EP.061 暗中模索のデストロイヤーⅡ/3ウェーブ目に味方が現れるのってありがちだよねって話
本話クソ長いです。お覚悟を
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時刻はクロウとオスカーが出会った時から少しだけ遡って陸駆輸送船〝楽しみこそ正義号〟がガイストの襲撃を受けた日の夜。
その客室の一つにとある老人がいた。
「ごほがほ、がっ……!」
「だ、旦那様! おい、薬を! 薬を早く!」
激しくせき込み、もがき苦しむ老人を見て、その老人の使用人なのだろう執事がそう声を張り上げるが、それに陸駆輸送船の船医である男はしかし顔を青ざめさせながら首を横に振る。
「む、無理です。この病気の薬は、当船にはありません……‼」
「そんな……! なんとかならないのですか⁉ 金ならばいくらでもあります。旦那様は企業同盟の十二企業〝
たまらず船医に詰め寄ってそう執事が強要するが、ないものはないと船医は告げた。
「そうは言われましても、循環船がガイストの襲撃で止まっているので無理なのです! エーテル化して送ろうにもお求めの薬はかなり特殊な設備を使用しないと精製も不可能なもの。とてもではありませんが、当船では製造できません……!」
「ああ、なんてことだ」
船医から否を突き付けられ、天を仰ぎ見る執事。
もがき苦しむ会長がすぐそばにいるのに、執事にはなにもできないという状況。
それに執事は涙し、力なくうなだれる。そんな執事の姿を不憫に思ったのか、船医は顔を歪め、そしてなぜか視線を右往左往させた。
「……一つ、方法がないこともありません」
ぽつり、とそう呟く船医。それを聞いて執事は勢い込んで船医に詰め寄る。
「……! お聞かせください! どんなことでもなんとかしますので!」
自らの肩を強く掴み上げて、その手段を聞き出そうとする執事に、しかしなおも船医は逡巡を浮かべたが、執事の血走った眼差しに圧され、結局はそれを口にした。
「これはここだけの話。外部にはご内密に願います……実を言いますと、我々のファミリーは企業同盟にも知られていない秘密輸送路を確保しておりまして。それを使えば、もしかしたらお求めの薬をこの場まで輸送することが可能かもしれません」
「それは……いいえ、旦那様のためです。その秘密を守りましょう。ですから、どうか……」
「ええ。ああ、それとついでに、これでそちらの方の命が助かりましたら、この輸送路の支援のほうもなにとぞお願いしますね」
ちゃっかり自分達の利益も確保しながら、医者は裏の輸送路から薬を確保するべく、その運び屋に対して連絡を行った。
☆
そして時間は現在へと戻って、
「久しいな、クロウ。まさかこんなところで会えるとは思えなかったよ」
言って金髪の青年──傭兵団〝
「こちらこそ、母体型ガイスト撃破の戦友と出会えるとは思わなかった」
「ははは、実際のところは君がほとんど討伐したようなものだが……それよりもクロウ。どうしてここに? 循環船じゃなくて、ここにいるということは観光というわけでもないだろ?」
オスカーはそう問いかけつつ、クロウの背後、そこに直立する〈ラーヴェ〉を見やる。
クロウもまた愛機である漆黒のFOFへと視線を向けながら、ああ、と頷きを返し、
「護衛依頼を受けたんだよ。この船と向こうの船を守ってくれって」
「なんと! だとすれば、頭目殿が新たに雇った傭兵とは君のことだったのか!」
言って驚きの表情をするオスカー。
「奇遇にも我々〝誠実なる揺り籠〟もこの〝
いっさいの邪気がない表情と声音でそう喜ぶオスカーに、普段冷めた態度をとることが多いクロウも珍しく照れるように頭を掻く仕草をした。
「そう言われるのはちょっと恥ずかしいな。でも、そうかドン・アントニオが言っていた事前に雇っていた傭兵団というのはオスカー達なのか」
この陸駆輸送船〝幸運の導き手〟を運航するアントニオ・ヴェルディは先ほど、クロウに対して別の傭兵団を雇っていると告げていたが、どうやらその傭兵団がオスカーの率いる〝誠実なる揺り籠〟の面々だったらしい。
「ああ。
