EP.046 鬼子母神を討てⅩ/GO AHEAD!


 ──自らのシールドを破壊されたことは、母体型ガイストももちろん検知していた。


《母体型ガイストより、全支配下ガイストへ通達。当機のシールドが破損》


《再展開まで2時間。この間、侵入を試みる敵をいっさい通過させることを──……ッ⁉》


《──急速接近する敵影を確認──‼》


 母体型ガイストの広域観測レーダーが自らに超高速で接近する物体を捕らえる。


 HMBユニットだ。


 それが、内部から大量のジャミングミサイルをばらまきながら接近してくるという状況。


 とっさに対空砲型ガイストが接近するユニットたいして砲撃を加えるも、一度目の接近でもばらまかれた分も含めて広範囲を覆ったジャミングによって、砲撃は空振り。


 結果。


 母体型ガイストにHMBユニットが直撃した──





     ☆





「──痛ぁ~~!」


 HMBユニットが直撃した衝撃にクロウは目の中に星を散らしながらそんな呟きを漏らす。


 対して後席のハルカは素早く機器を操作して〈ラーヴェ〉の状態をチェックしていた。


「機体各部の状態に問題はありません! 落着時のダメージは最小限です」


《こっちもだ、クロウ! いつでもいけるぞ!》


 同じくHMBユニットに乗っていたラストからもそう通信が入ったことで立ち直ったクロウは操縦桿を握りこみ、ダイレクトリンク起動。〈アスター・ラーヴェ〉と自身を繋げる。


 視界が、機体のカメラアイとリンクし、外部の影像を映しだされた。


 その横でハルカもまた自身のオペレーターとしての職務を全うする。


「HMBユニット、ハッチ開きます!」


 ハルカがそう宣言して、機器を操作。


 それによってハッチが開き、外の景色がクロウ達の前に露わとなった。


「───」


 遠くまで広がる鉄色の光景。


 これまで地面に埋まっていたとは思えないほど鮮やかな光沢を帯びた銀色の地面を見やりつつ、クロウとラストは機体の両足を地面につける。


《ハッ。ようやく到達したな。それで、クロウ。ここからはどうすればいい?》


 ラストからの通信にクロウは「ちょっと待て」と一言告げ、逸る僚機を押しとどめた。


「ハルカさん。広域探査を頼む」


「わかりました」


 要請に従って、ハルカが広域探査を開始。


 クロウの愛機である〈アスター・ラーヴェ〉の高性能レーダーが周辺の状況を精査したことで、母体型ガイストの正確な情報がクロウ達の目の前に表示される。


「よし、予想通りだ」


 情報に目を通してクロウがそんな呟きを漏らした。


 表示された母体型ガイストの詳細情報には、前後に二つの大きな反応が捉えられている。


「ラスト、ハルカ。いま表示されている二つの反応がこの母体型ガイストのコアだ」


《なるほど。これを破壊すればいいってわけか》


 ラストの返答にクロウははっきりとした頷きを返した。


「ああ。俺とラスト、それぞれがこの前後のコアへ向かい、これを同時に壊す。そうしてはじめて母体型ガイストの破壊に成功するって寸法だな。問題があるとすれば──」


 と、そこで一度言葉を切るクロウ。


 その上でクロウが見やった先。


 鉄色ばかりに覆われたその景色の中で、大きな変化が起こっていた。


 ゾアッ。


 地面が、波打った。


 否、そう錯覚するほど膨大な数のナニカがクロウ達へ迫ってきたのだ──!


「母体型ガイストがそう簡単にコアへ到達させてくれるかってことだけどな──‼」


 圧倒的な数のガイストが迫る。


「──ッ! 反応増大! 敵影多数。こちらへ接近してきます‼」


《ハハッ! 早速お出ましってことかよ!》


 迫りくる無数のガイストを前に戦闘体勢を取るクロウとラスト。


 その状況で先に動いたのはクロウだった。


 愛機を加速させて、真正面からガイストの群れに突っ込んでいく。


「さあて、二人とも! 最初の関門だ! この膨大な数のガイストを突破して、母体型ガイストのコアまで到達するぞ‼」


《承知した!》


「お二人の管制をします!」


 ラストが応じ、ハルカが瞬時にオペレーターとしての仕事を行う。


 数としては数千に達しうるだろうか。


 あまりにも膨大な数いるガイストの第一陣にクロウとラストが激突する。


 これが並の乗り手ならば、その圧倒的な数に踏みつぶされてなにもできずに撃墜されたことだろう──二人が、並みの操縦士ならば、だが。


《うおら!》


「シッ!」


 しかし、二人は逆にガイスト達を圧倒していた。


 素早く動き回って相手を翻弄し〝スズメバチホーネット〟と言うその異名通り杭打機パイルストライカーを突き立てたガイスト達を次々と撃破していくラスト。


 一方のクロウは最小の動き、最低の弾数、そして最速の機動でもって精確にガイスト達のコアを撃ち抜き、そのすべからくを鏖殺していっていた。


 鎧袖一触。


 数千と言うガイストが群がってくる中で、しかし二人は臆さないどころか、むしろ来る傍からガイスト達を撃破してのけるほどの活躍。


 もはやガイストの方が哀れになってくるほど、数と言う概念が意味をなさない無双っぷりを披露する二人は、そうして次々とガイストを撃破していった。


《ハハッ! 雑魚が何体こようと俺達の敵じゃねえ!》


「だからって調子に乗ってエーテルを使いすぎるなよ! コアの到達前に弾切れを起こしたら最悪だぞ!」


 大きく機動してガイストを次々倒していくラストを、最小の機動で接近し、数体まとめて葬ったクロウが注意する。


 二人の卓越した技量。それに加えて、ハルカが敵の方角、距離、脅威度を正確に把握して、二人へ伝えていったことも、二人がガイストを圧倒する要因となっていた。


 そうしてクロウ達はガイストを圧倒し、じょじょに、ではあるが確かな前進を重ねていく。


「このままいけば、ガイストの集団を突破できます! 二人とも頑張ってください‼」


「ああ、任せろ」


《ハハッ。お姫様からお応援してもらうんだ。きばんねえとな!》


 そうして激闘を続けるクロウ達。


 ──異変が起こったのは、まさにその時だ。


「──⁉ なんだ⁉」


 ズズンッという音を立てて地面が──いや、母体型ガイストが揺れた。


 とっさに視線を周囲へと見渡したクロウ。


 そうして初めてクロウはその異変に気付く。


「母体型ガイストが、動いている……⁉」


「……‼ 母体型ガイストの周囲に展開しているガイストにも動きが! ぜ、全ガイストが前進を開始しましたッ! 母体型ガイストが、カメロットに向かって進軍していますッッッ‼」


 ハルカの叫び。


 それが示した通り、母体型ガイストが、当初の予定よりも早く進軍を開始した。










────────────────────

本日から一定期間、半毎日更新を開始します。目標はとりあえず第一章の完結まで。

新更新日時は以下の通りになります。



旧更新日時:水・土の週2日更新


新更新日時:月・火・水・金の週4日更新



なお、更新時刻は旧更新日と同じく(C4‐)6時21分です。

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