第273話 須藤さん無双
『鉄腕バッシュ!スペシャル』が放送された翌日、撮影中のスタジオは記者達の熱気で蒸返している。
番組を見た出版社や新聞社、テレビ局、ラジオ局なんかが大挙して押し寄せて来たわけだ。
こちらとしてはファションショーの宣伝の一環で出演したわけだから、突然の取材であっても断る理由も無いのだが、いくらなんでも多すぎる…ってことで、急遽合同記者会見を開くこととなったんだよね。
俺と朝里が真ん中に座り、石渡さんが朝里の横に、メインスポンサーの株式会社ブルースカイからは……何故か開発チームの山口課長が俺の横にしれっと座っているね。
司会進行はうちの事務所の社外取締役でもあるジャパンテレビの須藤さん。
業界人なら誰もがよく知る重鎮なだけあって、烏合の衆である記者さん達も今のところ大人しくしているね。
「本日はお集まり頂きありがとうございます。
では、株式会社石渡事務所の代表石渡がプロモートする石渡夏コレクションの記者会見を始めようと思います」
ザワザワ ザワザワ
記者さん達の顔に戸惑いの表情が浮かんでいる。
そりゃそうだわな。
俺達の出演した番組を見て集まった記者達なんだから、ファションショーの記者会見っていわれても???ってなるよな。
「あっ、あのーー」
「はい?質問でしょうか?」
「い、いえっ!なんでもありません!」
勇気あるというか、無謀というか、世間知らずなのか、ひとりの記者が異論を挟もうとしようとしたが、すぐに周りの空気を感じて止めてしまう。
そして須藤さんの冷たい声にざわつきもすっかり収まってしまった。
「おっほん!それでは石渡代表、お願いします」
「では、今回の石渡夏コレクションの説明をさせて頂きます。
まず、開催日程についてですが…………………」
記者の中には腕時計を気にしている人もちらほら。
それにしても石渡さんの話しの長いこと。
俺もそろそろ飽きてきたんだけど、時折名前を出されるから、気を抜けない。
俺が飽きてきてるんだから、記者の皆さんはもっとだと思うよ。
だけど、あの須藤さんの視線を避けて席を立つなんて、そんな勇気のある奴はいないか。
「じゃあ、わたしの話しはこれくらいにして、皆さんもお待ちの彼らにバトンタッチしましょう。
我が事務所のエース、結城丈一郎君と結城朝里君です!」
パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!パチ!
社長の前段が長かったのもあり、俺達が立ち上がると満場の拍手が沸き立つ。
ふたりで一礼して席に着く。
「では皆さんお待たせしましたな。
10分だけ時間を取ろうと思う。
ただし、しょうもない質問だったら、シバクからな。
分かっとるやろうな!」
須藤さん、いきなりドスを利かせた関西弁で威嚇しなくても……ってか、須藤さんって関西の人なんだね。
質問しようと半分腰の上がっていた記者の皆さん。
顔面真っ青で大人しく席に戻ってる。
結局、須藤さんが指名した記者数名が質問する形で記者会見は時間通りに終了したのだった。
「お兄ちゃん、あの記者会見。
須藤さんの計略だったんだって。
あらかじめ、当てられる記者と質問内容に取り決めがあったみたいだよ。
それとね、須藤さんの関西弁って業界で有名らしいのよね。
なんでも昔ブイブイ言わせてた武闘派で鳴らした映画俳優をこてんぱんにした時に残したセリフが関西弁だったそうよ」
そうなんだ、須藤さんには逆らわないようにしようっと。
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