EP.013 バルチャー
連絡事項:
本編の前に本日は連絡事項が二つあります。
まず一つは、当作品「気づいたら人型兵器が活躍する異世界に転生したので、そこで最強愛機とともに傭兵として無双したいと思います」がSFジャンル週間ランキングで1位を獲得しました! わー、ぱちぱち! それもこれもみなさまのご愛顧のおかげです。
さて、もう一つの連絡事項は本日をもってこれまで続けていた毎日投稿を終了し、以降、更新日を以下に記載する通りとします。
これまでの更新日:
毎日投稿(時間は不定期)
新たな更新日:
水曜・土曜の週二日投稿(時間は午前6時21分)
詳しい理由などは、近況ノートに記載しておりますので、そちらをごらんください。
それでは本編をどうぞ。
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クロウとハルカの前に二機のFOFが立つ。
《へへ。ボスからここを見張って、もしガイストを倒すような奴が現れたらぶっ倒せって言われたァ時は、正直突っ立ているだけで暇な仕事だと思っていたが、俺サマは運がイイ。まさか本当にガイストを倒すような奴が現れるとはナア!》
《……? にーちゃん。ボスが言ってたのは、ガイストを倒す奴が現れたら報告しろ、じゃなかったー?》
そう言ってヘッドの横から話しかけていくのは、六本足が特徴的な
ヘッドが言うには弟のガデルが乗っているという機体に話しかけられて、ヘッドは、おお、という声を上げた。
《あー、そうだったなそういえば。さすが俺の弟。賢いなァ。だが、俺はモット賢い! もしボスが報告しろって言ってたなら、見つけた奴をぶっ飛ばしても問題ねエだろ!》
《おおー、にーちゃん、賢けー!》
兄弟がそんなバカみたいな会話を交わす。
それをFOFの高性能レーダーが捉え、解析、音声化する形で聞きながらクロウが顔をしかめる中、その背後に座るハルカが鋭い声を発した。
「傭兵ギルドのデータベースに該当情報がありました。
「バルチャー……?」
ここ最近、何度か聞いたことがある単語だ。
あのグラム渓谷に行くことになったのも、前哨基地との輸送がバルチャーの襲撃により滞ったせいだ、とキャシーから聞いた。
それと同じ名詞で呼ばれたヘッド&ガデル。それを受けてクロウは驚きに目を見開く。
「えっ、バルチャーって人だったの⁉」
知らなかった、と呟くクロウ。それにたいしてハルカは予想外の質問だったのか戸惑いをその瞳に浮かべた。
「え、ええ。バルチャーはシティ外で活動する犯罪者集団です。シティから前哨基地へ輸送する輸送隊を襲撃してエーテルなどを略奪する略奪者と言ったところでしょうか……」
真面目で律儀な性格のハルカがそんな風に解説してくれるのを聞いて、クロウは意識をメインカメラへ向け、その上で兄弟をまじまじ見やる。
「……あれが、バルチャー」
ゲーム中でも敵対的なFOFは出てきたが、それはあくまで同じ猟兵として敵対勢力に雇われて、とか、またはそういった勢力を裏切ってテロリストになって、とかだった。
あんな山賊、盗賊めいた奴はゲーム〈フロントイェーガーズ〉にもいなかったので、クロウにとっても完全に予想外だったのだ。
たいするヘッド&ガデル兄弟はというと──
《にーちゃん、にーちゃん! いまの声聞いた⁉ 女だ、女の声だ! しかもすっげえきれーな声! きっといい女に違いない! 俺、抱きたい、抱きたい!》
《おお? ったく、お前は本当に女が好きだな、弟よ。まあいい、最近はお前にも我慢させすぎた。あの黒いのぶっ倒して、中の奴をやさしーく引きずり出してやろうじゃねえか》
「───ッ」
「……下種が」
ハルカが顔を青ざめさせ、クロウは嫌悪の表情を浮かべた。
「FOFの欠点だな。有視界範囲だと、レーダーが相手の声を拾ってきちまう」
FOFに搭載された高性能レーダーは有視界範囲ならば、機体表面の微細な振動から内部にいる相手の声を採取し、それを高性能エーテルコンピューターが再構成して再生してしまう。
おかげで聞きたくもない声を聴いてクロウは舌打ちを漏らす。
「ハルカさん。もし辛いようなら、外部音声は遮断してくれて構わない。あんなの聞いているだけで心が腐る」
反吐が出る思いを全面に表しながらクロウが言う。
一方のハルカは、しかし気丈にも首を横へ振った。
「いいえ、大丈夫です。傭兵としてやっていくのならば、この程度のことには慣れませんと」
真剣な表情でそう告げるハルカ。
こういう時、自分の不器用が憎らしい、とクロウは思いつつ視線をバルチャー兄弟の方へ。
ちょうど、兄のヘッドがその二脚フレームFOFを突っ込ませるところだった。
《さァて、お喋りはここまでだァ! 弟も我慢できないみたいだし、さっさとお前をぶっ倒してお楽しみと行こうじゃねえか!》
叫びながら突っ込んでくるFOF。
ヘッドのFOFの武装は左手に直剣型ブレード、右手にエーテルビームライフル。
そのうち、左手の直剣を振りかぶって突っ込んでくるので、クロウはそんなヘッドの攻撃を愛機の優れた加速で避ける。
《チィッ! ちょこまかと避けんな!》