クロウの言葉を肯定するようなに頷くオスカーにクロウも納得の表情を浮かべる。ふとそこで、オスカーはクロウの背後──そこに黙然とたたずんでいたハルカへと視線を向けた。
しょざいなさげに立つハルカを見てオスカーは慌てて彼女へも声をかける。
「おっと。すまいな。すっかり男同士で盛り上がってしまった。えっと、君は確かクロウの専属オペレーターである……」
「ハルカ・エーレンベルクです。どうぞ、ハルカと呼んでください、ウィンベル団長」
礼儀正しく挨拶するハルカ。だが、オスカーがそんなハルカに向けたのは意外にも苦笑だ。
「確かに私は〝揺り籠〟の団長ではあるんだが……エーレンベルクさん。できれば、その前に〝二代目〟とつけてほしい」
「に、二代目、ですか……?」
オスカーからそのように言われてハルカが目を白黒させる。
そんなハルカを見てばつが悪そうな表情で頭を掻きながらも、ああ、とオスカーは頷いて、
「私の我儘だとはわかっているんだが、私はあくまで二代目──先代である父の跡を継いでこの地位についた。もちろんその地位に恥じないふるまいと努力はしている。その上で我々〝揺り籠〟の創設者である父に敬意を表してあくまで私は〝二代目〟とそう名乗っているのだよ」
しょせん我儘だがね、と苦笑いしながら言うオスカーに、ハルカは真剣な眼差しを返し、
「いいえ、そのお志、立派なことだと思います。そのこと承知いたしました」
「……ははは。そんな表情でそう言われるとなんとも気恥ずかしい。だが、私の我儘を聞き入れてくれて、助かる。ありがとう」
そうして和やかに会話が進む三人──と、その時。
「ん。すまない。仲間からの連絡だ」
仲間からの通信にクロウ達へ断りを入れながら通信機を手に取るオスカー。
瞬間、オスカーの表情が強張った。
「なに……⁉」
「……? なんだ、オスカー。なにか問題が起こったのか?」
渋面を浮かべたオスカーにそうクロウが問いかけるとはたして彼はこう答えてきた。
「問題が発生した。我々の警戒区域にかなりの数のガイストが侵入してきている……どうやら近隣で物資輸送中だった運び屋がガイスト達を刺激したらしい」
「そんな……! 大問題ではありませんか!」
顔青ざめさせながらハルカが悲鳴を上げ、それにオスカーも同意の頷きを返す。
「まったくだ。しかも質が悪いことにその運び屋はこの陸駆輸送船に向かって避難しているらしい。一度人間を見つけたガイストはしつこい。おそらくその運び屋の命が尽きるか自らが殲滅されるまで追いかけてくるぞ!」
がりがりと頭を掻くオスカーに対し、クロウはあくまで冷静に「ふむ」と口にして、
「つまり俺の仕事ってわけか」
にやり、とクロウはその顔に笑みを浮かべた。そのまま彼は背後の愛機へと走り出す。
「オスカー達は陸駆輸送船の護衛をよろしく! ハルカ、俺達は打って出て、その迷惑野郎の救援とガイストの殲滅を行うぞ!」
「えっ、あ、はい! クロウさん!」
「……っ! 承知した。陸駆輸送船の護衛は我々に任せろ!」
ハルカを伴い、オスカーへ後事を託してクロウは愛機のコックピットへ乗り込んだ。
エーテルリアクターを起動し〈ラーヴェ〉にAPRAとHbEを纏わせるクロウ。
機体とのダイレクトリンクを確立した上で、クロウは後席のハルカに叫ぶ。
「いくぞ、ハルカ! 最初からトップスピードだ!」
宣言と同時に、クロウは〈ラーヴェ〉の腰部にあるエーテル・プラズマスラスターを最大出力で噴射させた。そうしてクロウの駆る〈ラーヴェ〉は一瞬で上空まで駆け上がっていく。
上空に上がると同時にクロウは〈ラーヴェ〉を
そこからさらにスラスターの出力を上げクロウは一瞬で音速にまで期待を加速させた。
駆け付けるまで一瞬だ。
「見えた」
ガイストの集団と、その先頭で必死になって逃走する輸送用大型ヘリが見えた。行列を成すガイストの数は三十体近く。対空砲型こそいないが、重装甲型や重戦車型などかなり脅威度の高いガイストも混じっていて、大型ヘリはそれらの砲撃さらされながらも逃走を続ける。
《……! そこの黒いの! もしかしなくてもFOFだろ! 頼む、たすけてくれ! ガイストに追われているんだ‼》
「はいはい、まあそれが仕事なんでな」
