第274話 石渡マジック
翌日の新聞は『石渡夏コレクション』の話題で持ちきりであった。
大手新聞社全てが、三面記事で全く同じ内容の記事を掲載していたのは言うまでもなく、ゴシップ記事で有名な新聞でさえ、少し違いはあれど内容は同じであったのだ。
いやいや、須藤さん恐るべし……
そしてしばらくして発行された週刊誌なんかも、両手を挙げてコレクションの宣伝をしてくれていたのは間違いない。
嫌だね、大人の世界って。
その後もテレビ出演や雑誌のインタビューなんかの仕事をこなしながら時間は過ぎていく。
そしてついにコレクション初日を迎えることとなったんだ。
「さぁ!今日から3日間本番行くぞー!」
「「「おーーー!」」」
登場するモデルは3日間で延べ40人。
1日目である本日は10人である。
そしてモデル以外にもスタント事務所からは時代劇のスタントマン達が同じく10人、海外からのお客様として、なんとあのステファンさんも来てくれることになった。
このコレクションの目玉はもちろん石渡さんセレクトの衣装をコーディネートしたファションショーに間違いないのだけど、それは半分の時間。
残りの半分は俺と朝里が主演の時代劇なのだよね。
ファションショーは、ちょっと高級ブランドのものが多いけど、市販されている服飾を石渡さんが完全オリジナルで組み合わせたもの。
ファションショーというと奇抜で現実味の無いものが多いけど、自分で買えるものとなると話しは別で、主に有閑マダムや一流企業の女性重役なんかが多数見学に来るらしい。
それだけじゃ、観客として寂しいところだけど、俺や朝里、もちろんステファン目当ての若い子もいる。
他には剣道関係者や剣術研究家などなど。
もちろん海外からの取材スタッフも数え切れないくらいな。
「皆さん、大変長らくお待たせ致しました。これよりスタイリスト石渡秀和プロデュースによる夏コレクション、ファションショーを開始致しますーー!!」
一瞬灯りが消え、舞台にスポットライトが当たる。
そこに現れたのはナイスミドルなイケメン、石渡社長。
黄色いとは言い難いが黄色悲鳴が聞こえる。
「皆様、ようこそ、石渡秀和です。
そしてこのふたりーー!
結城丈一郎、そして結城朝里ーー!」
今度こそ正真正銘の黄色い悲鳴が広い会場に割れんばかりに響き渡った。
俺が着ているのは、フランスの有名ブランドのジャケットと日本のカジュアルショップで買えるボトムス。
朝里は俺とペアとなるカジュアルなワンピース。
こちらはイタリアのカジュアルブランドらしいな。
さすが石渡さんということか。
高級ブランドを見慣れている観客の皆さんは、見慣れない俺のボトムスと朝里のワンピースに注目。
壁際に並べられたモニターには今俺達が着ている衣装の写真とブランド、そして標準小売価格。
日頃見慣れない衣装の値段を見て驚きの声があがる。
数十万のジャケットに数千円のボトムスの取り合わせなのに、誰もがため息をつくような見事なコーディネートであるのだ。
そう、これが石渡秀和プロデュースのコレクションの人気の秘密なのだ。
少し手を伸ばせば、誰だってこのコーディネートに手が届くと思わせる……
それが石渡マジックなのだ。
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