第127話 ウインターコレクション開幕
そんなこんなで、『東京ウインターコレクション』まで残すところ1ケ月あまりとなっている。
副題『冬の陣』と銘打つだけあって、本来なら1週間の開催期間が2週間に延長され、アレンジ着物で時代劇を模したショーを披露したり、男性モデル専用のウォークが用意されているなど、かなりの力の入れ方だ。
俺も2週間にわたり出演することになってるよ。
会社からは出張扱いになってるけどね。
社長もこれを機に様々なデザイナーブランドとの取引を期待してるし、部長は須藤プロデューサーと、今後のジャパンテレビとの衣装タイアップについて協議を重ねているみたいだ。
『東京フォールコレクション』って俺が知らなかっただけで、世界的にも有名なファッションショーみたいで、うちの会社も以前から協賛していたみたいだね。
衣装調整や舞台稽古など、慌ただしい日々が過ぎ、本番初日。
毎日出演者が代わるんだけど、初日と最終日だけは全員が揃って挨拶をすることになっている。
俳優や人気アイドル、イケメンお笑いコンビの片割れなど、芸能人に疎い俺でも知っている顔が居並ぶ中、俺だけが場違い感半端ない。
「あれが……」とか「朝里さんの……」なんて陰口が聞こえてくるような気がするけど、俺自身が1番違和感があるんだから、気にしないことにする。
そして初日の挨拶も無事に終わり、先ずは女子の出番。
20人ほどのウォークが終わると、とうとう俺達の出番だ。
最初は殺陣の演舞から。
時代劇の大物俳優の息子さんで、最近大河ドラマの主役をしていた西郷裕太君が颯爽と登場すると、会場は割れんばかりの黄色い歓声に包まれる。
相手役の俺が出難いじゃねえかよ。
少しせり出した舞台の中央から両手を振ってひとしきり愛想を振り撒く裕太君。
ますます出難いなと思っていたら、袖にいる俺を振り返り、ニコッと笑う。
「東京フォールコレクションで見事な殺陣を見せてくれた、結城丈一郎さんの登場でーーす」
裕太君が大袈裟に俺を迎え入れるような仕草をすると、観客席からは俺に対する黄色い歓声が上がる。
その声と裕太君の見えない誘導に導かれて舞台に飛び出ると、一層の歓声が。
「今回初めての企画となります、デザイン着物による本格的な時代劇をお楽しみ頂きましょう!
初日の舞台は、ご存知大河ドラマで堂々の主役を演じ切った、西郷裕太さんと、こちらも記憶に新しい、東京フォールコレクションで見事な殺陣を演じてくれた、結城丈一郎さん。
剣術の腕も実力派のおふたりをイメージして作った、デザイナー石渡真司渾身の衣装もご堪能あれ!」
司会のジャパンテレビ女子アナウンサーさんの絶叫でライトが変わり、和やかな雰囲気が一気に緊張感へと変わる。
「まいる!」
裕太君の重い一撃が襲ってくる。
まぁ、常時高速演算が掛かっているから、端から見たら高速の一撃もゆっくりとしたものだけど。
1撃2撃、あっという間に10合ほど剣を合せる。
余裕だったはずなのに、1撃事にスピードが半端なく上がっている……よね。
まだ見切れないことは無い。
だけど観客席のお客さんの呆けた顔が見えるんだよな。
そりゃこんなに速い剣速でやり合ってりゃ、普通の人には全く見えてないんじゃないかな。
「ちょっと裕太君。
お客さんが引いてるから、もう少しゆっくりやらない?」
俺の言葉に裕太君の目がギラリと光ったような……
あっ、剣速がまた速くなった。
本当は裕太君に僅差で勝たせたかったけど、これじゃあ、しょうがないな。
「ガキッ!!!」
「ウッ!」
裕太君の剣を剣の背で流しながら、峰打ちの一撃を喰らわせる。
裕太君の身体が一瞬くの字に折れて、倒れ込んでいく。
「ヒール!」
誰にも聞こえないくらいの囁きで、裕太君を回復すると、ギリギリ倒れる寸前で持ち直した。
そして俺の身体は、音を立てて崩れるのだった。
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それと新作投稿しました。
「勇者日記〜窓ぎわ文官かく戦えり〜」
自由過ぎる召喚勇者を観察するように指示された文官の心の声を綴った日記です。カクヨムコン9短編エントリー
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