EP.029 可能性の開拓者Ⅲ/クロウとゆかいな仲間達


《──ミッションの内容を説明する》


 霧の都リヴァイアへ向かう道中。FOFに乗って、大地を駆ける機士や傭兵達に向かい、今回の作戦における総司令官的立場についているラストがそんな声を通信に乗せた。


《今回の作戦目標はいたって簡単だ。バルチャーの殲滅。これただ一つ。連中の生死については問わん。とにかく連中を殲滅すること、それだけに集中してくれ。また撃破ごとに報酬も加算されるから、傭兵連中は奮ってバルチャーの相手をしてくれるとたすかる》


《つまり、我々は尖兵ということか。まあ、お行儀のよい機士様方の武勲を奪う程度には活躍させてもらうとするよ》


 傭兵の一人がそう茶々を入れるのに、傭兵達は失笑。


 それを受けながらも鷹揚に頷いたラストが、さらに言葉を続ける。


《まあ、そういうことだ。と言っても、作戦では傭兵を最初から捨て石にはしないから安心しろ。まず突入するのは俺達──鋼槍機士団だ。


 俺達が最初にリヴァイアへ突入。そこに隠れ潜むバルチャーどもを盛大に挑発しながら動くことで敵を誘引。


 そうして誘い込んだ連中を左右両翼に分かれた傭兵が後続から突入し、包囲。あとはまあ煮るなり焼くなりお好きなようにってところだな》


《なるほど、古典的だが手堅い作戦だ》


 ラストの言葉を賞賛する傭兵の声。しかしそれを聞いてクロウは〈ラーヴェ〉のコックピット内で首を傾げた。


「……それって、でも連中が誘いに乗らなかったり、あるいは攻撃して引いてを繰り返すヒット&アウェイの戦法をとったら破綻しないか?」


 クロウとしては当然の疑問。


 だが、その疑問を通信機越しに聞いて鼻で笑う者がいた。


《ハッ。それはねえよ。連中にそんな高度な作戦など取れるもんか。それができていたら、最初から連中はバルチャーなんてクズ野郎になりはしねえ》


《言いすぎだぞ〝狂気なる猫マッドキャット〟の総長……だが、まあ。そういう精神論を抜きにしても、バルチャー側に高度な作戦をとる余地はないだろう》


 傭兵団〝狂気なる猫〟の総長の言葉を同じ傭兵団である〝誠実なる揺り籠オーネスト・クレイドル〟の二代目団長であるオスカーが窘めつつ、そう言葉を漏らした。


 それに対して、会話を聞いていたラストも頷きを返す。


《まあ、そうだろうな。バルチャーってのは略奪で生計を立てている連中だ。シティがこれまで奪われたエーテルの総量的にも、連中がFOFを全力駆動させられるのはせいぜい一時間が限界。必然的に短期決戦以外に連中は取りようがねえ》


「ああ、なるほど……」


 ここら辺、クロウとしてもゲーム時代のやり方を引きずっていて忘れがちになるが、この世界にはFOFを動かすのにもエーテル? とやらが必要になる。


 それを消費する以上、バルチャーのFOFにだって活動限界はあるわけで、そして略奪によって生計を立てている以上、それは転じてシティ側にも保有するエーテルの総量がおおよそではあっても把握されているということ。


 クロウがそう納得で頷くのに対し、しかし〝狂気なる猫〟の総長は悪態をつく。


《ったく、このぐらいのことは常識だろ、常識。そんなものも知らねえでなんで傭兵やれんだよ。つーか、本当にこんなガキが役に立つってのか、ええ?》


 と、悪態をつく〝狂気なる猫〟の総長の言葉を、しかし意外にもオスカーが否定する。


《さて、それはどうかな。話によれば彼はあのヘッドとガデルの兄弟を倒したという》


 オスカーの言葉に《あ?》と反応する〝狂気なる猫〟の総長。


《それは知っているが、なんだっていうんだ。たかだかバルチャー一匹か二匹の話だろ》


《身内の恥をさらすようであれなのだが、ヘッド&ガデルの兄弟は決して侮れない実力者だ。特にあの二人が揃った状態で戦うとなれば、我々も総力を挙げて挑まねばならないだろう。それを単独で撃破したという功績は十二分に実力として評価するべきではないかな?》


 そこまで告げた上で、オスカーは、そもそも、と口にして、


《兄弟に限らずとも、一対複数でFOFを相手取れる者がどれほどいるという? 少なくとも私は無理だ。そちらは?》


《……チッ》


 舌打ち。〝狂気なる猫〟の総長が漏らしたそれこそが、答えだった。


 ただ、それでも異論はあるのか〝狂気なる猫〟の総長が言う。


《だとしても、今回の戦闘はバルチャーの大群が待ち構えている拠点だぞ。それに普段の戦場と違って、エーテル嵐がはびこる環境だって話じゃねえか。その点でこのガキが対応できるとでもいうのかよ?》


 と、〝狂気なる猫〟の総長が疑問したのに、反応したのはクロウの後ろに座るハルカだ。


「確かに……ラストさん。その点はどうなっているんですか?」


 元上司と部下と言う関係ゆえの気安さでハルカがラストへと確認するのに、それまで会話を静観していたラストが苦笑交じりに応える。


《それも考慮して、今回の作戦にはエーテルアンテナドローンを搭載したFOFを帯同させている。こいつから発射されるドローンが常に通信を繋いでくれるから、通信環境の心配はしなくていい。それと──》


