第335話 王城の地下通路にて
王族の居住区と思われる場所で地下へと通ずる縦穴を発見した俺、丈一郎です。
梯子を使って下に降りてみる。
真っ暗な中、3メートルほど降りると底に到達した。
そこからは横穴に変わっている。
「ライト!」
明るくなった横穴は結構な距離があるようで、ライトの明かりが奥の壁を照らすことは無かった。
そのまま横穴を進んで行く。
綺麗なトンネルというわけでは無い。
大小の凹凸がある壁が、この地下通路が掘られた時代の古さを物語っている。
ピコン!
シュッ!
「危ねぇ!」
常時発動している警報魔法が危険を察知し、一歩後退りしたところに、槍が突き出されてきた。
つい1秒前に居た場所に残る槍先を、むんずと掴んで力任せに引く。
「うわっ!」
俺と同い年くらいの若い兵士が、槍に引っ張られて通路に飛び出してきた。
槍を突き出した姿勢から不意に引っ張られたのだから、大きく体勢を崩しているわけだが、意外なも足元はしっかりしていて、槍を離した手には剣が握られていた。
なかなか鍛えられているようだな。
「ここまで入って来るとは貴様何者だ!」
「俺達は邪神を探して旅をしている者です」
「邪神だと!何だそれは?」
「おそらくこの街を襲ったのは竜でしょう。
その竜を眷属として暴れさせているのが邪神です。
ところでこの街はいつ頃襲われましたか?」
「………」
兵士は何も答えない。
相変わらず剣先はこちらを向いたままで、いつでも斬りかかろうという気迫も衰えていなかった。
「結構長い間、ここに居るのですよね。
食事はされていますか?
今食べ物を出しますね」
街の燃え具合いや死体の腐敗から、この辺りが被害にあったのは1週間以上前であるのは想像がついていた。
ここに逃げ込んだのであれば、当然1週間以上前だから、食料を持ち込んでいたとしても尽きていてもおかしく無い。
「収納!」
非常食としていつも入っている温かいスープと柔らかい食パンを取り出して渡す。
どちらも俺達の世界の物だ。食パンは少し潰れはいるが、味はこちらのものと比べ物にならないだろう。
「…………」
兵士の喉が鳴るのが聞こえたが、警戒心が解かれることは無い。
ぐう〜〜
不意に兵士の立つ場所の奥側から音がした。
俗に言う腹の虫というやつだな。
俺達の視線がそちらに移った途端、兵士の目付きが変わる。
そして、俺達に向けられた剣先が、そのまま突き出されてきた。
俺は反射的に剣を掴む。
身体強化されている俺にとって、いくら鍛えられているとはいえ、生身の人間が突き出す剣くらい指2本で制することは造作も無かった。
「むむっ!ぐっ!」
必死に剣を取り戻そうと力を込めるがビクともしないことに焦った兵士は、剣を手放すやいなや、殴り掛かってきた。
やはり鍛えられた素晴らしい兵士だ。
だが、俺の敵では無い。
そのまま突き出された腕をとって護身術の様に地面に押さえ込む。
「うぐっ!くそっ!離せ!」
兵士は必死になって俺から逃れようとするがピクリともしない。
「く、くそっ!こんなところで……こんなところで………」
悔しそうに放たれる言葉に違和感を覚える。
えっ女?女なの?
思わず兵士の兜を外すと、そこから長い髪が出てきたのだった。
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