第13話 ファンタスの自宅へ戻った

さて、商工ギルドを出て貰ったばかりの自宅へ帰る。


って言っても隣だけどね。


馬鹿でかい門の前に立つ。


いや、やっぱりアパートの一室で良いです。


ギルドに向かって踵を返そうとすると、門の中から何やら声が。


「旦那様、どちらへお越しですか?」


「旦那様?」


「ええ、ルビーのダンジョン初の攻略者であるハヤト様でございますね」


「はい、確かにルビーを攻略したハヤトですが…」


「お待ち致しておりました。


ハヤト様のお屋敷で執事をさせて頂きますセバスと申します。


旦那様、どうぞ中にお入り下さいませ」


執事って。それもセバスって。


セバスって言ったら確かこのファンタスの街で起きたイベントの1つ『サファイアの氾濫』で、プレーヤーに重要な情報を提供するキーマンじゃなかったっけ?


確かどこかの金持ちNPCの執事だったはず。


ってことは、その金持ちが、この屋敷の前主人の男爵ってこと?


それじゃあ、俺も会ってるかも。


あーー、頭が混乱してくるっ!


「旦那様、少々お疲れのご様子。


お部屋の準備は既に出来ておりますので、お部屋の方に向かわれますか?


それともお風呂になさいますか?」


いやいや、飯、お風呂、それともわ・た・しみたいに言わないで。


「と、とりあえず、風呂にします。


ちょっと埃っぽいので」


「では、ご案内致します」


門を入って広い庭を奥に進むと、玄関の前にはたくさんの人達が並んで迎えてくれている。


知ってるよこれ、貴族の屋敷に当主が帰って来た時のやつだよね。


「「「お帰りなさいませ、旦那様」」」


おいおい、俺小心者なんだからな。


お手柔らかに頼むよ、ホント。


廊下の左右には高そうな置物が並んでる。


もちろん床は赤絨毯だよ。


風呂場は…うん知ってた。


ライオンの口からお湯が出てるやつだ。


まさかとは思うが…「旦那様、お背中「結構です。自分で洗えますから」を」


やっぱり出たよ。かわいいメイドさん。


強い口調で断ったから、ちょっと涙目になってたけど、ホント俺が泣きたいよ。


また戻って来たら困るから、さっさと洗って出ることに。


さっきのメイドさん。


バスタオルとローブを持って待ち構えてるよ。


自分でやりたいけど、懇願されるような涙目で見つめられると、断れないじゃないか。


立たせないように必死に堪えながら、かわいいメイドさんに身体を拭いてもらってローブを着せてもらう。


時々身体に触れる華奢な手が…あっ、危ねえよ。


鋼の精神で何とか耐え抜いた俺は、そのままメイドさんに導かれて食堂へ。


そこには、豪勢な料理が並んでいたんだ。


ゲーム内でプレーヤーが食事をすることは無い。


当然この現実モードで食事をするのは今回が初めて…じゃ無かった。冒険者ギルドでルビー攻略祝いの宴会をしてもらった時に食べたのが最初か。


ただあの時は酒ばかり呑んでたから、はっきりと味は覚えて無い。


確か薄味?いやあんまり味がしなかったような気がする。覚えてねぇよ。


そういう意味ではこれがこの世界の料理を味わう最初か。


見た目は…うん豪華なフランス料理みたい。


味は…


薄っ!


いやこれ薄いっていうより、塩コショウが効いてないんだ。


だから、味がボヤけてしまっている。


はっきり言って食べたくねぇ。


でも、俺のためだけに作ってくれた料理だよな。


「セバスさん、塩とコショウを貰えますか?」


「…シオ…コショウ?でございましょうか?


それはどういったものでしょうか?」


はい、アウト。


この世界は、塩とコショウが無いよ。


こんな世界嫌だーー!


心の声が今にも口から出てきそうだ。


風呂にも入って、飯も食って、今はリビングで寛いでいるところ。


入口にはセバスさんとお風呂に入ってきたメイドさんが並んで立っている。


ここに来て1番聞きたかったけど、怖くて聞けなかったことを口にしてみる。


「セバスさん。このお屋敷で働いてくれている皆さんは、どちら様でしょうか?」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る