EP.044 鬼子母神を討てⅧ/どこよりも遠い空・上
《──作戦の概要を説明します》
クロウも含め、作戦に参加する全員がFOFに乗り込むと同時、マリア・オーレインが、そう言葉を発した。
《攻撃目標は母体型ガイスト。まず作戦の第一段階として、エーテルビームカノンバスターの砲撃をもって、この母体型ガイストが纏う高濃度エーテルシールドを破壊します》
マリアがそう告げると同時に、彼女は作戦に参加するFOF各機に作戦概略図を送信する。
その中にはカメロットと母体型ガイストの簡略化された位置関係が記載されていた。
《対象とシティとの距離は、実に80km。これほどの距離を超えての狙撃はおよそ現行人類初の所業となるでしょう。
必然これをやるにはいくつかの問題があります。
その中でも最大の問題が、狙撃の精確性。80kmという距離ゆえに、ほんの数ミリ弾道がズレるだけで砲撃は、母体型ガイストに直撃せず明後日の方向に向かうでしょう》
と、そこで一度マリアは言葉を切り、一度呼吸をした後、続く言葉を口にした。
《そこで、今次作戦では、事前に観測機を飛ばします。
急遽くみ上げたHMBユニット二号機に
それを諸元として砲撃を行うことで、精確に母体型ガイストを狙撃するという算段です》
と、言うマリアの言葉を引き継ぐようにあらたな声が通信に割り込んできた。
《今次作戦に参加するA‐1〈ストレンジ・ホーン〉です。先陣を切る名誉を預からせていただきます》
《お、同じく作戦に参加するA‐2〈ビックプレゼント〉でありますっ! 大切な故郷であるシティを守るため、ぜ、全力を賭させていただきます!》
それぞれ落ち着いた中年男性の声と、緊張しすぎな若者の声だ。
《両名とも、我が爆轟機士団の精鋭として、優れた浮遊フレーム乗りです。必ずや、作戦を成功させてくれるでしょう》
マリアが、そう自身の部下を表する──と、その時だ。
《……
疑問の声。
通信回線越しに、そう発言した主はラストだ。彼の疑問は作戦に参加する全人員が抱いているものでもある。
はたして、そんな面々の疑問にマリアは《ご安心ください》と請け負った。
《その点も考慮済みです。我が爆轟機士団の人員が事前に、ガイスト集団の至近にまで接近し強硬偵察を試み対空砲型の位置と数を割り出してくれました……その結果、彼らは未帰還となってしまいましたが》
告げると同時に、クロウ達の視界に対空砲型の情報が表示される。
爆轟機士団の人員が命を懸けて得た情報は、それゆえにかなりの精確性をもっていた。
《数にしておよそ5万。対空砲型ガイストだけでもそれほどの数いるのは母体型ガイストの生産力の高さを端的に示しておりますが、それはさておき。
この対空砲型ガイストの陣地は、約5kmにわたって続いていることが確認されています。
距離にして5kmと言うと長く感じますが、空を行くものからすればほんの刹那の距離。
またHMBユニットには四基あるFOFコンテナの内、FOF未搭載の二基へエーテルジャミングミサイル発射装置を組み込みました。
これによって展開されるジャミング領域は約3km──つまり、残りの2kmを突破することさえできれば、母体型ガイストをその観測圏に収めることができます》
《我らもそれを承知で、今次作戦に参加するFOFのカスタムは、すべて速度特化の仕様に変更しました。特に、後背武装はFOF用高機動ブースターであるHB‐002〈ハングドマン〉にしておりますから、その速度は請負ですよ》
勝算を保証するマリアに対し、A‐1が補足するようにそう告げる。
……ただ、それが帰還の絶望的な作戦であることは誰の眼にも明らかだ。
それでも二人は覚悟をきめていた。
だからこそ、誰も言葉をはさめない中で、ただ一人ラストだけが発現を行う。
《……ああ、まあなんだ。帰還が絶望的な作戦って意味なら、俺とそこのクロウにハルカも似たようなもんだ。ただまあ、生き残るつもりはあんだろ、クロウ》
ラストが唐突にクロウへ話を振る。それに対して、クロウはコックピットの中で、顔を上げながら、その口元を緩めた。
「もちろん、わざわざ死にに行くつもりはない」
さらりとクロウがそう請け負う。その絶対の自信が垣間見える発言にラストもまた通信機の向こう側ににやりと笑う。
《だ、そうだ。そして俺も同じだぜ。つーわけで、A‐1、A‐2。作戦が終わったらクロウ達も含めて一緒に美味い酒を飲みに行こう》
そう告げるラストにA‐1、A‐2はおろか他の作戦参加者達ですら言葉を失った。
帰還が絶望的、とされる作戦で、それでもなお生きて帰ろうとラストは告げたのだ。
それが荒唐無稽な未来像なのは百も承知で、それでもラストは明るい未来を語る。
《こんなでっけえ作戦だ。きっと終わったら最高に気持ちいに決まっている。その後に飲む酒は美味いだろうなあ》
しみじみと告げるラスト。その言葉にA‐1とA‐2が何とも言えない沈黙をする中、横からクロウが通信を入れた。
「おい、ラスト。俺とハルカは酒が飲めんぞ。せめて飯が美味い店にしてくれ」
意をくんで悪乗りするクロウ。それに対してラストはククッと喉を鳴らし、
《了解、クロウ。そうだな。だったら、A‐2が昔恋人に振られた店はどうだ?》
《ああ、それはよいですな。私はあの店のクリームパイが好きです。A‐2も恋人にふられた思い出の店だ。ちょうどいいだろう》
《ちょっ! お二人ともっ。それをスルのはよしてください! あの話が出回りすぎたものだから、TACネームにまでされたんですよ⁉》
上官二人からから揶揄われ、慌てたようにA‐2が声を裏返らせる。
そんな若者にラストはこのような言葉を告げた。
《だからいいんじゃねえか。作戦をすべて成功させてその後にあの店へ行けば、そこはもう恋人に昔フラれた店じゃなくて、英雄が凱旋して祝杯をあげた店になる》
《それは──》
ラストの言葉にA‐2は息をのんだ。
そうして会話が途切れた瞬間を読み取って、マリアが再度言葉をはさむ。
《そろそろ作戦の話に戻りましょう。
そこからは二人の仕事。
見事母体型ガイストのコアを破壊して……そしてこの場にいる全員で祝杯を上げましょう》
マリアにしては、珍しく、そう砕けた口調で告げた号令。
それに、作戦に参加するすべての人員が《了解》と唱和した。
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発、作者
宛、読者
会話展開終了セリ、次回より激熱戦闘シーンの連戦なり、状況に備えよ。
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