EP.062 暗中模索のデストロイヤーⅢ/詐欺師は笑顔と親しみをもって近づいてくる


 ガイスト達は救援に現れた〝湖の乙女〟によってあっけないほど簡単に殲滅されていく。


 一傭兵団でありながら百機以上のFOFを保有するという大戦力を持って、次々とガイストを葬り去っていく〝湖の乙女〟を見やってなんとも言えない表情になるクロウ。


「あれほどの数いたガイストを殲滅してくれるのは、嬉しいと言えば、嬉しいんだが……」


 しかしクロウは言葉の途中で口をつぐむ。


 微妙な表情のままに押し黙ったクロウに後席のハルカも気づき、パチクリと目を瞬かせた。


「どうされましたか、クロウさん」


「……いや、なんでもない。うん、なんでもないはずだ」


 クロウ自身も自分がなにに違和感を抱えているのかわからなくて、結局続く言葉はないまま首を振る仕草だけをする。そんなクロウ達に歩み寄ってくる球形胴体のFOF。


《やあ、そこの黒いFOF。すこし対面での通信いいかな?》


 言って、クロウの愛機である〈ラーヴェ〉が映像通信を許諾してほしい旨を受諾。


 画面に表示されたそれにクロウは怪訝な表情を浮かべながら後席のハルカに振り向いた。


 ハルカもまた戸惑いつつ、クロウたいして頷き返した。クロウは映像通信の許可を押す。


 すると、クロウ達の目の前に一人の男性の顔が表示された。やたらと白い歯を見せる笑い方が特徴的な、狐顔の男だ。


《改めて、あいさつする。私はゴーマ。ゴーマ・ブルータス。傭兵団〝湖の乙女〟の代表だ》


「クロウ。傭兵ギルド所属の傭兵だ」


 ぶっきらぼうに挨拶するクロウ。続いてハルカもペコリと一礼し、


「ハルカ・エーレンベルクです。クロウさんの専属オペレーターを務めております」


《おお! 随分と可愛らしい女の子だ! ハルカと言ったね? 我が傭兵団には女性も多い。ぜひともよろしく頼むよ!》


 ハルカの姿を捉えた瞬間、そんな風に声を上げるゴーマに、ハルカは若干引き気味な表情になり、クロウもこの時ばかりはしかめるような表情をした。


「……うちのオペレーターに話しかけるな、とは言わないが。その前になすべき礼儀ってものがあるんじゃないか?」


 なぜだか面白くない想いを抱きながらクロウが珍しく皮肉めいた言葉を口にする中、しかしゴーマはそれに対して意にも返していないような様子で。


《んん? はは、すまないすまない。あーっと、クロウだったか? ここら近辺は我らの傭兵団で大丈夫だ。君は陸駆輸送船の護衛に戻りたまえ》


 一方的な口調で告げるゴーマ。それにクロウは眉をひそめて画面に映る狐顔を見やる。


「それはありがたいが、本当にあんたらだけで大丈夫なのか?」


 実に三個梯団と言う大規模戦力。


 その内三十体ほどはクロウの手によって撃破されていたが、それでもなお二百体超と言う数のガイストがいまだ存在する中で、自分達だけで十分と言うゴーマ。


 さすがにクロウも多勢に無勢なのでは? と懸念を示すが、ゴーマはそんなクロウに対しても《心配いらない》と告げ、


《見ての通り、我が傭兵団は精強だ。このぐらいの数物ともないとも》


 確かに百機以上いる〝湖の乙女〟のFOF達は危なげなくガイストを殲滅していっている。


 それぞれのFOFは決して突出した実力を持っているわけではないのだが、劣る技量は巧みな連携で補っているらしく、必ず三機一組で行動してガイストを一体一体確実に撃破していっていた。なるほど確かにこのままいけば遠からずガイストを全て撃破することは可能だろう。


 だが、クロウはなぜだか、そんなFOF達の動きを見ていまだに信用できないような思いを抱いていた。具体的になにが、と言われるとクロウもわからないのだが、妙に〝湖の乙女〟に所属するFOF達の動きに違和感を覚えるのだ。


