EP.030 可能性の開拓者Ⅳ/持たざる者どもの輪舞


 遺構都市リヴァイアでの戦闘は苛烈を極めていた。


《ひゃっはー! 押せ押せ!》


《ぎゃははは、本当にこいつらシティの軍隊かあ⁉ 軟弱すぎるぜェ‼》


《オラッ! 直立重機パワーローダーども突っ込め! 撃てば当たるんだ! イケイケ‼》


 バルチャーらしく暗号化もへったくれもないオープン回線で放たれる通信を聞きながら戦闘の渦中にあったラストは呟きを漏らした。


「順調だな。ここまでは


 愛機のコックピットでそのハニーブロンドの髪をかき上げながら呟いたラストに、部下の一人が《そうですね》と暗号化通信を向ける。


《作戦は現状その八割までを達成しております。連中のFOF及び直立重機部隊は双方ともに誘引され、所定の位置まで誘導されておりますな》


 部下が告げる通りだった。


 一見するといまの現状はラスト達、シティ〝カメロット〟の鋼槍機士団FOF部隊が押されているように見える。


 しかし、それは作戦の一環だ。


 この作戦の本質は敵の誘因。そのために敵の攻撃に押されているかのようにふるまっているラスト達。


「まあ、正直業腹ではあるけどな。敵にわざと負けているようにふるまえなんて」


《ですが、この作戦が一番効率的です。敵の拠点に分け入って一つ一つをクリアリングしながら敵を殲滅していく作戦を取る余裕は我が方にありませんから》


 ひょうひょうとした態度で言う部下。その言葉を否定することがラストはできない。


「……持たざる者のジレンマだなあ」


 実のところ、この作戦においてラスト達、鋼槍機士団はそこまでの余裕はない。内陸の食料生産系のシティとしては規格外の軍事力を誇るシティ〝カメロット〟ではあるが、それはあくまで食糧生産系としては、だ。


 カメロットの軍事力ですら、その手の軍事系シティと比べても遠く及ばない。


 さらに現在の鋼槍機士団には、戦力を多く出せない事情もあった。


「やっぱり、第45観測拠点での件が痛すぎたな。あれがなければ、こんなまごまごした作戦を取らなくてよかったのに……」


 先の第45観測拠点での事件。あれでガイスト近衛従兵型により、鋼槍機士団は訓練生も含めて十数機ものFOFを失った。その影響から戦力を大幅に減じている鋼槍機士団にとって、実のところ戦力的な余裕は一切ないのだ。


 いま投入している18機のFOFですらシティの防衛を度外視した戦力。


 正直、出撃しなくていいのなら出撃したくなかったが、しかし相手はバルチャー。シティの経済に大打撃を与えてきた奴らの居場所が判明した以上、ここで叩かなければ次いつ同じように叩けるのか、という判断がこのような作戦を行わせるに至った。


 結果──


《──‼ こちらF‐14。我が機体のAPRAが30%を切りました!》


「F‐14! お前は、いますぐ離脱しろ! F‐7はF‐14のカバーに入れ!」


 大きな損傷を負って、APRAが僅少となった機体に、離脱を命じつつ、ラストもまた先陣を切って、敵陣へと突っ込む。


「俺が敵を引き付ける! その間にお前達は陣形を整えるんだ‼」


 了解! という部下達の唱和を聞きながら、ラストは目の前に迫った敵へ杭打機パイルストライカーを叩き込みつつ、作戦ではなく純粋に押されがちとなっている状況に舌打ちした。


「チッ。やっぱり数の差はいかんともしがたいか」


《ですが、敵の誘因率は相当なものです。現状でも確認できる限りで26機のFOFをここへ引き付けています。ほぼ敵の全軍ですよ》


「26機? 残り2機は? 敵の総数は28機だろ。確認されていない相手は誰だ?」


《少しお待ちを──照合取れました。どうやらアルデバランと、その副官であるウェアヴォルフですね。その二機だけがここにいないようです》


 部下からの言葉を聞いて訝しげな表情を浮かべるラスト。


「よりにもよって、その二機かよ」


《部下に戦闘を押し付けて逃げたのでしょうか?》


 そう部下から問われるのに、しかしラストは首を横へ振り、


「いや、それはあり得ないだろう。荒くれもののバルチャーだ。上の奴がとんずらこいて自分達が時間を稼ぐ、なんて献身的なことをするわけがねえ。一機や二機はそうするとしても、他のすべてで時間を稼ぐなんて言うほど連中の結束力は強くねえよ」


