EP.045 鬼子母神を討てⅨ/どこよりも遠い空・下
《作戦開始時刻です》
《HMBユニット二号機のブースター点火。発射まで100秒》
《99、98、97、96、95……》
《A‐1及びA‐2の機体をシステムチェック……オールグリーン》
《59、58、57、56、55……》
《軌道計算完了。HMBユニット航行装置に情報入力……システムに問題なし》
《29、28、27、26、25……》
《全確認項目、チェック完了……いつでもいけます!》
《10、9、8、7、6、5……》
《A‐1、A‐2の両機を戦闘モードへ移行……二人とも御武運を》
《A‐1、了解》
《A‐2、了解っ!》
《カウントダウン残り5秒! もう間もなく発射時刻です!》
《4》
《3》
《2》
《1──》
《──HMBユニット二号機、発進!》
《ユニット上昇開始! ブースター正常に動作しています! 各種機構にも異常なし!》
《よし、よくやった! こちらCP! A‐1、A‐2。通信は届いているか?》
《こちらA‐1。ノイズはひどいが、十分に聞こえている》
《A‐2も同様です!》
《了解した。CPから常時戦闘状況をモニタリングしている。異常があったら報せろ!》
《A‐1了解!》《A‐2も了解です!》
《CPよりA‐1とA‐2へ! もう間もなく戦闘領域に到達します!》
《エーテルジャミングミサイルを散布!》
《エーテルジャミングミサイル散布!》
《ジャミングミサイル散布されました! 3kmの領域にジャミング雲を生成!》
《反応増大!
《砲撃第一射、来ますッ!》
《……ッッッ‼ こちらA‐1! HMBユニットが被弾!》
《こちらCP。了解した……少し早いが、ただちに、HMBユニットから脱出しろ》
《A‐1、了解!》
《A‐2も了解です!》
《A‐1、A‐2両名のHMBユニットからの発進を確認!》
《A‐1、A‐2がジャミング圏内から離脱します》
《A‐1よりCPへ、右腕武装から
《こちらCP。了解した。間もなく対空砲型の第二射が来る。二人とも備えろ》
《対空砲型第二射きます!》
《A‐2被弾! A‐2被弾! APRA残り50%!》
《……ッ‼‼‼ すみませんッ。囮を抜かれました!》
《気にするな。生きていれば、それでいい!》
《A‐1の囮にも被弾! 残数3です!》
《クソッ! こちら、A‐1。砲撃が激烈なため、囮の展開が難しい! よって、このまま速度で連中を振り切る!》
《気をつけろ! 続く第三射が来るぞ!》
《第三射を確認!》
《……ッ。A‐1も被弾! APRA残り70%!》
《A‐2の囮がすべて消失! 再展開は不可能です!》
《CPよりA‐2! 無理をするな! 最悪貴様は撤退しても構わん!》
《こちらA‐2! いいえ、故郷を守るため、最後まで戦います!》
《A‐1より、CPへ、こちらはまだ囮がある。A‐2の付近に展開させる! それで少しは被弾することも減るだろう……》
《そんな! それでは、A‐1の守りがッ⁉》
《生き残って、F‐1達と共に美味い酒を飲むのだろう! そのためにもっとも確率が高い手段を選ぶだけだ!》
《……ッ! A‐1感謝します!》
《残り距離1km! 繰り返します! 対空砲型の陣地は残り1kmです!》
《よしっ。あと少しだ。二人とも! あと少しで敵の対空砲陣地を突破できるぞ!》
《了解! A‐1はこれより、HB‐002を起動し、高速機動に入る!》
《A‐2も同じくHB‐002を起動します!》
《両機の加速を確認! 速度、音速を超えます!》
《対空砲型の第四射来ます!》
《A‐2被弾! APRA残り40%!》
《A‐1が展開した囮がすべて撃墜されました!》
《A‐1、A‐2無事か……⁉》
