第50話 サーガスひっくり返る

巨大ダイヤによる結界は疲弊した国にとって天の恵みにも等しかった。


巨大ダイヤの貸与と当面の食糧援助、それと借金返済に必要な金を低金利での貸付け。


この3点セットを帝国と王国の2大国家が保証してくれるのであれば、どの国も諸手を上げて受け入れるのだった。


そして密かに大陸全土を包括する経済・軍事同盟が誕生したのは、アダム王子と俺がサーガスに面会してからわずか2週間後のことであった。



「この度のこと本当に上手くやってのけたな。ご苦労であった」


「有難うございます。それも全てハヤトの力があったからこそ。ハヤトの転移が無ければこれほど早く、しかもサーガスに気付かれぬように同盟を纏めることは叶わなかったでしょう。


そして、これが最後の仕上げ、ハヤトの自信作です」


アダム王子がビスマス皇帝に差し出したのは、見事に上面をブリリアンカットに仕上げた特大のダイヤ。


ブリリアンカットされた上部分を球体に貼り付けたようなそのデザインは、どの角度から見てもとにかく美しかった。


「ほう!!これは何と素晴らしい!!ダイヤは非常に硬く、アダマンタイトでも加工が出来ないと聞いた。


これはどのようにして作ったのだ?」


「はい、デザインは自分で考えましたが、加工はこれで。ダンジョンで見つけました『必切のナイフ』と言います。この世に斬れぬものは無い逸品です」


そう、動画サイトと向こうで買ってきた専門書でダイヤのカットを勉強して『必切のナイフ』を使って自分でカットしたんだ。


レベルアップと共に『器用さ』も爆上がりしているからね。余裕余裕。


「これは、わたしからアミル皇女殿下への結納代わりだと思って頂ければ幸いです」


「これは驚いた。こんな高価なものが結納だとは!王国との協力関係ももっと見直す必要があるかな。ははははは」


皇帝陛下からダイヤを手渡されたアミル殿下の幸せそうな顔は忘れることが出来なさそうだ。


無事に婚約が成立し、両家による正式な約定が交わされた数日後、サーガスが煌びやかな衣装を着てビスマス帝国の皇帝に面会していた。


「皇帝陛下ご機嫌麗しゅう、お慶び申し上げます。アミル皇女殿下に置かれましてもますますお美しゅう、御健壮であられるようで。


実は本日はアミル殿下にこちらをお持ち致しました。」


持ってきたものを誇るように顔を上げたサーガスは驚愕する。


何と自分か持ってきたダイヤよりも格段に大きく、しかも精巧にカットされ、この世のものとは思えぬ輝きを放つダイヤが、アミルの手に包まれていたからだ。


あの輝きに比べると、カットもなにもされていないダイヤの原石など、いくら大きくとも...いや大きさでも十分負けているのだが...ただの石と変わらない。


「やられた....」


思わず声に出したサーガスはその場で口から泡を出して倒れてしまった。






遡ること2日前。サーガスが皇帝陛下に面会を求めているとの情報を得た、アダム王子と俺は、ダイヤ100個を持ってサーガスを訪ねていた。


「サーガス殿、約束通りダイヤを持ってまいりました。お確かめ下さい。」


事前に訪問することは話してあり、サーガスは必死であちこちから金を集めていた。

急なことでもあり、その中に闇金融が交じっていたことは仕方の無いことだった。


「アダム王子、本当に100個全納なのですね。さすがにこれだけのものを見ると手が震えますな。


お金は蔵の方に用意しておりますが、お持ちになるのは難しいでしょう。どうですか、何回かに分けてお持ちになれば」


サーガスとしては少しでも支払いを伸ばせるほうが有難い。

小国から借金を取り立てて、闇金に返したいのだ。


「いや大丈夫だ。ハヤト頼む」


「はい。収納!」


あっという間に蔵いっぱいの白金貨が亜空間に吸い込まれていく。


「少し多かったようです。これはお返しします」


ハヤトがインベントリに表示されている枚数を確認して、サーガスに返金したのはわずかに白金貨3枚だけだった。


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