EP.014 ヘッド&ガデル兄弟
クロウがヘッドへと向かって〈ラーヴェ〉を突っ込ませる。
逆袈裟の斬撃。それをヘッドへと叩きこもうとして──
《おっと、あぶねえ》
だが、その斬撃はヘッドに届かない。クロウの一撃がヘッドのFOFに見舞われる直前、左背面武装が展開し、それによって生じたエーテルパルスシールドが斬撃を受け止めたのだ。
脈動するエーテルの波動に押しとどめられたクロウの斬撃。
一瞬の停滞は、クロウにとって致命的な攻撃へとつながる。
《ほら、お返しだァ‼》
叫ぶヘッドが展開したのはシールドとは逆側の右背面。
そこに装備されたエーテルグレネードが砲火を上げ、至近距離から放たれたグレネード弾にたまらずクロウは大きく距離を取る羽目に。
背後で起こった大爆発。
「チッ」
突撃を防がれクロウは舌打ちした。
その上で再度の突撃をしようとしたクロウだが、そんな彼のスキをつく形で、兄弟の弟──
《女ッ、女ァッッ! おかす、おかすッッッ‼》
ガデル機の両腕、そこに装備されたエーテルビームガトリングの回転銃口が激しく駆動し、クロウへと無数の弾幕を放ってきた。
一発一発はたいした威力ではなくとも連続で食らえばたちまちAPRAを削られかねない一撃にクロウは突撃姿勢を途中でキャンセルして
「……わかってはいたが、やっぱりあの二機と〈ラーヴェ〉は相性が悪いな……」
冷静に戦況を見やりながら、クロウはコックピットの中でポツリと呟く。
そんなクロウの呟きはもちろん、背後のハルカにも届いていて、
「──相性が悪い、ですか?」
ハルカからの問いかけを聞いて、あ、やべ、とクロウは己の失言に気づくが、一度放ってしまったものは仕方がない。クロウはその理由についてハルカに説明した。
「ああ、俺の愛機──〈アスター・ラーヴェ〉は機動力に特化した機体だから、おのずとその戦法は
後席のハルカに解説しながらクロウはまたガデルが放ってきたガトリングとグレネードの一撃を回避。しかしそうして回避したところへ今度はヘッドが斬撃を叩き込んできた。
それも、しかしクロウは回避しながら解説を続ける。
「……だけど、あの兄弟のFOFはどっちも広範囲攻撃もち。そのせいで動きが制限されて機動力を思ったように出せないんだ。特に厄介なのは、兄の方だな。左腕のブレード。あれがあるせいで下手に近づいたら手痛いカウンターを食らいかねない」
FOF対FOFの戦いはガイスト戦とは少し勝手が異なる。
一番大きなものは、有効な武装──FOF同士の戦いでは遠距離武装である銃器よりも、ブレードなどの近接武装の方が有効打を与えやすいのだ。
それを装備し、さらに遠距離武装の中では例外的な高威力を持つグレネードまで有するヘッド機はなまじ防御が薄いクロウの〈ラーヴェ〉と相性が悪い。
そこまで解説したクロウに、ハルカは神妙な表情を浮かべた。
「──撤退しますか?」
ここですぐにその判断が出るあたり、この少女は本当に優秀だ。
そうクロウは苦笑しつつ、しかし首を左右に振る。
「いいや、心配無用だ。そろそろブレードの勘所を思い出してきた──ギアを上げるぞ。ここからが俺の本気だ」
宣言と同時。
クロウが加速する。
ガデル機が放つ弾幕を潜り抜け、地面スレスレの機動でもって、刹那にヘッド機へと肉薄するクロウ。だが、そんな見え見えな攻撃にヘッド機は対応してきた。
《ハッ! なんど突ッ込んできても同じだってノォ‼》
言葉通り、ヘッドはシールドを展開する。
それに対してクロウは有効打を持たない──シールドに真っ正面から突っ込めば、だが。
「知ってる。左側はな」
だけど、
「右は、がら空きだぞ」
一瞬の機動。ヘッドも対応できないほどの刹那に彼の右側へ回り込んだクロウ。
そのままクロウは無防備なヘッド機の右側面に強烈な蹴りを叩き込む。
《がっ⁉》
《にーちゃん⁉》
兄の機体が吹き飛ばされるのを見て慌てて弟のガデルが飛び出し、クロウへ銃撃を放とうとした。だが、それもクロウがヘッド機を盾にする形で機動したことで中断を余儀なくされる。
《にーちゃん、邪魔! そいつを攻撃できない!》
《うるせえ! こっちだって密着されて離れられねェんだよ⁉ お前の方が回りこめ!》
交わされる兄弟の
だがガデルは気づいていない。
自身が加速したその先に、崖が存在していることを。
《えっ、わッッッ‼》
突然足場がなくなり、ガデル機のバランスが崩れる。
