第3話 ええっと、戻れるんですか

今いるのは地下20階にあるセーブポイント。


地下19階のセーブポイントまでは仲間達と一緒だった。


仲間達と別れてから、ひとりでこのフロアに降りてきたのには訳がある。


攻略サイトに地下20階のとある隠し部屋に『求婚の花弁』っていうレアアイテムがあるって載ってたから。


意中の相手に渡すと、両想いになれるってスーパーアイテムなのだよ。


同じパーティーの聖女であるマリアちゃんに渡したい一心で、ひとりで探しに行ったんだ。


次に合う約束(もちろんゲームの中の話だよ)をしてるのは土曜日の午後8時だから、それまでに見付けておいて、19階で落ち合えばいいんだからね。


楽勝〜〜って思ってた訳。


とりあえず20階でセーブして、いざ隠し部屋へ。


ところがその部屋って言うのが半分ガセネタで、モンスターハウスだったから大変。


2時間の大乱闘の末、何とか手に入れたんだ。


おまけにその隠し部屋には罠があって、『求婚の花弁』を採った瞬間、21階へと飛ばされた。


このゲーム、21階以降はセーブポイントが無い。


最下層が地下25階だっていうのに、嫌な設定だよね。


その上、一旦地下21階まで入っちゃうと、上の階に戻れない塩設定。


仕方無く、25階層にあるはずのセーブポイントを目指して格闘していたわけだ。


25階層のラス2ボス討伐直後にセーブポイントが出るはずだったんだよ。


だからラス2ボスを何とか倒して、セーブしようとしたら、いきなりボス部屋に飛ばされたんだよね。








「さてと、実際にゲームの中に入っちゃったみたいだな。


夢だったら良かったのに………


痛っ!夢じゃ無いよっ!」


肌に当たる冷たい空気感や不快な匂い、そして僅かに響く反響音。


すぐに分かってたんだ。


だって、こんな感じ今まで感じたことないんだもの。


でも、本当だって信じたくないじゃないか。


だから、持っていた剣を手に当ててみると、スパッと切れた。


痛いわ、悲しいわ、混乱するわで、ちょっとパニック状態に。


「ヒ、ヒール!」


馬鹿馬鹿しいと思いながらも、神頼み代わりに唱えてみると、なんと!傷が一瞬で治った。


人間って面白いもんだね。


手を切って痛くてパニックだったのに、魔法が使えたことに対する嬉しさの方が勝ったみたいで、逆に冷静になれたんだよね。


「さてと、ヒールも使えたし、今が現実かどうかなんて、どっちでもいいや。


折角だから21階への階段を探そう」


この前ゲームの中で21階へ行ったけど、あの時はモンスターハウスの罠に引っ掛かって無理矢理行ったんだよな。


ちゃんとした正規ルートを探しておくべきだよな。


マップ完走派の俺としては、この辺りはキチンとしておきたい。


ということで、右手を壁につけながら歩くいつもの手法を使って洞窟内を歩くことにした。


そして約5時間後。


地下20階全ての道を踏破完了。


結局、21階への階段は無かったね。


つまり、あのモンスターハウスを通らなきゃ21階へ進めないみたいだ。


「なんてマップを作るんだよう。


まっ良いか。


ところで俺はこれからどうしたらいいんだ?


ゲームならセーブして抜けられるけど、これは現実だから、えーーっと………」


地下20階のセーブポイントの前で、ひとり考え込む俺。


このまま攻略を続けるか、それともひとりで上に戻るか。


このゲームには転移門なんて便利な機能は無いし。


まぁそんなのが無くても、ボスを斃したら、ダンジョンから出る選択肢を選べるんだけど。


ただ、ここからだと一番近いボス部屋が地下16階で、下はもう地下25階まで無かったはず。


「仕方無い、上に上がるか」


ボス部屋の攻略は諦めて、1番近いセーブポイントしか選択肢はないっしょ。


そんな訳で、19階への階段まで移動する。


しかしこの階段長いんだよ。


ゲーム中なら、BGMの音も高らかに、楽しげに階段を滑り降りるメンバーの画像が流れるから、階段の長さなんて意識したことないけど、このダンジョンのフロアって、ドラゴンが普通に飛び回れるくらい天井が高いんだよ。


当然、階段の段数なんて数えたくもないくらい途方もない数だ。


それを重い鎧を着たまま上がるなんて、何の苦行なのよ。


あの華やかな映像の実態はこの苦行だなんて誰が想像した?


とかボヤきつつ、何とか19階へとたどり着いた。


もうヘトヘトだよ。


登り切ったところにあるセーブポイントに手を付いて息を整える。


現実となっても、俺の職業は魔法戦士なんだから、体力はそれなりにあるはずなのに、もう疲れ果ててボロボロ。


あんなの年寄りの賢者なんて死んじゃうんじゃないだろうかって思うんだけど。


「あ~、もう帰りたい」


セーブポイントに手を付き、落ち着いてきた息を整えながら独りごちる。


すると、なんということでしょう~


セーブポイントが光り輝き、目の前に選択肢が現れた。


1、保存して旅を続ける


2、保存して元の世界に戻る


3、保存しないで元の世界に戻る


うん?元の世界に戻る?


ええっと、元の世界に戻れるんですか。


本当に?


「後10秒で自動的に選択肢が消えます。


どれか選んで下さい」


俺は慌てて『2、保存して元の世界に戻る』を選択したんだ。





ー-----------------------------------


お読み頂き有り難うございます。


少しでも面白いと思って頂けましたら、執筆の励みになりますので、♡マーク ★マークをお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る