第49話 アダム王子は優秀だな
「後学のためにお聞きしてもよろしいですか」
「うん?何をだ?」
「このダイヤの売り先についてです」
「ああ、そのことか。教える義理も無いのだが、せっかく馳走になったのだ。
他言は無用だぞ」
「はい、心得てございます」
サーガスとしては今後の脅威になり得る商人を知りたいのだろう。
いや、彼は既にダイヤを購入する気でいるはずだ。
少しでも値切ってやろうと駆引きをしているつもりなんだろう。
「各国の王族に売る。いや場合によっては貸し出す方が良いか。
それも無料で」
「無料で!ですか?」
「あぁ、実はな、ここだけの話しなのだが、わたしとビスマス帝国のアミル殿下との婚約が決まった。
結婚まではまだ1年は掛かるだろうだがな。
そうなると、我が国と帝国は自動的に安全保障同盟を結ぶことになる。
そうなれば、そこに加わりたい国が増えることが予想できる。
我らが盟主となり、それらの国を取り込んで強力な経済・軍事同盟を結べば、戦争が極端に減るだろうし、それらの国にダイヤを無償で配れば、アチラにも大きなメリットがあるし、同盟の楔にもなろう」
「たしかに、そうなれば………
いや、アダム王子の慧眼お見事ですな。
戦争の無い世界。わたしも見てみたいものです
ではお祝いを兼ねて、ダイヤをいくつか購入させて頂きます。
そうか、今日は見本としてこれしか持ってきておらぬが、如何ほど必要か?」
「そうですね、先程の金額ですと、わたしどもでは100が精いっぱいだと。
ただ、せっかくのお話しですので、是非とも購入させて頂きます」
アダム王子は、「これが今のところ最大のダイヤで、他のはこれの半分くらいの大きさしかないのだが、結界を張るだけなら十分だがな」とぼそっと言いながらダイヤをサーガスに渡す。
サーガスの目がキラリと光ったのを俺は見逃さなかった。
アビスバ商会の資産は事前に調べてある。王子の提示した額では80個購入するのが精いっぱいだろう。
どうにか金を掻き集めてでも買い占める気だな。
そして1ケ月ほど経った頃、帝国皇帝に謁見するサーガスの姿があったのだ。
(サーガス視点、アダム王子が帰った後)
「アダム王子め、とんでもないものを持ってきよった。
たしか神王国の店舗から上がってきている情報では、直径2センチほどのダイヤが100もあれば、小国を覆いつくすくらいの結界が張れるというじゃないか。
あのダイヤ、直径20センチはあったぞ。他のは半分くらいだと言ってたが、それでも直径10センチは下るまい。
恐らく小国なら3つあれば結界を張れるんじゃないか。
そうなると100あれば、大陸全土のほとんどの中小国を手中に出来るはずだ。
これは一気に夢の実現に近付くチャンスだ。全体に逃すまい。
少なくともアダム王子の画策する同盟は絶対阻止すべきだ。
あれほどのダイヤ、すぐには100も集まるまい。現に今日だって見せるためになけなしの1個を持ってきたのだろう。
納期が遅いとか言って、まけさせてやろうか。ハハハハハ」
「アダム王子、上手くいきましたね。納入と引き換えにお金を払うって言ってましたね。100個すぐに納品しましょうか?」
「まずは各国に打診しよう。ビスマス帝国皇帝と父連名の親書を持って各国を説得する。
転移は使えるか?」
「あれからステータスが上がりましたからね。どこだって大丈夫ですよ」
「よし、じゃあ早速始めよう」
アダム王子、めっちゃ優秀だ。サーガスとの商談の後、すぐに父王に状況を報告。
同盟に関する親書を認めてもらった。
そしてその日のうちにビスマス帝国へ。皇帝陛下に親書を見せて同意の署名をしてもらう。
もちろん内容は、アダム王子がサーガスに話した内容だ。
そして今、その連盟の親書を持って、俺達は転移の連続で各国の王を説得に回っていた。
どの国でも、もっと慎重に判断するのかと思っていたのだが、案外容易に受け入れられている。
やはり、戦争と魔物の侵入で疲弊しているのだ。
魔物が入ってきて耕地を荒らしていくと食料不足になる。だから戦争を起こして食料を求める。
戦争するにも魔物を退治するにも軍事費が必要だ。それでサーガスから金を借りて兵器を回してもらう。金がないから結界が張れず、魔物が入ってくる。の悪循環だ。
強力な結界が張れるだけで、この悪循環は止まるのである。
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