 そう判断しつつ、ではどこに連中はいるのかとラストは疑問する。


 だが、その答えがわかるよりも前に、ラスト達の作戦が第二段階へ入るのが早かった。


《──! 総隊長! 連中の誘因が所定の位置にまで達しました》


「──‼ そうか! エーテルドローンの散布率は⁉」


《もちろん、ばっちりです! 作戦通りに散布されています!》


 部下からの頼もしい返答に、ラストはそ唇の端を鋭く吊り上げた。いっそ獣的にすら見えるほど野性的な笑みを浮かべて、ラストは号令を発する。


「ならば、通信を入れろ! 〝槍を放て〟繰り返す! 〝槍を放て〟だ!」


 エーテルドローン越しに回線が繋げられ、ラストのその言葉は確かに相手へと届いた。


 瞬間。


《──砲撃反応! 着弾、来ます‼》


 部下の叫び声と同時に、遺構都市外縁で待機していた爆轟機士団の砲撃仕様FOF三機から放たれた砲撃が、大きく弧を描いて到来する。


 FOF用のエーテルスロワーキャノンによって放たれたエーテルの砲弾は、遺構都市にくすぶる霧を貫き、まさに投げやりがごとく頭上からバルチャー達へ向かい落ちてきて──





 ──大爆発。





 拘束を解かれたエーテルが膨大な熱量の奔流と化してバルチャー達を撃破する。


 直立重機はたまらず蒸発。FOFですらそのAPRAを大きく減衰させ、中には行動不能に陥る機体すら存在した。


「しゃあ! さすが〈ブリューナク〉。見事な砲撃だ!」


 観測射撃無しの一発撃ちで見事バルチャーを爆撃してのけた友軍の腕前を讃えつつ、ラストはさらに部下へ通信を入れる。


「作戦を第二段階へ移行! 傭兵達は⁉」


《爆撃と同時に突入済みです。後3分で現着します!》


「よし、ならばその3分を耐えきれ! そうすれば連中が包囲されて俺達の勝ちだ! なに、さっきまでと違って、やつらの陣形は大きく崩れている! そんな奴らにやられるほど俺達は弱くねえよなあ⁉」


《もちろんです。総隊長!》


 力強い返答。それと同時に通信回線に鋼槍機士団の叫びがこだました。


《我ら鋼槍機士団アイアンランス! その鏃は鉄のごとし!》


《我ら鋼槍機士団アイアンランス! 我ら常に先陣にありて!》


《我ら鋼槍機士団アイアンランス! 何人たりとも我らの前に非ず! 故郷にあだなす邪悪を討たん‼》


「故郷よ、我らの後ろで永遠であれ! 槍砕けようともその魂、鉄のごとしであれ‼」


《うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼‼‼》


 叫び声が通信回線に鳴り響き、鋼槍機士団のFOF部隊が唱和する中、彼らは体勢を崩したバルチャー達へ向かって次々と突撃していく。


 状況は混戦に。敵味方入り乱れて白兵戦を繰り広げるFOF達。


《う、うお⁉ なんだあ! 急に奴らが押し返してきたぞ⁉》


《クソクソクソ! 俺サマは強いんだぞ‼》


《なんなんだよ、さっきまで押していたじゃねえかよお!》


 バルチャー達も混乱し、苦境に陥る中、突入していた傭兵達が左右両翼へ展開したという通信がラスト達へ入った。


「傭兵達も、展開を完了した! あとは包囲を縮めるだけだ! 押せ押せ押せ‼」


 部下達へ発破をかけ、バルチャー達を押し返し、包囲するよう指示するラスト。


 作戦は上手くいっていた。


 これ以上ないほどに。


 