輸送ヘリから通信機越しにそう乞われるのに応える形でクロウは機体を上下反転。
そのまま重力に引かれる形で勢いよくガイストの群れへと突っ込んでいった。
「まずは乱射」
機体の左右両腕にマウントされている左エーテルビームライフルと右エーテルビームマグナムを上空から乱射。降り注いだエーテルビームの嵐は一見すると乱雑なようで、しかし一発一発が精確にガイストのコアを打ち抜き、一瞬で十体ものガイストを戦闘不能に追い込んだ。
続いてクロウは機体を
もちろんそれにガイストはやられっ放しではない。
攻撃の対象を輸送ヘリから〈ラーヴェ〉へと変更し、その砲口を向けてくる。
重戦車型や軽戦車型が砲口よりエーテルビームを撃ち放ち、さらに
しかしガイスト達は知らない。相手が、クロウであるということの意味を。
「遅いな」
避ける。小刻みなスラスターの噴射と完璧に制御された運動力によって紙一重ですべての攻撃を回避してのけるクロウ。
合計で二十体以上のガイストからいっせいに攻撃を受けたにもかかわらずそのすべてを無傷で回避し、それどころか返す刃で二体ばかりガイストを葬り去って見せるその技量。
「すごい……!」
その神業的なクロウの操縦に背後でハルカが感嘆の声を上げる中、クロウはそのまま機動を止めず、すぐそばにいた誘導弾型ガイストへ接近。そのまま切り捨てる。
「次、次、次ィ!」
だんだんと調子が上がってきたらしく、クロウの機動はさらに鋭敏さを増し、もはやガイストの砲塔転換が間に合わないほどの速度と機動で次々と斬撃を叩き込んでいった。
接敵からわずか一分──それが輸送ヘリを追っていたガイスト達の寿命だ。
《す、すげぇ……。なんだよ、いまの……》
もはやどちらの方がバケモノかもわからないほど圧倒的な戦闘力を見せたクロウに、大型ヘリのパイロットも唖然とした声を出す。
だが、彼はすぐに気を取り直し、その上でクロウに対し、こうお礼を告げた。
《でも、たすかった。おかげで積み荷を陸駆輸送船に届けられるぜ》
「なに……?」
運び屋が告げた言葉に違和感を覚えてクロウは眉根を寄せるが、そんなクロウがなにかを言うよりも先にハルカが劈くような叫び声をあげるのが早かった。
「……! クロウさん! 新たなガイストの反応です! その数百! 周辺地域で休眠状態にあったガイスト梯団が起動し、こちらへ向かって接近してきています!」
ハルカの叫びを受けてとっさにレーダーを見た。その中でガイストを表す光点が数多表示されているのを見て、さすがのクロウも顔を引きつらせる羽目に。
「満員御礼だな! 護衛しながらこの数を相手取るのはさすがに骨が折れるぞ⁉」
数にして百体。多くはあるがクロウの腕を持ってすれば対処できない数じゃない。
問題は、これが護衛依頼だということだ。
後背に陸駆輸送船が二両も存在する状態で、そちらへまったく接近させずにすべてのガイストを討伐するのはクロウでも不可能だ。技量云々以前に物理的な問題である。
たまらずクロウは後席のハルカに向かってこんな叫び声をあげた。
「ハルカ。オスカー達に警告を! 向こうが防衛ラインを引くまで俺達で時間を稼ぐぞ!」
「もうやっています!」
そこはさすが腕利きのオペレーターであるハルカだ。梯団の捕捉と同時に二両の陸駆輸送船を守る〝誠実なる揺り籠〟に通信を入れていたらしく、レーダー上でも複数のFOFが防衛ラインを構築しようと動き出しているも──しかし奇妙に動きが鈍い。
もたもたと動く〝揺り籠〟。とても母体型ガイストと戦った時の彼らとは思えない動きにクロウが怪訝な表情を浮かべる中、はたしてその答えがオスカーよりもたらされる。
《──すまない、クロウ! 循環船の乗客が騒ぎ出したせいで部隊の指揮系統が混乱した! どうやらその輸送ヘリ。中に貴重な薬を積んでいるようだ。それを求めた企業同盟の役員が我々〝揺り籠〟も戦闘に参加して輸送ヘリを死守しろとかぬかしてきやがったんだ!》
その相手によっぽど強情な態度を取られているのか、通信機の向こう側から言い争う声を響かせるオスカーの言葉に、思わずその場で天を仰ぐ仕草をするクロウ。
「なんつー、面倒くさいことを!」
