第7話 NPC特典?
「店主久しぶり」
「ああ、ジョウイチか。しばらくだったな。」
無視されるNPC店主に哀愁を感じて思わず声を掛けたら、帰ってくるはずの無い返事が返ってきた。
驚いて、皆んなを見る。
.....誰も気付いてない?
俺とNPC店主の会話が成り立ったのに、誰も気付いてないなんて....
「うん?ジョウイチどうした?話し掛けといて無視か?」
「え、ええっ、い、いえっ、そんなことは....」
「まあ、良いわ。ところでジョウイチ、ちょっと良いモノが出来たんだが見ていくか?」
「はいっ!是非見せて下さい!」
「全くおかしな奴だな!よし、ついてこい!」
俺は店主に連れられて奥の部屋へと入って行った。
この店は店舗内だけ移動できる。
奥には鍛冶場や自宅があるみたいだけど、そこにプレーヤーが入ることは出来ない。
そして俺は今、鍛冶場の壁に並べられた沢山の武器と防具を見ていた。
「へ~~~、こんなふうになってるんだ」
「うん?お前ここに入るのは初めてだったか?」
「ええ、そうですね」
「そうか、そうだったかな。
まぁ良い、どうだ、たくさんあるだろ」
俺の驚く顔に気を良くしたのか、店主は「ほれどうだ」とばかりに壁沿いの武器や防具を見せてくれる。
店に置いてある物よりも高価な物が多い。
「結構良いもんがあるだろ!
最近の冒険者はひよっ子が多くて、ここらにあるモンなんて宝の持ち腐れだからな。
分相応も分からずに良いモンを欲しがるから、中に入れてあるんだ。
ジョウイチ、お前ルビーのダンジョンのボス部屋まで行っただろう?」
「ええっ!どうして分かるの?」
「そりゃダンジョンの最下層まで行ったら、連絡があるんだよ。
まぁ、街でも一部の人間しか知らねぇけどな。
ソロでアソコまで行けるんだったら、このくらいの武器や防具は必要だぜ。
悪いことは言わねえ。買っとけ」
店主が手に取ったのは結構お高めの長剣と竜皮の全身鎧。
完全に予算オーバーだ。
店主は俺の顔をチラッと見て、値札に赤い筆を走らせる。
「これでどうだ!」
ドヤ顔の店主。
こいつ俺の財布の中を見たんじゃねぇだろうな。
ギリギリ買える値段を一発で書きやがったよ。
「…購入させて頂きます」
「よしっ!じゃあ寸法合せだ。ほれはよ脱げ」
着ている軽鎧を脱がされて、買ったばかりの防具を着ける。
店主が何ヶ所か隙間から手を入れて余り具合を調べてる。
「よし脱げ!ちょっと待ってろよ」
脱いだ竜皮の鎧を持って店主が作業机に向かいトントンやり出した。
しばらく他の商品を見ていると、「早く着ろ」と声が掛かる。
今度はバッチリだった。
「よしっ!これでいい!
頑張って来いよ。
壊れたら何時でも修理してやるから、持って来いよな。」
古い長剣と軽鎧をインベントリに仕舞って、店主に挨拶を済ませて店舗へと戻った。
「ジョウイチ、何処に行ってたのよ!探したわよ」
ユカリの声に、ハルオミ達も俺に気付く。
「すまん、ちょっと外に出てた」
結構な時間奥に居たと思うんだけど、皆んなあんまり気にしてないみたいだぞ。
新しくなった防具を誰か突っ込んでくれるのを待ってみる。
だって、自慢したいじゃないか。
でも誰も突っ込んでくれん。
「ねぇ、この防具どうかな?」
あまりの反応の無さにこちらから振ってしまった。
「ええっと、防具?
いつもの軽鎧じゃない。
それがどうしたの?」
「ええっと、いつもの軽鎧に見えるのかな?」
「そうよ、いつもの。ほらここに傷があるじゃん。
間違いないわよ。」
ユカリの呆れ声に全員がこちらを向いて頷いてる。
あれ?皆んなには前のまま?
近くにあった鏡で確認すると…
竜皮の全身鎧を着ている。
と言うことは、プレーヤーには正規の手順で手に入れたものにしか見えないわけか。
もしかして、NPC特典とか?
よく分からんが、とりあえずはイケてる長剣と防具が手に入ったことを喜んでおこう。
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