第2話 ゲームの中に入っちゃう?

バタバタバタバタ


「うん?朝……か」


扉の外を数人が走り過ぎる音がして目が覚めた。


この部屋には窓が無いので、今が朝なのかも判別出来ないけど、嫌な起き方じゃ無かったから、それなりの時間寝たんだろうな。


昨日はいろんなことが有り過ぎて、何がなんだかって感じなのだが。


何回か走り過ぎる音を聞いていたが、そろそろ家に帰りたい。


帰ってもすることないんだけどって考えて、色々思い出す。


コンビニカツ丼と一緒に食べようと思ってたスーパーのお惣菜を机の上に置きっぱなしだし、ゲームもボーズ状態で放ってあるな。


そういや、今日はラノベの新刊が発売されるじゃないか。


「うーーん、結構やることあるかも」


布団を丁寧に畳んで、部屋の隅に運んでおく。


箒もあったから、簡単に掃き掃きして、キレイになったよね。


こんなこと家じゃ絶対にやらないけど、外に泊まった時にはね、やっちゃうんだよな。


日本人の性ってやつだな。


扉を開けて廊下を右左と伺う。


うん、確か右だったな。


静かになった廊下を記憶を頼りに進んで行くと、昨日の取調室に着く。


確か隣の部屋が刑事さん達の部屋、いわゆるデカ部屋だったはずだ。


開いている扉から中を覗くと、昨日の婦警さんがいた。


「婦警さん、おはようございます」


「あら、早いわね。

あっそうか、早朝から捜査で皆んな走りまわってたから、起こしちゃったんだね。


ゴメンね」


「何かあったんですか?」


「大したことじゃ無いのよ。

飲み屋で喧嘩があったのと、なんか大声で喚いてる酔っ払いの保護よ。

駅が近いから、毎日こんななのよ。

ほんと困るわ」


俺と大差のない年齢の婦警さんとのひとときの楽しい会話。


一人暮らしのブスメンじゃ、なかなかこんな機会ないもんね。


誰か知らんけど、昨日のお兄ちゃんに感謝しとかなきゃ。


「あのぉ、家に帰りたいんですけど」


「そうね、帰りたいわよね。


ちょっと外の様子を見てくるから待っててね」


早足で裏口に進んで、外の様子を伺ってくれる。


そして振り向いた顔には満面の笑みが。


まぢ天使かと思っちゃう。


「大丈夫みたいですよ。

さぁ、今のうちに」


婦警さんの可愛い声に癒やされつつ、俺は頭を深々と下げてから、外へと走り出したのだ。





「ふう、マスコミに見つからなくて良かったよ。


アパートにも張り込まれていないみたいだし」


アパートに入ると昨日コンビニに出掛ける前のままの状態。


いや、違うな。机の上の惣菜は嫌な匂いを放っているし、電源が切れたのか、ポーズ状態のはずの画面が消えている。


モニターの電源を入れたら……、やっぱりゲームの初期画面が出でくるよな。


「あ~あ、後もう少しでボス戦も終わったのに…」


そう、俺だって家を出る時はセーブくらいして出るさ。


最終フロアに入ってラス2ボスをやっつけたんだよね。


それでボス戦前にちょっと休憩して、飯食ってって思った。


それで、セーブポイントを探してたらいきなりボス戦が始まっちゃった。


慌ててポーズして、それから昼飯でも食おうと惣菜を開いたところで、主食を忘れたことに気付いてコンビニに買いに行った。


そして剣で斬られて警察に行って今帰ってきたところってわけだ。




俺の名前は結城丈一郎。28歳独身。


3ヶ月ぶりの土日休みも気付けば日曜の昼前なんだよな。


全くせっかくの俺の土日が………


気を取り直しゲームのロードメニューを出して、最新のセーブデータを呼び出す。


………………………


そりゃそうだよな。


画面に映るのは金曜の深夜に保存したセーブポイント。


徹夜した10時間分を返して欲しいよ〜〜〜



『…戻してやろうか…』


えっ?


『…戻してやろうか…』


はい?


『分かった、戻してやろう…』




目の前には、見知った石柱。


上部が光ってて、本みたいなのが中で回ってる。


「セーブポイント?


あっ、この長剣、この軽鎧、魔法戦士ジョウイチの装備だ!」


俺は画面に映っていたセーブポイントの前にいて、俺がゲーム上で操作していたジョウイチの格好になっていた。


「ってことは、このままボス戦に向かうってこと?」


独り言だけが、セーブポイントのある洞窟に響く。


「ソロプレイ…、だよな」


セーブしたのは一昨日の深夜、厳密には昨日の早朝かな。


一緒にプレイしてたメンバーと別れてからセーブしたっけ。


皆んなでセーブした後、ひとりでこの洞窟に入ったんだよな。


だからソロプレイ。


もうひとつ前のセーブデータから始めるんだったな。


ゲームを操作してるんだったらリセット出来るけど、この状況じゃリセット出来ない。


仕方無い、リベンジに出発だ。







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