《俺、にーちゃんの援護する!》
ブンブンと振り回される斬撃を避けるクロウにたいし、弟のガデルが両肩のエーテルグレネードを発射した。
「───!」
とっさの回避。
突っ込んできたグレネードをギリギリで避けたクロウの目の前で広範囲を巻き込むエーテルの大爆発が起こる。
あんな範囲攻撃、普通なら兄であるヘッドを巻き込んでもおかしくなさそうだが、恐るべきことに弟の攻撃へ息を合わすようにしてヘッドは退き、ダメージを受けずに済んでいた。
「……連中。頭は悪そうだが、連携は悪くない──チッ、厄介な」
舌打ちを漏らしながらも再度突っ込んできたヘッドをいなすクロウ。
(──とはいえ、どっちも速度はそこまででもないな。俺と〈ラーヴェ〉なら振り切って逃げるのも難しくはないが……)
相手の動きを見てそう冷静に判断した上で、クロウが思い起こすのは過去に見た光景。
あのグラム渓谷突破後に訪れた前哨基地。いまにも飢え死にしそうな人々であふれかえった町の様子を思い起こして、その原因ともなった目の前のバルチャー達をクロウは見る。
一瞬の逡巡。その上でクロウが声をかけたのは背後にいるハルカだった。
「ハルカさん。俺としては連中と戦いたい。あいつらに聞きたいことがあるしな。ただ、それが理由で君を巻き込みたくない。君が危険だと判断したのなら、速やかに撤退するつもりだ」
そうクロウはハルカに確認する。
これでクロウ一人なら遠慮なくあの二人をぶちのめすところだが、さすがにもう一人命を背負っている状態でためらいなく全力を出そうとするほどクロウは向こう見ずではない。
ゆえに問いかけたクロウに、はたしてハルカは──
「──クロウさん。一つ確認です。あなたのその言い方だと、あの二人に勝てるんですか?」
「ん? ああ、まあ。難しくはないだろ」
不測の事態が起こらなければ、という前提があるので確実とは言えないが、いまの時点で見ている範囲では特にヘッド&ガデル兄弟の動きにクロウは脅威を感じない。
ゆえに軽い調子で請け負ったクロウに、ハルカは「そうですか」と静かに頷き、
「なら、あの二人をぶちのめしてください」
「───」
力強い言葉が返ってきた。
決然とした意志を込め、ハルカは自分の目の前に座る少年へ告げる。
「私は、あなたのオペレーターです。あなたと一蓮托生です。たとえその職務を全うできないとしても、最後まであなたと共に戦います」
「ハッ」
思わずクロウは笑ってしまった。少女の力強い意思がなぜだかクロウには非常に心地いい。
ゆえにクロウの返答もまた力強いものだった。
「いい返事だ。なら見ていろ、かつて世界一にまでなったその実力を見せてやる──‼」
そうして、クロウは〈ラーヴェ〉を加速させる。
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Q.FOFのレーダーでコックピットの中の音まで拾えるなら、通信機いらなくね?
A.FOFのレーダーで拾っている音は、あくまでレーダーが得た情報から、再合成しているもの。戦闘が激しくなるとろくに音が拾えなくなるから友軍同士では通信機を介した方がクリアに聞こえる。あとEP.008で描写したけど地味に〈ラーヴェ〉のレーダー観測距離は25km以上(東京二十四区の世田谷区から江戸川区までを観測できる距離)、下手したら100km以上あるので、近距離だとすさまじい精度を誇る。なので、ヘッド&ガデル兄弟もあの時の会話が聞こえているとは思っていない風に喋っているし、逆に兄弟側のFOFでは女の子が乗っているぞ? ぐらいしかわかっていなくて、実際にはクロウの存在を含めて詳細な会話が聞こえていない。
【バルチャー】
シティ外において活動し、略奪行為にいそしむ犯罪者集団のこと。
要するにこの世界の盗賊、山賊の類で、主にシティとシティ、またはシティと前哨基地を繋ぐ輸送路を襲い、そこを通る輸送隊や商隊からエーテルを略奪して、それを糧に生きている。
その多くは元はシティに生まれ、何らかの理由で追い出された人間。犯罪を犯した犯罪者や、生活ができなくなりシティの外に飛び出た者など多岐にわたり、中には傭兵だった者が、ギルドの規約に反して資格を剥奪された〝傭兵崩れ〟も存在する。
特に〝傭兵崩れ〟のバルチャーは厄介で、元が傭兵であったことから自前のFOFを所有しており、それが輸送路を襲った際には相当な被害が出る。
またバルチャーは必ずしもシティの外ばかり活動するとは限らず、中にはシティの中で反社会勢力的に活動する者達や、あるいはシティ当局と手を結び、シティの敵対者に積極的な略奪を働く私掠者という類の者までいる。
バルチャーの存在はシティの頭を悩ます存在だが、なまじシティ外で活動するのが主なのでアジトを見つけることすら困難で、しかも一部バルチャーはFOFを装備しているので対処も難しい。そのことからバルチャーと言う脅威は、シティの人間にとってガイストに次ぐものとして扱われている。
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