第9章 久しぶりのモデル

第271話 モデルのお仕事

「久しぶりのモデル撮影だね」


「朝里、嬉しそうだな」


「うーーん、まぁね。女の子は注目を集めることに快感を覚えるものなのよ。


だから皆んな美容やオシャレに夢中になるのよね。


そういう意味ではファションモデルなんて、自己欲求を満たすには最適な仕事よ」


「そうか……俺は面倒くさいだけだけど」


「お兄ちゃんは昔からそんな感じだったわね。


やれば出来るのに頑張らなかったり、1位を取れる場面でも他人に譲ったりしてたね」


「いや、実力だよ。単に実力が足りなかっただけだし」


「まぁそういうことにしておいてあげるわ」


「朝里ちゃーん、次お願いしまーーす」


「はーーーい、お兄ちゃん、行ってくるね」


今日は俺達の所属するモデル事務所の社長でもある石渡さんの夏コレの事前撮影に来ている。


今日撮影された写真はポスターや雑誌の特集記事なんかに使われるそうだ。


そして撮影の合間にはインタビューがめじろ押しで、昨日から1週間は朝から晩までスケジュールがびっしりなんだよな。


本来なら、これ以外にもテレビ出演とか、衣装の打ち合わせ、ショーの打ち合わせなんかもあるんだけど、社長と由美子さんが俺達の代わりに上手くやってくれている。


俺達なんかよりも、よっぽど忙しいだろうと思うよ。


本当に申し訳ない。


そんなこんなで、昨日に引き続き、ポーズを取りながらフラッシュライトに照らされている。


隣で朝里の撮影もしてるんだけど、朝里は本当にプロだなって思うよ。


表情も豊かだし、使われる予定の雑誌に合わせて上手く変えてるよね。


それに対して、俺はそんな器用なことは出来ないから、たぶん無表情なんじゃないかな。


もっと顔を作らなきゃと思うんだけど、凄くぎこちなくなっちゃうんだ。


それが自分でも分かるから、あえて表情を変えないようにしている。


「丈一郎さんはクールでカッコいいですよね。


妹の朝里さんとツーショットだと、そのコントラストがなんとも言えない味を出していますよ。


それにただクールな見掛けだけじゃ無くて剣を取ったら無双だって聞きましたよ。


あの剣術の免許皆伝といわれるステファン・ウーダンさんにも勝っちゃったんですよね。


わたしのフランスの友人がその対決シーンを見たって大興奮で自慢してました」


饒舌なメイクさんに顔を塗り塗りしてもらいながら、撮影は続く。


いつもならお着替えは2着くらいなんだけど、今日はファションショーの事前撮影だから、着替えも多いんだ。


だからメイクさんも楽しそうにしているし。


俺のファンだって言ってくれて、くれてるから嬉しいはずなんだけど、残念ながらまだ褒められることに慣れないや。


愛想が悪くてごめんね。


そんなこんなで深夜2時にようやく撮影も終わり、予約しておいたホテルへと戻る。


もちろん朝里とは別室なんだけど、あっちの世界じゃ夫婦であんなことやこんなこともしてるから、こうしてふたりだけの時に別の部屋っていうのもなんだか変な気分だ。


朝里をみると、向こうもこっちを見ている。


おそらく同じ感覚なんだろうか。


ならば……、とはいかないな。


現実世界では血は繋がってなくても俺達は兄妹なんだから。


理性は保たなきゃね。

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