EP.026 総監と支部長
新作公開中!
タイトル「転生恋戦~転生者の俺だけど、国から決められた婚約者がすっごく甘やかしてきます。どうしよう~」
作品ページURL:「https://kakuyomu.jp/works/16817330666083845260」
第1話URL:「https://kakuyomu.jp/works/16817330666083845260/episodes/16817330666083892476」
以上、宣伝終わり! それでは本編へどうぞ!
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「──君が、クロウ君か」
会議室の中にそう厳かな声が鳴り響く。
クロウの目の前、その最奥にある席に座り、呟くのはいかめつらしい表情をした男。
ハルカとよく似た銀色の髪の下、年齢相応の苦悩と経験を刻み込んだ眉間を持つその男の名はベリウス・エーレンベルク。
またの名をシティ〝カメロット〟
そんなベリウスに呼ばれてやってきたの行政府の会議室。そこで複数人の大人たちに囲まれて居心地悪そうにしながら、クロウはベリウスへ頷きを返した。
「ええ、そうですが」
「……ふむ。君のことは方々から報告と言う形で聞いている。三週間ほど前、操縦習熟訓練の途中だった鋼槍機士団の訓練生部隊と接触。それを襲っていたガイストの撃退。そこから続いて誰も突破しえなかったグラム渓谷を攻略。ブレド高地の解放、そこを襲った指名手配バルチャーであるヘッド&ガデル兄弟の撃退──そして、先の第45観測拠点」
手元のタブレットに表示された各種資料を眺めながら滔々と言葉を口にしていくベリウス。
そのまま彼は顔を上げて、眼光鋭くクロウを見つめた。
「すさまじい、そう。すさまじいという他に無い活躍だ。これを酒場で聞けば、どこの売れない作家が書いた夢物語か、と嗤われたことだろう」
「どうも」
礼儀としてクロウはそうお礼を告げるが、しかし相手の反応は芳しくなく。
「その上で、クロウ君。君に問う──君は、何者だ?」
「………」
言ってベリウスがクロウを睨んだ。
ベリウスだけではない、この会議室に列席するほかの人間達もいっせいにクロウへと鋭い眦を向けており、いっそ殺気立っている会議室の空気にクロウは目を細めた。
「何者、とは? 質問の意図が見えませんが……」
クロウとしては割と本気の戸惑いを込めて問いかけたそれに、ベリウスではなく、他の列席の一人──おそらくは行政府のお偉方だろう男が叫んだ。
「そも貴様の経歴はあまりにも怪しい! それほどの戦闘力を持ちながらこれまでいっさい無名。これを怪しいと言わずして、なんというか⁉」
唾を飛ばしてそう叫び声をまき散らす男の言葉をベリウスが継いで続ける。
「──ゴードウェル評議員の言葉通りだ。君の経歴には不審な点が多い。君はいったいこのシティに来るまでなにをしていた? その点を説明したまえ」
「不審な点と申されましても、俺としてはそちらが得ている情報どおりです、としか……」
別にこのさい自分は地球と言う場所から来ました! と言ってもよかったのだが、それを言おうものならさらなる非難の声が飛んでくるのはこの場の空気からありありと感じられた。
よって、そんな誤魔化すような言葉を口にしたクロウだが、それが逆に会議室内にいるお歴々の感情を刺激してしまったらしい。
「総監! やはりこの者はガイストなのではありませんか⁉ そもそも
興奮気味にそう告げる評議員。そんな彼の姿を見て、他の評議員も同意するように頷きを返す中、クロウとしては内心でため息をつかざるを得ない。
(あぁ~、面倒くせ~)
なんでこんな状況になったのか。それもこれも第45観測拠点から帰ってきた翌日。どういうわけだか、ハルカの父であるベリウスにクロウが呼ばれたことから始まる。
最初はクロウも大事な娘をなんども危地に連れ込んだことへお叱りを受けるか、と思っていたのだが、やってきてみればどういうわけだか通されたのはこの会議室。