 そんな違和感を前に、本当にこの場で引いていいのか、と逡巡するクロウ。だが、抱いた迷いは、結局後席のハルカから声を掛けられたことでうやうむやとなることに。


「クロウさん。ここは〝湖の乙女〟のご厚意に甘えましょう。私達も陸駆輸送船まで長距離移動してきた直後の戦闘で、機体のエーテルが足りませんし」


 ハルカの言う通り〈ラーヴェ〉の動力源であるエーテルが半分を割っていた。


 クロウの腕前ならば、このぐらいでも戦闘を継続するのに問題はないが、一方でいまが無茶をする状況かと言われればそれも違う。


「……わかった、確かにここで強情を張るのも違うか」


《はは、任せてもらってたすかるよ。ハルカ、それとクロウ。またあとで話でもしよう》


 ゴーマからのそんな言葉を最後に通信が切られる。


 その後、クロウとハルカは一度陸駆輸送船〝幸運の運び手〟号まで後退した。


 甲板にクロウ達が着陸すると同時に、事前に連絡を受けて待機していた甲板作業員がクロウの愛機である〈アスター・ラーヴェ〉にエーテルの供給を開始。


 愛機にエーテルが補充されるのを確認しつつ、クロウ達は一度コックピットから降りる。


 そうして地面に降りたのと、クロウ達にオスカーが駆け寄ってきた。


「クロウ! それにエーレンベルクさん!」


 陸駆輸送船側でもいろいろあったのか、別れたのが十数分前のことだと思えないほど疲れた表情を浮かべる彼は、それでも爽やかな笑みを浮かべて戻ったクロウ達をねぎらう。


「よくもどった。すまいな、すべてを君達に任せてしまって」


 本気で悔いるように謝罪を口にするオスカーにクロウは大袈裟だな、と内心で思った。


「気にするな。役割分担だよ。俺は単独ソロの傭兵だからな。集団であるそっちが防衛を行って俺が打って出ることで時間を稼ぐ。あの時点ではそれが一番合理的な判断だったよ」


「……はは、そう言ってくれるとたすかる。ただ、我らの役割を果たせていたかと言えば、正直微妙ではあるがね」


 嘆息するオスカーに、クロウもさすがに気づかわし気な表情を彼に向けた。


「ああ、資産家に何か文句をつけられたって? そういえばあの輸送ヘリは?」


「無事、到着した。薬を投与されて患者も落ち着いている。そのことは喜ばしいのだがね……とはいえ、患者にも輸送ヘリにも今回の件で二両の陸駆輸送船とその乗員乗客を危険にさらしたという自覚をもってほしいものだ」


 本気でうんざりした声でぼやきを口にするオスカーにクロウは肩を叩いて彼もねぎらう。


「まあ、それはいい。救援の傭兵団がやってきてくれて、ガイストも無事殲滅されていっているからな。結果よければ、と言うのは軽薄でも、とりあえず問題が起こらなかったことを喜ぶ方がいいと思うぜ、俺は」


「ああ、そうだな。その通りだ」


 告げられた言葉に笑みを浮かべて頷き返しつつも、しかしオスカーの表情がまだ硬いのに気づいて、クロウは首をかしげる。


「どうした、オスカー」


「……いや、他の傭兵団を悪くいうものではないのだが、まさか救援にやってきた相手が〝湖の乙女〟なのかと、思ってな」


「??? オスカーさん。あの傭兵団になにか問題でも?」


 かつて同傭兵団に所属することも考えていたこともあるハルカが首を傾げて問う。


 ハルカの疑問にオスカーはしかしすぐに続きを口にせず、迷うような間を置いた。だが、それも一瞬のこと。オスカーはやや声を潜めながら、それを口にした。


「これはあくまで私個人の見解であり、いわば根も葉もない憶測にすぎないのだが……あまりいい噂は聞かない傭兵団だよ。団長はよく女性関連でトラブルを起こすことで有名だし、それに傭兵団自身、後ろ暗い連中との付き合いがあるともっぱらの噂だ。それと──」


 と、そこでオスカーが押し黙る。


 突然、口をつぐんだオスカーにクロウとハルカは目をぱちくりとさせた。


「どうしたんだ、オスカー。いきなり黙って」


「……いや、正直これについては私も眉唾だと思っているんだが〝湖の乙女〟にはある噂が持ち上がっていてね」


 曰く、


「ガイストを操る技術を持っていて、それによって戦果を水増ししたり……もめた相手にガイストをけしかけて謀殺している、というそんな話がね」


 まあ、さすがにそれはあり得ないとはおもっているが、と言うオスカー。


 だけどなぜだろう。クロウはそれにストンと納得するような思いを抱いた。










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