第133話 パリにて3

「『素晴らしいよ丈一郎君、朝里さん。昨日のバラエティー番組の視聴率は歴代最高を記録した。


そして、放送中から、電話が鳴りっぱなしだ!』だそうです」


なんでも、昨日のバラエティーの予告で『日本の侍が出演する』と1週間前から宣伝していたようで、最初から視聴率は高かったらしいのだが、一昨日ふたりで演武をした俳優さんが他の番組で話したことも合わさり、想定以上の視聴率が叩き出されたそうな。


もちろん、そこに朝里と由美子さんの美貌も加わり、電話が鳴りっぱなしになっているみたいだ。


「『これは特番を組まないと視聴者が納得しないだろう。全く嬉しい悲鳴だよ!』だそうです」


通訳している由美子さんも少し興奮しているみたいで、声がうわずっているな。


フランスでの滞在予定は今日までで、明日の朝一にはロンドンに向かわなければならない。


残念ながら、特番の話はまた今度かな…って思っていたら、数人のフランス人が走ってきた。


こちらに会釈したと思ったら、アンリさんに何やら小声で話し始めた。



「『丈一郎君、朝里さん、申し訳ありませんが、もう一本お願いします』と仰ってます」


よく聞いて見ると、お昼のトーク番組でゲストが来れなくなるというアクシデントがあったそうで、そこに出演して欲しいそうな。


往年の大女優の軽快な語りが人気を博してる長寿番組だそうで、視聴率も常に20パーセントを超えている凄い番組なんだって。


日本でいうと、『徹◯の部屋』みたいだよね。


あの番組はマダム御用達だけど、こっちのランチは長いから、年齢性別は関係なく観られているみたいだね。


「とにかく、打ち合わせに向かって欲しいそうです。

急ぎましょう」


アンリさんに連れられて、収録現場にほど近い控室に向う。


扉の前でアンリさんが声を掛けると、中から返答があり、アンリさんが扉を開ける。


「これからこの方が司会をされている番組に出演だそうです」


「ボンジュール、結城丈一郎と申します。こちらは妹の朝里です。

今日はよろしくお願いします。」


もちろん由美子さんが通訳してくれる。


「ボンジュール、マドモアゼル%#!&’!”#$+*」


最初だけしか聞き取れなかったけど、俺のカタカナフランス語じゃなくて流暢なフランス語で朝里が挨拶していた。


大女優さんも少し驚いた後、顔がにこやかになり何やら会話らしき応酬があり、俺達は彼女の控室に招かれた。


最初にアンリさんから簡単な流れの説明があり、その後、朝里が日本でのコレクションでの様子やフィーバーぶり、俺がつい最近まで普通のサラリーマンだったことなどを紹介したらしい。


そして最後に、俺にもいくつかの質問があり、それに答えることで無事に打合せも終了。


10分後の本番生放送に備えて、スタジオへ移動することになった。


大女優さんと朝里は移動中も親しそうに会話を続けている。


そして本番開始。朝里と由美子さんに挟まれてソファーに座った俺。


基本的には朝里が軽快な司会進行に合わせて、俺のこれまでのエピソードを披露していくのがメインで、途中退席した俺は用意されていた派手な着物に着替えて、出番を待つ。


そしてアンリさんの合図で別のスタジオに出ると、そこには4台のカメラがこちらを向いており、大女優さんや朝里達も移動してきていた。


そして、一通りの型を見せた後、地元の剣術道場の師範達が入ってきて、7対1で殺陣の演武を行った。


もちろんスタジオ内は大盛り上がりで、スタッフの歓声が生放送に入ってしまうアクシデントも。


逆にそれが臨場感を出したのか、テレビ局の電話が一斉に鳴り、ホームページへの感想も前代未聞な程、物凄い反応だったそうだね。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る