第125話 有名人はつらいよ

突然始まった記者会見を終え、昼飯を食べながらテレビを見ている俺。


この日のジャパンテレビのお昼のワイドショーは、東京フォールコレクション一色。


そして奇跡の新人『丈一郎』の紹介に大きくスポットが当てられていた。


普通の営業マンで朝里の兄。


映し出されるウォークや殺陣のシーンを見ながら、出演者が口々に称賛してくれている。


俺と朝里が異母兄妹であることは公表すべきか悩んだが、どうせ分かることだし、しれっと報道してもらった。


事前に須藤プロデューサーとは調整しておいたから、様々なエピソードを添えて、仲の良い本当の兄妹のようだって印象付けられたと思う。


いやぁ~、テレビの印象操作って怖いよね。


こうして期待の大型新人『丈一郎』が作られていったわけだな。



その頃、SNS上でも様々な情報が飛び交っていた。


こちらの仕掛け人はなんと電報堂の沢村さん。


傘下の有名ブロガー達に指示を飛ばして俺と朝里について良い印象を与えるような記事を大量に書かせたらしい。


それが昨日のこと。


つまり朝里を信奉する女子高生達は、これらの情報から週刊誌に載るはずの情報を予め知っているのだ。


その上で、東京フォールコレクションでの俺達の様子も大量に拡散されていき、2日後には、『朝里』、『丈一郎』、『東京フォールコレクション』がそれぞれトップキーワードとしてランクインしていたよ。


何度も言うけど、全くマスコミの印象操作って怖いよね。


絶対敵に回したくないよ。


だけど俺の記者会見に来ていた週刊誌のうち何社かは、案の定、ネガティブな記事を書いて売上げを稼ごうとしたけど、『フルーツポンチ』の三好記者が俺達の完璧な記者会見を称賛する記事を書いてくれ、そいつ等、ネガティブ記事派を思いっきり叩いてくれたお陰で、かえって情報に信憑性が増したって感じだな。


兎にも角にも、今回の朝里お泊り騒動は、ひとまず鎮静化するのであった。


俺はといえば、マスコミほど上手くはいかなかった。


まず、第1会議室を出てからすぐに社長室に呼ばれ、今回の顛末を説明。


事情はどうであれ、騒動を起こしたというわけで、顛末書を書かされた上、2日間の謹慎処分となった。


そして、謹慎明けの出社日。


いつものように事務所に入ると、大勢の若手男性社員に囲まれることになる。


高速演算スキルを…働かさずとも事情は分かる。


朝里目当てだな。


謹慎中に須藤さんや三好記者のお陰で、仲の良い兄妹として全国的に認知されていたので、朝里とお近付きになりたくて俺にすり寄って来るのだ。


もちろん、そんな軽薄な奴らに可愛い朝里の情報を渡すはずもなく、無視を決め込むのだが、なかなかに手強い。


始業のチャイムがなっても離れてくれない。


結局、課長の雷が落ちるまで、しつこく付きまとわれたのだった。


そしてそれは営業先でも同じこと。


俺が来ることをどうやって知るのか知らないけれど、受付前のロビーで囲まれる。


なんとか商談相手を呼び出してもらうも、商談そっちのけで、話題は朝里と俺のことばかり。


お茶を運んできた女子社員も役目が終わったはずなのに、その場から離れないのだから始末が悪い。


次の商談がありますからと、席を立とうとすると、次の訪問を約束させられたり。


もちろん次に行った時にはギャラリーが増えていたのは、仕方の無いことなのだろうか……


「はぁ~」


しばらくはこの調子なんだろうな。


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