第6話 NPCと話せるの!

モンスターハウスへ入るかどうかで揉めてる。


ハルオミとユキヒコは『入ろう派』、ユカリとマリアは『慎重派』。


俺は『慎重派』かな。


だって結構大変だったし。ひとりだったから魔法も打ち放題、剣も振るい放題だったけど、人数が多いとその分制約も多くなる。


その上、今の俺はアバターじゃないし。


もし死んでしまったらどうなるんだろう?


そう考えると無条件に『慎重派』かな。


「経験したジョウイチがそう言うんなら、今は止めた方が良いかな。」


「おい、ユキヒコ!裏切るのかよ!」


「そうじゃないさ。ただ、モンスターハウスを抜けたらボス部屋まで直行しか道が残されてないんだよ。


しっかりと準備しといた方がいいかって、思い直したんだよ」


ユキヒコまで慎重派になってしまっては、さすがのハルオミも同調するしかなく、渋々俺達と一緒に入口まで戻ることになった。


とりあえず地下20階のセーブポイントに戻り、セーブした後、地上への道を歩き出した。



「なぁ、ジョウイチ。モンスターハウスはどうだったんだよ?」


「地下20階はハンターウルフ中心に出てくるだろ。


だからモンスターハウスの中もハンターウルフ中心だな。


たまにマジカルウルフも混じってたけど」


「マジカルウルフって21階に出てくるって奴か?


あれって炎を吐くんじゃなかったっけ?」


「おっ、ハルオミにしては予習出来てるな。


ハンターウルフが炎を吐くんみたいな感じだな」


「『予習出来てるな』は余計だよ。


だけどよう、ハンターウルフだけでも大変なのにそれに遠距離攻撃が付いてくるんだろ。


よく斃せたな」


「まだ、予習不足だな。


マジカルウルフには炎を吐く前に前足を持ち上げる癖があるんだよ。


だから、前足を上げたら速攻で魔法を放つんだ。」


「なるほどな、ジョウイチは姿に似合わず研究熱心なんだな」


「「「お前が足りなさ過ぎるんだよ!」」」


全員に突っ込まれ、めげている様子のハルオミ。


アバターは無表情だから声で判断しただけだけどね。


でも、ちょっと慰めてやろう。


「まぁ斃し方は今言った通りなんだけど、実際にはソロじゃないと難しいんだ。


基本近接戦ばっかりだから、遠距離魔法を打ったら味方に当てちゃうかもだろ。


だから、パーティで入ったら難しいんだよな。


まぁ、ひとりで捌き切るのも大概だったけどね」


「なぁるほど〜」なんて声が聞こえてくる。


モニターの前ではふむふむと頭を縦に降ってるんだろうな。


横を歩いているアバター達は、無表情なままだけど。




しばらく歩くと、城門が見えてきた。


「ようこそ、ファンタスの街へ」


城門をくぐる時も、お決まりの台詞が。


こいつらはNPCで良いんだろうか?


自然な動きをするんだけど、台詞はゲームのまんまなんだよなぁ。



難なく城門を抜けると目の前にでっかい建物が。


冒険者ギルドだ。


中に入ると……、ゲームの中と同じだな。


まだ昼間なのに呑んだくれが一杯だ。


アバターかNPCか見分けられんけどな。


見分ける方法が無いか目を凝らして見る。


うん?頭の上になんとなく下矢印が見える奴がいるな。


ひとり、ふたり………5人くらいか。


あとは無いぞ。


もしかして、この5人がアバターか?


一緒にいる仲間もよーーく見てみると、頭の上に薄ーく下矢印がありました。




「ジョウイチ、報告が終わったぞ。早く装備を買いに行こうぜ」


「分かったよ」


俺は皆の後を追って、ギルドから外に出た。




このファンタスの街。ゲーム中盤の要所で、ここでの活躍次第で今後の展開が大きく変わるって言われている。


特にさっきまで入っていたダンジョンをはじめ、全部で5つのダンジョンがここに集まっているんだ。


さっきまでいたダンジョンは『ルビーのダンジョン』


5つの中での難易度は上から2番目かな。


他のダンジョンにも宝石の名前が付いていて、難易度の弱い方からサファイヤ、エメラルド、アメジスト、ルビー、そして最難度のダイヤモンドとなる。


いちおうダイアモンドをクリアしたら勇者の称号が与えられるって取説には書いてあるけど、まだ達成した人はいないみたいだ。




目抜き通りを歩いていくと馴染みの鍛冶屋に着く。


ガラガラガラ


「いらっしゃい!おう、お前達か。今日は何の用だい?」


威勢はよいが、いつもと同じセリフ。


店に入って「お前達か」って店主に言われたら、常連っぽいって思うだろ。


でもこのNPC店主、初めての客にもこのセリフなんだよな。


皆んな、そんなセリフ完全無視で、勝手に店内を物色している。


微妙なんだよな。俺だってプレーヤーとしてアバターだったらきっとこのNPC店主に関心を持つことなんてないし、無視するんだけどね。


でもさ、今は本人じゃん。感情あるし。なんか完全無視されているNPC店主が可哀相でさ。


「店主久しぶり」って思わず声を掛けちゃったよ。


いやNPCに声掛けたって同じセリフしか返ってこないことは分かってるんだけどね。


でも、なんとなく哀愁を感じるんだよ。


「ああ、ジョウイチか。しばらくだったな。」



ええっ!!!初めて聞くセリフが帰って来たよ!!!



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