先ほど運び屋が告げた言葉に合点が行きつつも、そのせいで現場が混乱しているという状況にクロウはあきれ果てたが、それでも職責を全うするべくその視線をガイストに向けた。
「とにかくいまは時間を稼ぐしかない! 少しでもガイストを間引かねえと、輸送ヘリ云々以前に陸駆輸送船があぶねえぞ⁉」
スラスターを吹かし、クロウは迫るガイストの梯団とぶつかる。
八十七式を振り回してガイストを複数体まとめて葬り去りつつ、左腕のエーテルビームライフルの連射で足止め。そうして足を止めたガイストに向けてエーテルビームランチャを発射することで、少しずつ、でも確実に数を減らしていく──だが、それでも、
「数が多い……‼」
倒しても、倒しても一向にガイストの戦力が減らない。
錯覚や誤解じゃなく、どうやら本当にガイストの数が増えているようだった。
「ガイスト、第二梯団。第三梯団を確認⁉ そんな、まだ数が増えるんですか⁉」
「はあ⁉ いくら輸送ヘリが刺激したからって、さすがに増えすぎだろ⁉」
異常な増え方。ただでさえ百体規模に上る梯団がさらに二つ追加される。
もはやそれは鉄の津波。
亡霊の名を持つ殺戮機械達がクロウを押しつぶさんとばかりに迫る状況に、さすがのクロウも冷や汗を垂らすが──それでもクロウは負けない。
突っ込んでくるガイストへ逆に接近し、内側に入り込んで食い破る。
しかし、物量というそれは、クロウ単独ではどうしようもないものだった。
「──! クロウさん、ガイスト梯団の一部が陸駆輸送船に接近しています!」
ハルカの絶叫。彼女が叫ぶ通り、ガイスト達がクロウのことを無視して陸駆輸送船の方へと向かっていた。とっさにクロウはそちらへ向かおうとしたが、そんな彼の前に立ちふさがるガイスト。状況が逆転し、いまやクロウの方が足止めされているような状態だ。
「クソが! このままじゃ、陸駆輸送船が!」
名目上、護衛依頼としてこの場に来たというのに、その護衛対象が窮地に陥っているのを前に、ガイストを倒しながらも何もできないクロウが歯噛みする。
一方〝誠実なる揺り籠〟は、いまだ指揮系統の混乱から立ち直れず、防衛ラインは一部構築が間に合っていない。このままではガイストの突破を許してしまうだろう。
「ああもう、邪魔だァッッ‼‼」
いくらガイストを倒せども、なお進まない距離にたまらず絶叫を上げたクロウ。
絶体絶命。任務失敗か、とクロウが思った──まさに、その時。
《ほう、どうやら私達の出番らしいな》
通信機を駆け抜ける声。
突如生じたそれはクロウのものでも、ハルカのものでも、ましてやオスカーやアントニオのものでもない。全くの第三者。クロウにとって未知の人物が通信回線に割り込む。
同時、各地で爆発が巻き起こった。
「!?!?!?!??? なんだ⁉」
《そこの黒いFOF。数百体のガイスト相手に大立ち回りを演じたその実力に敬意を表して、我らも参戦しよう!》
その瞬間〈ラーヴェ〉の高精細レーダーが複数のFOF反応を捉えるのをクロウは見た。
「FOF⁉ 友軍か⁉」
《その通り! 我らは傭兵団〝
通信機にそのような叫び声を響かせながらガイストを蹴散らすのは青色の装甲が特徴的なFOFだった。
そんな機体を皮切りに複数機のFOFが戦闘に介入し、次々とガイストを撃破していく。
先ほどまでの苦境が嘘のように解消されるのを見て唖然とするクロウに、球形胴体のFOFがグルリと振り向き、そのカメラアイでクロウを見やる。
《間一髪だったな、だがもう安心だ。なぜなら私! 〝湖の乙女〟の代表ゴーマ・ブルータスがこの場にやってきたからね!》
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ブルータス含め〝湖の乙女〟に関しては「EP.010 呼吸ができる場所(https://kakuyomu.jp/works/16817330663294470596/episodes/16817330663786857358)」をご参照ください。
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