけ告げて、謎の声は、最後にそれを宣言した。


《──【最終高難易度ミッション】第一段階ファーストステージ開始》


 同時に。


 地面が。


 大きく揺れた。





     ☆





 霧が晴れる。


 遺構都市リヴァイアを覆っていた濃霧がしかしその効力を失い、瞬時に薄らいでいった。


 同時に都市を襲う大規模な地震。


 それによって都市内に展開していた機士達も傭兵達も思わずたたらを踏む。


 彼らが戸惑い困惑する中、地面の揺れはさらに規模を増し──





 ──





 巨大な遺構都市が浮遊を開始。それにとどまらず、周辺の地面を割り砕き、その地下に隠れていた巨大な構造物を露わとする。


 前後に長いその姿は遠くから見るとまるで鯨のようだった。


 だが、その全長は鯨なんて可愛いものじゃない。


 全長60キロメートル。


 リヴァイアですら、その巨体のほんの一部。わずかな面積を占めるだけの構造物でしかないというほどの巨躯。


 それが地面より浮上する。


 いかなる原理によるものか大地を割り砕いたそれは物理法則を無視して空中に浮遊。


 堂々たる威容を露わとしたそれ──否、咆哮を上げる。


【クオ─────────────────────────────ンンンッッッ‼‼‼】


 かつて遺構都市リヴァイアと呼ばれたそいつ。


 尋常ならざる巨体を持つそのガイストの名は──





《──母体型マザーガイスト》





 謎の声が告げる。


 露わとなったその正体を。


《ミッション第一段階〝鬼子母神を討て〟──その討伐対象です》


 クロウが倒すべき敵。


 それが、いまはじめて、姿を現した。










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章タイトル「第1章〝鎧袖掠りて絆は結ばれん/〟」……ようやくタイトル回収です。



【作者が明かす、実はバルチャー達がガイストだった伏線集!】

 本日は各話に隠していたバルチャー達が実はガイストだったということの伏線をご紹介!


・EP.13、EP.14:ガイスト群生地のすぐそばに潜伏していて、なぜかガイストに見つからなかったヘッド&ガデル兄弟(通常ガイストは人の反応を感知したら問答無用で襲ってくる)。


・EP.24:最後の近衛従兵型ガイストの通信にさらりと紛れ込んでいるアルデバランの名前。


・EP.28:最初のアコの台詞の一部はカッコが【】(ガイストと同じ)になっている。


・アルデバランが滅ぼした都市の名前が〝トロイア〟(トロイの木馬で有名なあれ)。


・あとメタ的な話として、アルデバランの元ネタ(牛頭、武器がチェーンソー、大切な人を理不尽に奪われたことがある、あたりでわかる人にはわかる)。


その他作者が覚えていないのも含めて多数伏線が張られているから、ぜひともさがしてみてね!

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