EP.023 可能性を喰らうプリテンダーⅥ/逆襲するは我にあり
《うおら!》
叫んで、ラストが左腕の
【ちょっ、総隊長なにを──】
叩き込まれた機体は、その胴体部分に撃ち込まれた巨大な杭によって貫かれ、機能停止。
そうして近衛従兵型に乗っ取られた機体の一体に止めを刺したラストに背後から別の機体が襲い掛かってくる。
【総隊長殿がご乱心だ! 皆、奴を止めよ!】
「させねえよ」
しかしそんな敵もクロウが横から奇襲することで、一刀両断された。
《ハッ。なにが奴を止めよ、だよ。馬脚を現しやがったな、クソガイスト! 俺の部下達は決してそんなことは言わねえ!》
叫びながらまた別の機体を、右手で保持していたエーテルカービンで仕留めるラスト。
そうしてラストが仕留めた機体は、その装甲に大穴を開け、そのまま後ろへと倒れこみ──そして、また立ち上がってラストへと襲い掛かってきた。
《チッ。またか!》
「ラスト! 倒すなら、完全に一刀両断するか、動力部を破壊しろ! じゃないとこいつらはいつまでたっても戦い続けるぞ‼」
これが、近衛従兵型を厄介たらしめる能力の一つだ。
近衛従兵型はFOFの動力部たるエーテルリアクターに寄生する。
そこを完全に破壊しない限りはどれだけ機体が大破させるほどの損傷を負わせても、何度だって立ち上がって襲い掛かってくる。
さながらゾンビか何かのようなその在り方。そこに加えてかつてこの第45観測拠点に勤めていた人々の声真似までしてくるというのだから、近衛従兵型は本当にクソだ。
「……とはいえ、さすがに取り囲まれた状態でFOFを相手にするのはきついな……!」
その気になれば30機のFOFが来ても戦えるクロウではあるが、それはあくまで相手を倒せるのならば、と言う話。
ゾンビ戦法を使ってくる近衛従兵型を相手にしてはその勝手も通じない。
それに舌打ちしながら、本格的にどうするか、とクロウが黙考した──まさにその時。
《だったら、私が力を貸してあげるわ!》
通信機にそんな声が入った。
そうクロウが思ったのと、それが飛来したのは同時だ。
ドガァァァァアアアアアアアンンンッッッッ‼‼‼
轟音。
空気を割き、撃ち込まれた砲弾が、クロウとラストを取り囲んでいた包囲の一角をそこにいるFOFごと粉々に粉砕する。
《しゃあおら! 当ててやったわよ、エーテルスロワーキャノン‼》
そう通信機越しに叫ぶのはキャシーだった。
彼女の大型輸送ヘリに搭載された大口径エーテルスロワーキャノン──エーテルの作用で物理砲弾を加速させ、さらにその砲弾が纏った
《どうよ、クロウ! あのグラム渓谷の反省から、搭載した私の秘密兵器! これがあれば、そんなガイスト集団なんて、敵じゃないわ!》
言いながら、またエーテルスロワーキャノンを放つキャシー。
その砲弾が極超音速で突っ込んできたかと思えば、クロウとラストが駆る機体の直近に激突して、盛大な爆発を引き起こした。
《おいゴラッ! 天輪! なに直近で撃ち込んでんだ⁉ 死ぬかと思ったぞ⁉》
《……おほほほ、ごめんあそばせ。まだ新装備だから慣れていないのよね~》
とはいえ、おかげでガイストの圧をかなり減らせた。
ガイストも遠くの地から撃ち込まれる致命の砲弾を警戒してか、注意が散漫になっている。
「これなら、行けるな」
呟いてクロウは通信を入れた。相手はもちろんラストだ。
「ラスト。聞け。いまから、こいつの倒し方を教える」
《──! わかった、教えてくれ!》
ラストも即応する中で、クロウはガイストの動きを注視しながらそのことを語りだした。
「いいか、ラスト。こいつら近衛従兵型のほとんどは〝端末〟だ。ガイスト本体から分離した末端にすぎない。だが擬態しているFOFの中に一体だけ、本物のガイストが混じっている。狙うのはそいつ。なんとかしてそいつを見つけ出して倒すことができれば──」
《このクソガイストどもから俺の部下を解放できるってわけだな》
瞬時にクロウの言いたいことを理解して応じるラスト。
それにクロウも口元へニヤリとした笑みを浮かべながら頷き、
「ああ。後は、そのガイストを見つける算段だが──」
「それは私が。クロウさんとラストさんが倒して反応がなかった機体はタグ付けをします! タグがない機体を優先的に破壊してください!」
《そんで私が、ガイストにあなた達が包囲されないようエーテルスロワーキャノンで圧をかけるってわけね!》
……最後だけ、若干不安ではあったが、それ以外はおおむねヨシ。
「俺が先行する。ラストは俺に攻撃してくる奴を押さえてくれ!」
《任された!》
そんな言葉を交わし合ってクロウとラストはそれぞれの愛機を加速させる。
まず直近にいた機体──くしくもハルカの同期であるC‐2が乗っていたそれへと肉薄すると同時に、クロウはその機体を一息で切り捨てた。
「──C‐2……アンナ・シュローベン機を撃破」
『ハルカー私ねーいつかあなとー、一緒にシティを守るため戦えるのが楽しみなのー』
