第4話 俺以外はアバターです
結城丈一郎。28歳独身。
恥ずかしながら、部屋に戻って参りました。
地下19階のセーブポイントで『2、保存して元の世界に戻る』を選択したら、あっさりと自分の部屋に戻って来た。
ゲームの電源は入ったままで、画面には19階のセーブポイントか映し出されている。
俺はふとロード画面を出してみる。
選択肢の一番下には地下19階となっていて登録日時はつい先ほど。
その横には『現』の文字が入っている。
そのひとつ上には地下20階で登録日時は土曜日の早朝。横には『ゲ』の文字。
そして更にその上には地下19階の文字があり、その登録日時は金曜日の深夜でもちろん『ゲ』の文字になっていた。
「保存したら、ちゃんとゲームの保存データに反映される?」
「ようやく届いたな。
待ってたよ、バッテリー君」
そして次の土曜日、休出の仕事が終わって、すぐに帰宅した俺は、コンビニの宅配ボックスに預けてあったポータブルバッテリーを受け取って、家に帰った。
あの事件以来、何度か警察に事情聴取されたり、近所の人達に話しをせがまれたりと、なかなか落ち着かない一週間を過ごしたのだが、なんとも取り留めの無い、事件とも呼べない現象だったので、白鳥町の七不思議とか言われながらも、沈静化していってるね。
テレビも最初の頃はワイドショーなんかで特集してたみたいだけど、映像に出来るのがコンビニの防犯カメラくらいだし、目撃者の証言も大したコメントが得られないとくれば、いくら誇張しても限界があるよな。
俺の過去を詮索してくる記者もいたけど、28歳独身、ゲーム好きの社畜に大した過去があるわけもなく、この奇々怪々な事件も3日も保たずにテレビから消えてしまったようだ。
唯一良かったのは、実名報道されなかったことだ。
誰も犯罪に巻き込まれてないし、俺もピンピンしてるから、警察から実名報道しないように指導されていたみたいなんだ。
そんな訳で、警察に呼ばれた数時間だけ会社をサボれただけで、あとはいつも通りの日々を送っていた。
で、なんでポータブルバッテリーを買ったのかって?
だってゲームの世界に入ったり戻ったり出来るんだよ。
凄くないかい。
入っている時にもし電源が落ちたら戻って来れない可能性だってあるよね。
だから、無停電電源装置の代わりにポータブルバッテリーを使おうと思ったんだ。
馬鹿馬鹿しいほど重いポータブルバッテリーを抱えて部屋に戻る。
いけね、もうすぐ20時だ。
急いでバッテリーを箱から出して接続。
「電源オンと」
フォンと軽いファンの音を発して、バッテリーの電源が入る。
フル充電で3時間か。
ゲーム機1台なら、停電になっても充分持つだろう。
コンセントからゲーム機のプラグを抜いてバッテリーに挿し込み、ゲーム機の電源を入れる。
モニターにはいつもの初期画面が現れ、ロード画面から日曜日の夜に19階でセーブしたデータをロードした。
目の前には地下19階のセーブポイントがある。
頬を抓ってみると…痛いわ。
現実であることを実感する。
「あら、ジョウイチ。久しぶり。
先週は無断欠勤だったわね。
何かあったの?」
頭の中に声が聴こえてきた。
「おう、ユカリか。
先週は済まなかった。
ちょっと事件に巻き込まれててな。」
「事件って!大丈夫だったの?」
ユカリは俺達のパーティで斥候をやってる盗賊だ。
先週の土曜日にあったことを説明する。
ユカリもニュースやネットで知っていて、その被害者が俺だって聞いてびっくりしてた。
だけど違和感が半端ないんだよな。
ユカリの声は直接頭に響いてるんだけど、彼女のアバターは目の前に居るんだ。
興奮するユカリの声とあくまで冷静なアバターの組み合わせが堪らなく変なんだ。
そうこうしているうちに、皆んなが集まってきた。
話題は、先週の俺の体験談。
でも俺はほとんど話してないよ。
話し上手のユカリが、あたかもそこに居たかのように、臨場感たっぷりに話しているから、それを聞いてるだけなんだ。
当然皆んなの言葉も頭の中に響いてる。
そして俺を取り巻く皆んなのアバター達は無表情で俺を見ているだけ。
やっぱり、違和感半端ないよ。
でもこれって、皆んなからは俺がどう見えてるんだろう?
疑問に思ったんだけど、皆んな話しに夢中で全く気にして無いみたいだ。
まぁ、違和感があればそのうち言ってくるよね。
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