《……こちらA‐1。我健在なり。繰り返す我健在なり!》
《A‐2も同様に健在であります! それと対空砲陣地を突破しました》
《よっしゃああああああああああッッッ‼ よくやった二人とも‼》
《ははは、CP。まだ喜ぶのは早いですぞ。母体型ガイストをこの目で収めて、奴の鼻っ面に強かな一撃を加えてやるまでが我らの仕事です》
《ああ……! ああ、そうだな、A‐1……‼ 頼む、お前達だけが我がシティの希望だ!》
《A‐1了解! 我が職責を最後まで真っ当いたしま──》
《──ッ⁉ こちらA‐2! 異常なエーテルの反応増大を確認! まさかこれは……⁉》
《CPでも同様の反応を確認。ああ、なんてことだ……!》
《どうした⁉ いったいなにがあった⁉》
《敵の第二陣地です! 奴ら、あのガイストども! 陣地をもう一つ隠してやがった‼》
《反応増大! 反応増大! 敵第二陣との対空砲型、数……じゅ、10万にたっします‼》
《10万⁉ 10万といったか⁉ 第一陣地ですら5万だぞ⁉ その倍だというのかッ⁉》
《緊急回避! 緊急回避! A‐1、A‐2なんとしても生き残れェ‼》
《A‐2被弾! APRA残り20%‼》
《A‐1
《こちら、A‐2! A‐1が撃墜されました──あ》
《A‐2の反応も消失⁉》
《……ッ‼ A‐2、応答しろ! A‐2‼》
《ダメですッ! 強力なエーテル波のせいで通信が繋がりません!》
《レーダーもホワイトアウト! 現地状況の観測ができませんッ!》
《な──》
《そんな、じゃあ、作戦は失敗……?》
……。
………。
………………………………………………………………………………………………………。
ざ、ざ。
《……ちら、A‐……す……こちら──A‐2》
《──ッ! 通信が回復! この反応は、A‐2です──‼》
《A‐2⁉ A‐2なのか⁉》
《こちら、A‐2〈ビックプレゼント〉‼‼‼ 多数被弾すれども、敵第二陣地を突破ッ! 母体型ガイストの姿をその観測圏に捕らえた! A‐2よりB‐1〈ブリューナク〉へ、砲撃諸元送信中! 確認されたしッッッ‼‼‼》
☆
……その情報は、確かにシティ〝カメロット〟にいるB‐1こと爆轟機士団機士団マリア・オーレインの元まで届いた。
「こちらB‐1。確かに諸元を確認いたしました。砲撃準備に入ります」
告げて、彼女は愛機であるFOFの中で、操縦桿を握る。
それと共に彼女の愛機とエーテルカノンバスターが接続された。
FOFの
さらにマリア機の横では他の爆轟機士団所属のFOF達がエーテルカノンバスターにFOFの胴体にも匹敵するほど巨大なケーブルを接続──そこからエーテルの供給が始まった。
《エーテル供給開始。砲出力上昇。60、70、80》
そうして始まるエーテルの供給。
シティの超大型エーテルジェネレーターから注がれる形でカノンバスターの出力が上がる。
同時に膨大なシティ各所では停電現象が発生。
さらに、シティから遠く離れた場所では、ガイスト達を押しとどめていたエーテルジェネレーターのエーテル波の収縮が始まっていた。
それはガイスト達には好機と映ったのだろう。我先に、と数百万のガイストが収縮したエーテル波を追うようにシティへ迫ってくる中、マリアは淡々と砲撃準備を進める。
「砲撃諸元……入力完了。仰角修正」
《88、90、92、97》
「砲身内部にエーテル供給開始。発射準備、最終段階」
《98、99──100%! いつでも発射いけます!》
エーテルカノンバスター。そのすべての準備が整った。
あとは引き金を引くだけ。
と、そこで通信が入った。
相手は鋼槍機士団の総隊長であるラスト・フレイル。