それを見て、クロウがポツリと呟きを漏らした。
「よし、狙い通りだ」
「───」
クロウの呟きを聞いて、ハルカが目を見開く。つまり、今の言葉は──
(──狙ってやったと言うのですか⁉ 相手の機体のバランスを崩させるのを⁉)
おそらく、理屈はこうだ。
クロウは中心視野でヘッド機を捕らえつつ、周辺視野でガデル機を捕捉。
その上で〈ラーヴェ〉の卓越した機動力によりヘッドとガデルの相対位置を制御し、そのままガデル機が崖へ足を引っかけてバランスを崩すよう誘導した。
とても人間業ではない。どういう思考と脳の使い方をすればそんなことができるのか。
そんな神業をやってのけたクロウは、ゆえに続く行動も容赦はない。
「ここ」
クロウが呟くと同時に加速した。
ヘッドを置き去りにして一瞬でガデルへと肉薄するクロウ。
自分へ近づくクロウへガデルも慌てて応戦する。
《く、来るな──!》
放たれるグレネード。まっすぐとクロウへと突っ込んできたそれが大爆発を生じさせた。
爆炎の中に〈ラーヴェ〉の姿が消える。
《や、やった!》
《バカ、後ろだ!》
クロウを倒したと勘違いしたガデルへ警告を飛ばす兄ヘッド。
ヘッドは見ていた。
グレネードが爆発する直前、クロウがすさまじい機動力で旋回し、ガデルの後ろを取った姿を。
そのまま背後を取ったクロウは、斬撃を放つ。
八十七式極型霊光刀〈白虹〉のオーバードライブを発動。
強力なチャージ機構により、白い閃光を放つ斬撃は一撃で敵機のAPRAを破断させた。
……さて、ここで一度FOFの構造について思い出そう。
基本的にFOFは各フレームで脚部や腕部の構造に違いはあれど、ある共通点を持つ。
すなわち──背面からせり出す形でコックピットを持つ、という共通点を。
ゆえに、背面に放たれたクロウの斬撃は、次のような結果を生じさせた。
《あ、にーちゃ──》
粉砕。
クロウの放った斬撃は、一撃で機体背面のコックピットをひしゃげさせ、その中にいたであろうパイロットごとFOFの命脈を断つ。
ヘッドですら反応する間もなく、ガデル機を撃破したクロウは、そのまま軽やかな足取りで地面へと降り立った。
その上で、いましがた命を奪ったガデル機の残骸へと視線を向ける。
「ふむ──」
コックピットの中でクロウは自分を見下ろした。
心臓は常の鼓動を奏で、別に激しく動悸もしていない。
呼吸も正常。吐き気も特に見られず。
悪人とはいえ、はじめて命を奪ったというのになんの異常もないどころか、むしろ異常なほど落ち着ている自分へクロウは苦笑する。
(なるほど、こちらの世界に来るときにナニカされたなこりゃあ)
いくらなんでも、初めて人を殺してここまで落ち着けるほど、クロウは自分が異常者だとは思いたくない。ゆえに、あの謎の声にナニカをされたのだろう、とクロウは判断した。
そのまま視線をヘッドの方へと向けるクロウ。
クロウが見やる先──そこではヘッドが、呆然と弟の亡骸を見ていた。
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【FOFの近接武装】
FOFが装備する近接武装のこと。FOFは通常エーテルビームライフルをはじめとしたビーム系の銃器を主武装として装備するが、それとは別にFOF用のブレードやメイス、
なぜFOFが近接戦闘武装という現代では〝効率の悪い〟武装を装備しているかというと、それは対FOF戦を想定してのことだ。
FOFはどの機体もAPRAを纏うがこのAPRAはエーテルビームにたいして強力な耐性を誇る。事実、ガイストですら専用の高出力砲でもってようやく相応のダメージが与えられ、それをもたない軽戦車型ガイストなどは、いくら攻撃してもFOFにろくなダメージを与えられない。
ならば、どうやってAPRAを突破するのか。その方法がブレードやメイスといった近接武装となる。
FOFの近接武装には〝
これによって、近接武装は雑に振って当てるだけでも3割。精確に直撃すれば5割~7割以上も相手のAPRAを持っていくことができ、武装の出力次第では斬撃の一つで相手の機体を撃破に追い込むことすら可能。
そのためFOF同士の戦いでは近接戦闘武装の熟練度合いが戦いの明暗をわけることとなるので、FOFパイロットは近接戦闘武装を扱う技能が必須となっている。
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