EP.019 可能性を喰らうプリテンダーⅡ/居酒屋にて
──そして、場面は現在へ戻る。
「──しっかし俺によく気付けたな。生身で会うのははじめてなのに」
工房近くの居酒屋。そこへハルカと共にやってきたクロウは、座席に座りながら目の前の男へと視線を向ける。
ハニーブロンドの髪色をした優男、と言った風な見た目のそいつはラスト・フレイル。
この世界で二週間ほど前のことか。こちらにやってきたばかりのクロウが、ハルカ共々最初に出会った人間の一人だ。
その時は黄色いカラーリングのFOFに乗っていて、通信も音声のみだったから声すら知らなかった相手がいま生身の状態でクロウの前にいる。
だが、それはラストも同じ。なのに彼の方からクロウのことを見つけた事実へ、クロウが疑問するのに対し、はたしてラストはこのように答えた。
「まあ、種明かしをすると、お前がエーレンベルクと一緒にいたからだよ。エーレンベルクが軍をクビになった後、傭兵になって、しかもお前に雇われたってのは話に聞いてたからな」
言いながらラストはクロウの横へと座ったハルカを見る。
いきなりラストから視線を向けられて目をぱちくりさせるハルカ。一方のクロウは、思わず「おいおい」という声を出してしまった。
「話に聞いていたって……一傭兵にすぎない俺のなにを聞いたんだよ」
「一傭兵ってお前なあ。あのグラム渓谷の突破に、軍を悩ましていたブレド高地の解放。さらにA級指名手配犯のヘッド&ガデル兄弟の撃破つう功績を次々と、しかも短期間で立てれば俺じゃなくても噂になるっての」
しかしクロウのそんな態度へラストの方が半眼を向けてくるので、逆にクロウが戸惑いを表情へと浮かべる羽目に。
また隣に座るハルカもそれを聞いて目を丸くしていた。
「え、え? グラム渓谷の突破……?」
「ん? おい、もしかしてお前、エーレンベルクにグラム渓谷のことを言ってないのか?」
目を白黒させるハルカを見て、なにかを察したラストの問いかけに、しかしクロウは首をかしげて、ラストを見る。
「いや、別に特別言うことじゃないだろ」
と、あっさり告げるクロウへ、大きなため息をつくラスト。
「いやいやいやいや。普通にヤバいことだからな⁉ グラム渓谷の突破っつったら大崩壊以降誰も、達成しえなかった偉業だ。それこそグラム渓谷の突破を題したミッションがあったらイタズラか自殺志願者の募集だと疑えって言われていたほどのものだぞ⁉」
「えー、そりゃあ歯ごたえあったけど、別に大したことなかったしなー」
確かに重砲撃型という脅威はかなり歯ごたえがあったが、あんなのはしょせんガイスト。
ゲーム中でもプログラムで動いていたような相手に、仮にも〈フロントイェーガーズ〉で世界一にまで上り詰めたクロウが負けるわけもない。
「かー、これが天才って奴かよ。たまんねえなあ、おい」
額に手を当て、ラストがそう発言する。
その上で彼は、クロウへと視線を向け、おもむろにこんな問いかけを発してきた。
「つーことは、ランクもそれなりに上がったんじゃねえのか? いまどれぐらいだよ」
唐突に問われたラストの言葉にクロウは怪訝な表情をする。
なにか、奇妙な話の変換が行われたように感じたのだ。
しかし、それがなんなのかいまいち理解できなかったクロウは、そのままやはり何の気になしな態度でラストへとそれを告げる。
「ああ、昨日Bランクになったよ」
そう、クロウが告げた瞬間、
「……そうか」
神妙な表情がそこにあった。
横に座るハルカですら驚いて二の句が継げなくなるほど、ラストの表情が変わる。
クロウもまた、そんな彼の変化に訝し気な眼差しを向ける中、ラストは一度出されていたお冷を口に含んで、そうしてクロウへと向き直った。
「なあ、クロウ──」
ラストが、なにかを言おうとした──まさにその時。
世界の動きが止まった。
「───」
目を見開くクロウ。
そんな彼の視界の中では周囲の光景に異変が生じていた。
ラストの向こう側で客へ料理を届けるため走り回っていた店員が、その姿勢のままで不自然に止まっている。
少し離れた席にいる親子連れの子供がこぼした水が、その状態で空中に静止し、窓の外ではあれほどにぎやかだった声があり得ないほど消え去っていた。
「これは」
目を見開き、その光景をクロウが見やる中、さらなる異変が続く。
クロウが座る席の前。
そこにいるラストから、ゆらり、とオーラが立ち上った。
赤色をした、それを見てクロウは思わず黙り込んでしまう。
その光景をクロウは過去に見たことがあった。
一番目は、この世界に来たばかりの時。
重装甲型ガイストを撃退したクロウへ、話しかけてきたあの謎の声が発生させたオーロラ。
二番目は、傭兵として登録して最初に受けた依頼。
世界の時間が止まる中、謎の声によって提示されたグラム渓谷突破の依頼を受ける際、クロウのPDから立ち上ったオーラ。
そのどちらとも似た赤いオーラがラストの体から立ち上っている。
と、クロウが認識した瞬間──はたしてそれは来た。
《あなたに告げます》
声。
どこか遠くから響くそれが、クロウへと話しかけてくる。
《運命の特異点の発生を確認。あなたには至急これに対処することを要請します。この特異点は世界を導く新たな可能性。それを開拓するにはあなたの力が必要です》
やはり何を言いたいのかわからないことを言う謎の声にクロウは文句の一つもつけてやりたかったが、それが無駄なのもこれまでの経験でわかっていたので、首を左右に振るだけにとどめ、代わりにため息を吐いた。
「なるほど──新たな〝導〟ってわけか」
どうやら謎の声がクロウへ、新たな求めを提示してきたらしい。
そうクロウが納得したのと同時に止まっていた世界の時間が動き出す。
「……? どうしたんだ、クロウ」
押し黙ったクロウを見て、話を途中で中断し、怪訝な顔を向けるラスト。
そんなラストにクロウは首を左右へ振った。
「いいや、なんでもない。えっと、なにか聞きたいことがあるんだろ。聞かしてくれ」
表面上は穏やかに。しかし内心ではかなり真剣みを上げながら問いかけるクロウに、それをうっすらと感じ取ったのか、ラストは戸惑いの表情を浮かべる。
「お、おう。いや、あのな。ちょっと傭兵としてのお前に依頼したいことがあるんだ」
「依頼?」
首をかしげるクロウに、ラストが、おう、と頷く。
その上で彼は姿勢を正し、まっすぐとクロウへ向き直ったうえで、それを告げる。
「なあ、クロウ。頼む、俺の部下を救出するのを手伝ってくれ」
この瞬間。
クロウと、第45観測拠点の運命が交差した。
────────────────────
数話前のコメントにたいする返信でも言ったのですが──
クロウがこの世界に来たのは、■■■■■・■■■■■に基づき、■■■の開■をするために世界■■■■■■■■■■■内にある■■■■■■・■■■■■■■の■■■■■■■■■■■■が、■■■■演算により、運命■■体を■■したからです。
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