発射直前というこのタイミングで突如としてマリアへ通信を入れてきたラストに、マリアが怪訝な表情を浮かべる中、ラストは通信機越しにこのようなことを宣った。
《外すなよ》
ふっ。
「ご冗談を」
発射。
その瞬間、エーテルビームカノンバスターから膨大な閃光と共にエーテルの奔流が迸った。
超熱量を有したエーテル粒子の暴流は、シティ〝カメロット〟内で咆哮を上げ、そのまま光の激流となって上空を翔ける。
ゆるく弧を描くようにすべての頭上を通過していくエーテルビームカノンバスターの砲撃。
それは、シティ周辺の荒野を超え、その先で進軍し続けていたガイスト達のド頭を擦過し、熱量の余波だけで破壊しつくしながら前進する。
ビームカノンはさらに先へ。
駆け抜けた膨大な熱量の奔流はブレド高地を通過し、その先のグラム渓谷の上空を超え、先へ、先へ、先へ──
──そして、その先に待っていた母体型ガイストに達した。
直撃。
膨大なエーテルの奔流が、母体型ガイストの頭部、その脳天に突き刺さる形で直撃する。
砲撃の一撃が母体型ガイストの周辺に展開していたエーテルシールドにつき刺さり、その合間ですさまじい閃光を放った。
エーテルビームカノンバスターと母体型ガイストのせめぎ合い。
それは数舜、数秒、あるいはもっと長く続いたかもしれない。
だが、それも永遠ではない。
矛と盾──そのぶつかり合いに矛盾は許されず、ただ当然の勝者のみを生んだ。
【クオオオオオオオオンンンッッッ‼‼‼】
母体型ガイストの大絶叫。
それは、勝利の雄たけび──ではなく。
むしろ逆、自身を守るエーテルシールドを破壊されたことによって出る悲鳴であった。
「──‼ エーテルシールドの破壊を確認!」
遠くからその事実を観測したマリアの絶叫が通信回線を駆け巡る。
その上で、彼女は所定の作戦に従い、とあるところへ通信を入れた。
すなわち、作戦の最終段階──母体型ガイストへ突入するクロウとラストの二人に、だ。
「これより作戦の最終段階に移行します! 任せましたよ、二人とも!」
──任せろ!
マリアの絶叫。それに対して、二人のFOF乗りが応える。
かくして、作戦は最終段階に移行する。
────────────────────
【A‐2〈ビックプレゼント〉】
爆轟機士団に所属する浮遊型フレームFOFを操縦する機士の一人。
まだ年若く、それでいて実直にして誠実という人柄から周囲の人間にたいそう好かれており、誰も彼もからも評価が高い好青年である。
しかしその生まれはいわゆる孤児にあたり、もともとは別のシティから流れてきた浮浪民の親が豊かなカメロットに子供だけを捨てて蒸発してしまったことから、赤子のころよりシティに育てられて育つ。
そんな境遇にもくじけず己を貫き通した結果、軍に志願した後も、実直に職務に邁進し、その結果としてカメロットでも保有機体数が少ない浮遊型フレームのパイロットに選ばれるまでになった。
なお、そんな彼だがTACネームが〈ビックプレゼント〉という名称になっているのは、その昔、彼が軍人なりたてのころにつき合っていた恋人へ、彼女が欲しがっていたからと抱えるほどに大きなクマの人形をプレゼントしようと店に行ったら、その恋人から「別に好きな人ができたから別れましょう」とフラれたことに起因する。
それを知った周囲が笑い話として、でっかいクマの人形をもっていたことにかけ、TACネームも〈ビックプレゼント〉としたのだ。
このように、かつて恋人から大きなプレゼントを受け取ってもらえなかった彼だが……その代わり、大切な故郷であるシティ〝カメロット〟へ何よりも偉大なプレゼントをもたらすこととなった。
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