そんなアンナの撃破に呼応する形で即座にクロウへと襲い掛かってきたのはC‐3の機体。
しかしクロウは小刻みな加速でその攻撃をよけ、抜き放ったエーテルビームライフルのゼロ距離射撃で機体の動力部を破壊する。
「C‐3、シン・ウォーカー機撃破」
『ハルカってすげえな! あ、これ別に総監の娘だからってわけじゃねえぜ、俺の本心から、お前のことスゲーって思ってる!』
アンナ、シンの機体が立て続けに破壊されるのを黙ってみていられなかったのだろう。C‐5がその両手のエーテルビームライフルを連射しながら〈ラーヴェ〉へと接近してきた。
ビームの乱射にクロウは瞬時の加速で上昇することで回避。そのまま上を取ったクロウは大上段の斬撃をC‐5の頭から思いっきり叩き下ろす。
「C‐5、ユート・セイン機……撃破」
『ありがとう、僕の臆病を武器だと言ってくれて。確かに僕は臆病だけど、でもいつかハルカや他のみんなの隣に立って胸を張れるような奴になりたいと思う』
ユートを一瞬で撃破したクロウ。それにたいしてハルカは内心で生じたであろう思いも、しかし唇をかみしめて押し隠し、淡々とそれらの機体にガイストの反応がないか精査していく。その横でラストもまた別のFOFを撃破しているところだった。
《ケビン、アルスト、シェーナ、ルカ、ベイク……お前らは強かった。俺にとっても自慢の部下だ。もしお前らと戦うことになったら、それこそ恐ろしい敵になっただろう──》
だが、
《それを猿真似しているだけの
目の前にいる機体──かつての部下が操縦していた思い出深いそれへラストは
そうしておおよそすべての機体を撃破したクロウとラスト。
だが、それらの中にはガイストの本体はいない。
では、どこにいるのか?
それは、クロウもラストも撃破していなかった残りの一機──
二人が見やるその先でたたずむある機体──とある訓練生が乗るその機体にあった。
「C‐4。クララ・ローベン機」
『──ねえ、ハルカ。私あなたのこと好き。あなたはいつも一生懸命で、まっすぐで、眩しくなるぐらい素敵な人なんだもん。そんなあなたとお友達になれて、私よかったって思うの。だって、きっとそれは長い人生の中で数えるほどしかありえない奇跡だと思えるから──』
かつて、ハルカと共に苦楽を共にした訓練生の機体。
かつてC‐4、クララが乗っていた、その最後の一機こそが、近衛従兵型の本体が寄生した、そんな、機体であった──
────────────────────
【近衛従兵型】
ケントゥリオ。ガイストの中でも災害級と人類が呼称するガイストに次ぐ上位ガイストの一体。
大物量と大火力を主な戦法とするガイストの中にあって、例外的に寄生と擬態による精神的な攻撃を主とした戦法をとるガイスト。
エースが駆るFOFはガイストが百いようが千いようが関係なく殲滅させられるほどガイストにとっては脅威であり、それへの対処はガイストにとっても【使命】の関係上、優先事項となっていた。
そこでガイスト達が考案したのは、従来の物量によって押しつぶす戦術ではなく、FOFを操縦するパイロット自身を狙った戦術──つまり、精神攻撃である。
他のパイロットを夜闇に紛れて奇襲し、それを取り込んで精神性を模倣。そうして擬態した上で、相手の声真似によって味方と誤認させて、さらに別のFOFを襲って取り込んで……ということを繰り返して強くなるのが近衛従兵型と言える。
声真似程度とはいえ、FOFパイロットにとって慣れ親しんだ友人の声を真似ることで、一時的に動きを鈍らせ、その隙をついて機体を撃破。中のパイロットにコールタール状の粘液めいた〝端末〟を撃ち込み、内部のパイロットごとFOFの機構を捕食。その中にいた人間の精神性を取り込んで学習し、それをさらに模倣する。
なにより厄介なのは近衛従兵型はFOFのリアクターに寄生し、そこからエーテルを吸収してエネルギー源に変えること。取り込んだFOFの数が多くなればなるほど、その力は増し、下手にFOFを取り込ませ続ければ、さらに悲惨なこととなる。
加えて取り込んだFOFは本体や端末が寄生したリアクター部分を破壊しない限りは、通常なら大破と判断されるような損傷状態でも立ち上がって襲い掛かってくるゾンビのような戦法を取る点も厄介で、通常ガイストほどではないが、このガイストもまたガイストの例にもれず物量戦法を得意としている。
そのため近衛従兵型を倒すための簡単な手法は、まだ誰も取り込んでいないうちに見つけて破壊するか、もしくは対処可能な少数のFOFを取り込んでいるうちに撃破するかの二択である。
逆に言えば、数十機以上も取り込んだ近衛従兵型は、手が付けられないほど厄介で、その数に任せて他のFOFも倒して取り込み、指数関数的に数を増させるので、早期の対応をしなければ、場合によってはシティすら滅ぼすほどの最悪の脅威となりうるのである。
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