EP.028 可能性の開拓者Ⅱ/堕した牡牛は、星を喰らい
【新作宣伝☆】
タイトル「転生恋戦~転生者の俺だけど、国から決められた婚約者がすっごく甘やかしてきます。どうしよう~」
作品ページURL:
「https://kakuyomu.jp/works/16817330666083845260」
第1話URL:
「https://kakuyomu.jp/works/16817330666083845260/episodes/16817330666083892476」
魔法あり、バトルありの男性向け異世界ファンタジーラブコメです! ぜひご覧ください!
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『──×××さん』
『×××さん! ありました! 古代遺物です!』
『ふふ。私、あなたと出会えてよかったと思ってますよ。あなたはどうです?』
『最初は不愛想で、不機嫌そうで、なんなんだろう、この人と思ってましたけど』
『でも、これで私の夢が──』
【×××さん、ただ、私はあなたと──】
……。
………。
…………………………………………………………。
『……アコ……』
ポツリ、とそんな名前を通信に乗せながら、それは目覚める。
真っ暗な闇の中、FOF格納庫でしばらく眠っていたそいつは機体のカメラアイを起動させながら周囲を見た。
はたして、目の前にはこちらへとカメラアイを向ける
『ボス? いかがなさいましたか?』
『……夢を見ていただけだ』
部下から向けられた気づかわし気な応答に、そう答えるアルデバラン。
『……? 夢……?』
『気にするな。それよりも、なんの用だウェアヴォルフ』
機体の腕を振り、そう告げるアルデバランに、そう言われた部下──ウェアヴォルフは決然とした声音を通信機に乗せながら、それを告げた。
『ボス。やはり考え直しませんか?』
『……またその話か』
ウェアヴォルフからの言葉に呆れ混じりでそう呟くアルデバランへ、ウェアヴォルフは止まらずに更なる言葉を続ける。
『ボス。ヘッド&ガデル兄弟がやられ、その情報が抜かれた以上、ここにとどまっていれば、いずれシティの連中が大挙してやってきます。一度、ここから離れて別の場所で再起を──』
そう提案してくる部下──ウェアヴォルフの言葉を、しかしアルデバランは機体の首を横に振ることで却下する。
『何度も言わせるな。俺はここでやるべきことがある』
『……ッ。そのやるべきこととはなんなのですか、ボス……⁉ 我々の生存以上にいったいなにをやるべきだと……!』
『……お前なら、そういうだろうな』
ふう、とため息をつくような音を機体の相互通信に乗せながらアルデバランは顔を上げた。
『ウェアヴォルフ。俺とお前の目的は憶えているな?』
『ええ。シティへの復讐──この世界の搾取構造であるシティを滅ぼし、世界の秩序を土台からひっくり返すことです』
『そうだ。そのために仲間を集めてきた。そして俺達はいま、最もその目的をかなえるのに近い位置にいる。だからこそ、このリヴァイアを俺達は捨てるわけにはいかないんだ』
そう部下へ告げると、通信の向こう側で不承不承ながら頷くヴェアヴォルフ。
『……承知いたしました。ですが、ボス。もし連中が総力をあげて攻め込んできた場合、我々が勝利できる可能性は限りなく低いということは理解しておいてください』
『わかっている。これまで略奪してきたエーテルだけじゃ、FOFを駆動させても一時間がせいぜい。攻め込まれたら負けるのは俺達だろう』
バルチャーは、他者からエーテルを略奪することで生計を立てている。
逆に言えば、バルチャーは他人から奪うことでしかエーテルを獲得できない。
そしてFOFというのはおおむねにおいて大飯食らい。シティのバックアップがある機士団や傭兵ならばともかく、バルチャーのようなシティを敵に回す存在にとってFOFを常に十全な状態に保つことは難しい。
ゆえに、自分達の根城を知られた現状は、本来ならば逃げの一択を取るのがバルチャーとして正しい選択だ。
しかしアルデバランはそれを拒絶している。
そうである以上、バルチャー達を取りまとめての防衛戦といくしかないが、その困難さにウェアヴォルフは苦慮のため息を吐いた。
『バルチャーをまとめることは難しい。そもそもがFOF乗りでありながら傭兵と言う仕事もやっていけないような社会不適合者です。もし戦闘が始まっても、まとめてぶつける以外の作戦は取りようがありませんよ?』
『……それを何とかするのがお前の仕事だろうが』
何度も言わせるな、と不機嫌を込めて言うアルデバランに、しかし今回ばかりはウェアヴォルフが食い下がった。
『ボス。やはり、拠点を移しては──』
と、また同じことを繰り返そうとしたウェアヴォルフに、アルデバランはため息をつく。