 ──





「あ──?」


 チカッという光。


 それが起こったと思った次の瞬間──極太のビームがラスト達へ到来する。


「──ッ‼ 回避、回避ィ‼」


 ラストが絶叫を上げるのと、それが戦場に突き刺さるのは同時。


 極太のエーテルビームが、戦場を焼き払う。掠っただけでARPAを一瞬で吹き飛ばすその一撃により、甚大な被害が鋼槍機士団、バルチャー双方に出ていた。


「エーテルビームブラスターだと⁉」


 。 


 大規模な軍事系シティなどが防衛用に保有するような兵器である。


「なんで、バルチャーがんなもん持ってんだよ⁉ 一発当たりエーテルを消費するような代物だぞ⁉」


 明らかに計算が合わない。


 バルチャーがこれまで略奪してきたエーテルの総量。さらに一日あたりの消費量なども計算に入れて、かなり正確にバルチャー側のエーテル保有量は算出されていたはずだ。


 なのに、その前提を覆すような道具を持ち出してきたことにラストが驚愕する中、その驚愕を上塗りするかの如くエーテルビームブラスターの第二射が襲ってきた。


「なん──」


 だと、と言う暇もなく、突き刺さり焼き払うエーテルビームブラスターの一撃。


 極太のエーテルビームが戦場を薙ぎ払い、敵も味方も関係なくFOFや直立重機をその一撃でもって蒸発させていく。


「野郎ッ、敵も味方も関係なく砲撃しやがった⁉」


 はっきり言えば、今の一撃、被害はバルチャー側の方が大きい。


 もともと戦力差的に向こうが優位だったのもあるが、こちら側が連携して回避行動をとるのにたいして、バルチャーはほとんど回避行動をとる間もなく、エーテルビームブラスターの一撃に飲み込まれたからだ。


 味方にどれほど被害が出ようともこちらを殺しにかかるそのやり方に、さすがのラストも絶句する中──さらにそこへ、ラスト達を絶望させる報告が入ってきた。


《……ッ‼ バルチャーが散開! 左右両翼の友軍に向かっています!》


「なに⁉」


 部下の報告通りだった。いまの一撃を生き残ったバルチャー達が、いっせいに左右両翼から包囲しようと迫ってくる傭兵部隊へ向けて移動している。


 二手に分かれたバルチャーはそれぞれの両翼に十分な数を投じていた。


 このままぶつかれば傭兵部隊は戦力差で圧倒されるだろう。


「止めろ! 奴らの背後を追って、叩くんだ!」


 慌ててラストがそう命じるが、しかしそれを実行することはできない。


 その前に、エーテルビームブラスターの第三射がラスト達を襲ったからだ。


「───ッ! クソがあ──‼」


 絶叫を上げラスト達、鋼槍機士団は慌てて回避行動に移る。


 戦場は、混迷を極めていた。








────────────────────

Q.なんか、クロウの影薄くない?

A.次回以降に無双するため、現在ウォーミングアップ中。


【エーテルビームブラスター】

 今回バルチャーが使用した兵器のこと。

 エーテルビームブラスターとは、主に防衛用あるいは攻城用に使用される大規模破壊兵器であり、特に軍事系のシティが保有していることが多い。


 一発当たりFOF30機分に相当するエーテル消費量を誇る大飯食らいの兵器であり、その分だけ威力は絶大。一発放てば、FOFならば数十機まとめて破壊しうるほどの威力を持つ。


 今回の場合、ラスト達、鋼槍機士団はもしものために、こういったエーテルビームブラスターを回避する訓練を積んでいたため、損害も軽微済んだが、それでも、作戦に大きな支障が発生し、さらに動きも拘束されてしまった。


 それにしてもなぜバルチャーというそこまでエーテルを保有しているわけではないはずの勢力がこれを有していたのかは謎である。


 はたして彼らはどこからこれを手に入れたのか……その理由の解明が待たれる。

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