 言って、ラストは機体のカメラアイを自分達に帯同するもう一つの機体群へ向けた。


 そこには多脚ドラグーンフレームに重厚な砲を装備した砲撃型のFOFが。


 ラストは、そんなFOF達を見て言う。


《今回の作戦には爆轟機士団から直々に機士団長を含めた三機の砲撃仕様FOFが帯同している。先のエーテルドローン越しに通信を行うことで火力支援をしてくれるから、いざなにかがあっても、彼らの支援があればいくらでも切り抜けられる》


 紹介されるのに呼応して、通信機に多脚フレームを駆る機士──爆轟機士団に所属する機士団長からの通信が入った。


《ご紹介にあずかりましたので、名乗らせていただきます。私は爆轟機士団機士団長のB‐1〈ブリューナク〉と申します。以後お見知りおきを》


 意外なほど丁寧な口調でそう自己紹介した声音は、なんと女性のもの。


 別にFOF乗りは男性だけ、というわけでもないのだが、その上品な喋り口調も相まって荒くれものばかりなFOF乗りとしては少しだけ異彩を放っていた。


《B‐1はこんな口調だが、その腕は確かだ。こと遠距離砲撃をさせたら世界でも五指に入るだろう。企業連のアリーナランク第五位〈アーバンレスト〉ともいい勝負だろうぜ》


 その企業とかアリーナランクとかはクロウにもわからなかったが、それを聞いた傭兵達が感心したような声音を出すので、恐らく相当な腕前ということなのだろう。


《なるほど。では期待しようとするか》


《ハッ、俺は話半分だとは思うがな。まあ、シティの正規軍様だ。そこらの雑魚連中よりも使えるとは思っておくぜ》


 と、傭兵達が口々に言った後、クロウ達の目の前に大きくそびえるものが見えた。


「あれは──」


 たとえるな巨大な白い繭。


 ただしそれを構成するのは大半が霧だ。真っ白な濃霧が、本来の摂理を無視してその街の外周に漂っている。


 あれこそが、遺構都市リヴァイア。旧文明の遺産がいまもなおいくつか駆動していることで起こったエーテル嵐により、常に霧で覆われた文明の跡地。


《リヴァイアが見えたな。よし、作戦通りに事を進める。俺達鋼槍機士団が先行で突入。エーテルドローンをばらまきながら通信網を構築し、敵を誘引する。ある程度敵を誘引したら、爆轟機士団に砲撃をさせるから、その砲火に紛れて、傭兵達も突入してくれ》


《《《了解!》》》


 ラストは宣言と同時に、部下を率いて、霧の都へと突入していく。


 ──そうして、戦闘が開始された。










【今次バルチャー討伐作戦に参加したゆかいな仲間達紹介】

 今回は今次のバルチャー討伐作戦に参加している愉快な仲間達について紹介する。


〝誠実なる揺り籠〟二代目団長オスカー・ウィンベル

 あのヘッド&ガデル兄弟とも因縁がある〝誠実なる揺り籠〟の二代目団長。わざわざ二代目とつけるのは初代であり兄弟に殺された先代にたいして敬意を払ってのもの。


 彼自身先代の『息子』を自称するが、実際に先代との間には血のつながりはなく、ヘッド&ガデル兄弟のように先代が拾ってきた孤児みなしごの一人である。しかしヘッド&ガデル兄弟とは違い、傭兵団の名前の通り誠実なる男として育ち、周囲の推薦もあって二代目に就任。父の遺志を継ぎ、同じく『父』が拾ってきた孤児たちで構成される傭兵団を率いている。





〝狂気なる猫〟総長クライヴ・ホーン

 腕利きの傭兵団〝狂気なる猫〟の総長。いわゆる典型的な傭兵と言う奴で、言動も見てくれも荒くれものそのもの。だが、ミッションの達成率は高く、ほとんど失敗したことはない。傭兵団としては堅実なミッションを数多くこなしつつ、時に今回のような博打めいたミッションにも手堅く成功してきたことで、評価を高めてきた。


 彼自身、自分が荒くれものという自覚はあるが、バルチャーとは違って無法はしないと誓っており、またこの言動自体も実際のところ、自主独立しているゆえに割を食いがちな傭兵という立場上、あえて強気に出ることで交渉を有利に進めるための演技と言う側面もある。本質は仲間想いで、過去には、一度だけ酒を飲み交わしたというだけの縁しかないにもかかわらず、敵中に孤立した他の傭兵を助けるためだけに出撃し、見事救出してのけたなんて逸話も(なおその後ちゃっかり費用は請求した)。




〝爆轟機士団〟機士団長マリア・オーレイン

 近年のシティ〝カメロット〟軍拡によって成立した砲撃仕様のFOFで構成される爆轟機士団の機士団長である女性。


 その喋り口調からもわかる通り、シティ上層部の出身であり、実はハルカとも親戚関係。本人は故郷のために献身するをよしとするノブレスオブリージュ精神の持ち主で、機士団長になる際には親から盛大に反対されたが、それを押し切ってシティのためその身を粉にして働くことを選択した。


そのことから彼女が率いる爆轟機士団や、ある意味では対立相手である鋼槍機士団の機士たちからも彼女を慕う者は多い。


 特に遠距離狙撃に対する適性が高く、狙撃させれば百発百中。その様からTACネームも古の時代に存在したとされる必中の投げ槍からとった〈ブリューナク〉と勇ましいものになっている。

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