その上で彼は小さく何事かを呟いた。
『───』
『………ッ』
とたん、黙り込むウェアヴォルフ。
沈黙する部下を見てアルデバランは、やれやれ、と首を振りながら改めてウェアヴォルフへと、指示を下した。
『そういうことだ。お前は、俺の言う通りに仕事をしろ』
『……承知いたしました』
そう言ってウェアヴォルフが踵を返す。
去っていく部下の背中を見送ったアルデバランは、その姿が見えなくなると同時に視線を上へと向かってあげた。
『……アコ』
ポツリ、とアルデバランは、そんな呟きを漏らす。
『この世界に来て、もう十年近くがたつ。君を失ってからは八年だ』
言いながら、もう一度アルデバランは『アコ』と呟いた。
それは、かつて愛した人の名前。
しかし理不尽にも奪われ、この手からこぼれ落ちたその命の名前をアルデバランは、自分自身へ刻み込むように口にした。
『俺は情けないし、どんくさいから、こんだけ時間がかかってしまった。でも、アコ。もうすぐだ。もうすぐ、君との約束が果たされる。君を殺したこの理不尽な世界を、そこに住まうクソッたれな奴らを──』
両目のカメラアイを真っ赤に灼光させるアルデバラン。
暗闇の中、その両目だけを激しく明滅させて、アルデバランは感情のままに言う。
『──俺は、すべて滅ぼすよ』
アルデバランが視線を前へと向ける。
それと同時に。
彼らがいる遺構都市リヴァイアを轟音が襲った──
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【アルデバラン】
全域指名手配を受けている凶悪バルチャー。通称〝トロイアの虐殺者〟。かつて存在したシティ〝トロイア〟において、そこの住民百万人あまりをたった一人で虐殺したことから、そのような名がついた。
もともとはサルベージャーと呼ばれる遺構都市から旧文明の遺産や技術を回収することを目的として活動する人員の一人であり、FOFを駆って遺構都市に侵入、そこにいるガイストやバルチャーを排除しながら、遺構都市の重要な施設にアクセスし、そこから情報や技術を獲得するというこの職業はある意味において傭兵よりも過酷であり、さらに遺構都市の技術に精通するための知識を必要とする。
アルデバランの場合は、FOFを使って、強敵の排除や障害物の撤去などを行い、技術の回収については彼の相棒的存在であった女性サルベージャーが担っていた。
それによって彼は主に活動拠点とするシティ〝トロイア〟に多くの利益をもたらし、同シティの工業シティとしての発展に大きく貢献した。
しかし、同時期のこのシティ〝トロイア〟は、内部が汚職で腐り果てており、権力者は自らの権益を独占するばかりで、酒池肉林を繰り返し、一方で下層の住民はまっとうに運用されれば飢えることがないはずのシティで毎日貧困に苦しみ、その日の食べ物にすらありつくのに苦労するという有様だった。
この点は他のシティからも問題視されたが、シティ〝トロイア〟から供給される工業品は、他のシティにとっても欠かせないものであったため、見過ごされ、ますますその状態はひどくなることに。
そんな最中、サルベージャ―として活躍していたアルデバランとその相棒の女性サルベージャーは、その状況を見過ごせず、環境の改善をシティ上層部に訴えたのだが、これがシティ上層部の怒りを買い、結果としてアルデバランとその女性サルベージャーは、ガイスト群生地にわざと誘い込まれる形で、置いて行かれるという卑劣な罠にかけられた。
これによって一度はアルデバランとその女性サルベージャーは行方不明となるが、しかしその数日後、突如としてアルデバランがシティ〝トロイア〟に現れ、そこを襲撃。同シティを守っていた守備隊FOF三十機あまりを単独で撃破し、さらにシティの中央部をそこにいる住民ごと虐殺。その上でシティにとって重要な大型エーテルジェネレーターすら破壊してのけたことで、シティの機能は完全に停止することに。
ジェネレーターの破壊は、そこから供給される各種資源や食料によってその日の食い扶持を確保していた下層の住民すらも巻き込み、彼らを死に絶えさせ、シティ〝トロイア〟は上層、下層の区分に問わずそこにいた住民すべてが滅ぼされることとなった。
以降、アルデバランは凶悪指名手配犯として指名手配を受け、バルチャーに身をやつし、その後の消息についてはあまり知られていない。
なお、この件を受けてシティの防衛を見直す機運が都市同盟の中で巻き起こり、これが結果としてシティ〝カメロット〟の軍事偏重政策へもつながるなど、多方面に影響を与えた。
また、これはまったくの余談だが、このシティ〝トロイア〟は、あのヘッド&ガデル兄弟の出身地でもある。
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