そこで待ち構えていたシティのお歴々に半ば尋問──いや裁判じみた行為にかけられているのが現在の状況だ。
(それに裁判は裁判でも、これは魔女裁判だな。ヒステリック起こしかけた連中の面倒な戯言なんて聞いてられないぞ)
来るんじゃなかった、と心底からそう思いつついまだ激するお歴々を見やるクロウ。
だが、幸いにしてこの場にクロウの味方がまったくいないわけでもなかった。
「……ッ! お言葉ですが、評議員の皆様‼」
クロウの横で上がる憤激の声。
ちらり、と視線だけでクロウが振り返れば、そこにはハルカがいる。クロウの専属オペレーターであり、目の前にいる総監ベリウスの娘である彼女は、そうであるがゆえに臆することなくこのシティの最高権力者達へ啖呵を切った。
「皆様のお言葉には矛盾があります! クロウさんがガイストだというのならば、どうして重砲撃型や先の近衛従兵型といった脅威度の高いガイストを討伐するのか⁉ ガイストの擬態を疑うのならば、それはどう説明すると⁉」
「……ッ。そ、それは、そのようにふるまうことで我々の信頼を勝ち取るために……」
「では、このバカげた茶番はなんですか⁉ その理屈で言えば、この場が開かれた時点でそれは失敗している! そもそも大崩壊以来、観測されてきたガイストで全長が8メートルを下回る個体はおりません! こんなのこの世界の常識でありましょう!」
矢継ぎ早に正論で権力者達を殴りつけていくハルカ。
さすがに相手が総監の娘であるからか、評議員達は弱り切った顔で黙るだけで、彼らは一応にハルカの父であるベリウスへと助けを求めるような視線を向けた。
それを受けて、ベリウスは嘆息めいた息を漏らす。
「ハルカ。そこまでにしなさい。評議員の方々がお困りになっている」
「お言葉ですが、総監。私は不当な言説にたいする抗議をなしただけです、私、ハルカ・エーレンベルクはいま総監の娘としてではなく傭兵クロウのオペレーターとして来ていますので」
父親にも遠慮しないハルカにしかしベリウスは鋭い眼差しを向け、
「だったらなおさらに黙っていろ。一オペレーターごときが言葉をはさむ問題ではない」
「………ッ」
父の言葉に息を詰めるハルカ。一方でクロウはそんな父子のやり取りを静かに見やりつつ、この場をどう切り抜けるか考えていた。
(なんかもう逃げよっかなあ……〝導〟の件があるからこのシティにとどまっていたが、いっそのこと拠点を別に移すか? こんな面倒くせえ奴らと言い争いになるならもうそっちでもいいかな……問題は、そうなるとハルカさんと別れる可能性があることだが)
脳裏で静かにいまの状況とそこにかかる面倒臭さをはかりにかけるクロウ。
だが、幸いにして、というべきか。クロウがそれ以上頭を悩ます必要はなかった。
その前に、ガチャリと音を立てて会議室の扉が開いたからだ。
「──一オペレーターにその権利がないというのならば、私ならばどうかな?」
言って入ってくるのは恰幅のいい男性。
傭兵らしい動きやすさを重視した服装に身を包んだその中年男性の登場にクロウは、おや、と眉を上げる。
「あなたは傭兵ギルドの支部長の……」
「アレックス・フォーサーだ。久しいなクロウ」
ニッと唇の端を吊り上げ、そうクロウへ挨拶しながらその男性──シティ〝カメロット〟傭兵ギルドの支部長であるアレックスは会議室内のお歴々を見た。
「まずは抗議をさせていただこう。彼、
アレックスの強い言葉による抗議に、いっせいに顔を歪める評議員達。
総監であるベリウスですら薄く目を細めてアレックスを睨む中、堂々たる様でクロウとハルカの前にたつアレックスはそんな彼らの視線にも臆さない。
「……人工知能ごときの命令に従うだけしか能のない者達が我々シティ行政府に逆らうと?」
「我々傭兵ギルドはすべての傭兵の権利人権財産を守るためにある。これは正当な我々の職務であり、存在意義だ。我々の上位存在はこの際関係ない」
ベリウスの言葉に言い返すアレックス。
そんなアレックスの態度にベリウスはため息をついて見せて、
「……だが、その者はガイストの疑惑があるぞ」
「疑惑は疑惑だろう。いみじくも貴様の娘が告げたように大崩壊以来、人類が観測してきたガイスト達はおしなべて8メートル以上の個体だけ。さらに人型をした個体も確認されていない。話によれば件の近衛従兵型も同じだったというではないか」
近衛従兵型はFOFを乗っ取り、その中のパイロットを捕食して擬態すると言えども、根本的にはコールタール状の粘液生命体だ。
ゆえにクロウがガイストである可能性はない、とアレックスは断言する。
「その近衛従兵型と同じく、まったくの新型である可能性は?」
「あり得んだろう。もしそれがあり得たら、とっくの昔に我々人類は滅んでいる」
それが、結論だった。
ベリウスは腕を組み、目を細めてアレックスとクロウ、そして自分の娘であるハルカを睥睨した後、ふう、と内圧を下げるよう息を吐いて、
「なるほど。確かにそうだ。評議員の方々もそれでいいな?」
総監がそう結ぶのに、評議員達は不承不承ながら頷いた。傭兵ギルドの一支部長──その肩書とは裏腹に強力な権力があることをにおわせる一場面だ。
そうして評議員たちを言い負かしたアレックスは、その顔に満足そうな笑みを浮かべると、そのままクロウの肩へ、その大きな掌を置いた。
「クロウ。これで君の権利は守ったぞ」
「は、はあ。どうも……」
後半はほとんど置いてけぼりだったのでクロウとしては目を白黒させるほかない。
ベリウスもそんなアレックスを見て呆れたようなため息をついて見せ、
「それで、アレックス。わざわざ一傭兵のためだけにきたわけではなかろう。そろそろ本題に入ったらどうだ?」
鋭い眦を向けてそう告げるベリウスに、アレックスは苦笑気味な表情を浮かべた。
「それも職務だというのは本心だぞ、ベリウス……だが、まあそれだけで来たのではない、というのも事実ではあるがね」
ひょい、と肩をすくめていうアレックス。
そのまま彼は評議員たちの面々を見やり、そしてその顔に笑みを浮かべた。
「本日は、傭兵ギルドの支部長として、私から、この場に集った評議員の皆々様に一つ提案をさせていただきたい」
迫力のある笑みを浮かべてアレックスが告げたのは、果たしてこのような言葉だった。
「──シティ、ギルドの合同によるバルチャー討伐作戦。それを成そうではないか」
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Q.ベリウスとアレックスの関係性って?
A.【運命】に〝選ばれた者〟と〝選ばれなかった者〟
【アレックス・フォーサー】
シティ〝カメロット〟の傭兵ギルド支部長を務める男。
傭兵ギルドの支部長として現在就任している男性で、もともとは凄腕のFOF乗りとしても知られた傭兵であった。
長年の傭兵生活の後、ギルドの上位存在である〝人工知能〟からその適性を見出されて、傭兵ギルドの職員となることを進められ、それを承諾。以降、十年以上にわたり、カメロット傭兵ギルドの支部長を務めており、その闊達とした性格からカメロット支部に所属する傭兵職員からはたいそう慕われている。
なお、彼の出身地もまたカメロットであり、ベリウスとその今は亡き奥方とは幼馴染というべき関係。もっといえば元恋敵であり、ベリウスの妻をめぐって散々やり合った後、結局その〝女の子〟をベリウスに取られてしまったが、それもカラリと笑って許したのがアレックスである。二人の結婚式では恨み言を呟きながらもその門出を祝い、結婚式の挨拶も務めたほどエーレンベルク家とは関係が深い。
ギルド支部長に就任して以降も、ベリウスと個人的なつながり持ち続けているアレックスだが、しかしその一方で支部長としてシティ総監となったベリウスにたいしては〝中立〟を貫いており、彼とは立場を異にする状態にある。
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