第269話 ハヤト王国での顛末を報告しよう

AIが創ったと考えられるリーシャ。


だけど、とても人間じゃないとは思えなかった。


いや、彼女は元々デジタルで作られたデータの塊のNPCなわけだから、そもそも人間じゃないんだけど、それでもあの世界ではまるっきり人間そのものだった。


あの祠の前で時間軸の歪みに閉じ込められ、ハヤト王に助けてもらってから3日後、僕は無事にログアウトして、自宅に戻っていた。


向こうの世界で1週間以上いたにも関わらす、不思議なことにこちらでは全く時間が進んでいなかった。


「こんなに長く滞在したことが無かったから全然気付かなかったな。」


ゲーム機の前で意識を取り戻した幸彦は、ひとまず身体の異常を調べようと立ち上がった時に、壁に掛かった時計を見て、時間経過が全く無いことに気付いたのだった。


「さてと、おかしなことが沢山あったなぁ。


とりあえずレポートでも作るかな」


何か分かったらすぐにレポートを作る。

この辺りが幸彦の幸彦たる所以である。


アグニストゥースオンラインの世界で体験した膨大な摩訶不思議な経験をわずか10分ほどでまとめ上げて席を立つと、そのまま株式会社ブルースカイへと向かう。


地元の駅から電車を乗り継いで目的地に到達すると受付で四宮を呼び出す。


ほどなくして現れたアグニストゥースオンライン運営チームの四宮と会議室へと向かい、豪華や椅子に着いてひと息つく。


「伊集院さん、今日は何か?」


「ハヤト王国を調べて来たんで、その調査報告に来ました」


「調査って…まだこの前の打ち合わせから2日ですよね。


もっとゆっくりでも良かったのですが。


いや、ウチとしては早いほど有り難いですがね」


「信じられないかも知らないですが、実はあちらの世界に10日以上居たんです。


他の先生方は、まだ居られますよ」


「10日ですか!それはハヤト王国に居る間はこちらでの時間経過が無いと……いうことですか?」


「そうです。ハヤト王国へと繋がるビスマス帝国の路地が境界なんでしょうね」


「まさかそんなことが……」


「感覚的には、白昼夢って感じですか。」


「う~~ん、記憶ははっきりしているので夢から醒めたって感じでもないかな。


普通にログアウトしたら時間が経ってなかったって感じです」


「へぇ~、本当に不思議ですね~。


でも実害が無くて良かったです」


「それがですね、そうでもなかったんですよね」


僕はリーシャとの出会いから異空間に閉じ込められたこと、ハヤト王に助け出されたことを話した。


ふんふんと興味深そうに聞いている四宮さん。


話し終えたところで彼から大きなため息が漏れる。


「う~~ん、大変な目にあってるじゃないですか!


もし、そこでハヤト王が来なかったら、帰って来れなかったんじゃ」


「そうですねぇ~。もちろんこれは運営さんとしては意図しない出来事ですよね」


「ええ、ハヤト王国に関しては全く手を出せないですから。

おそらくAIが創ったイベントかもしれません。


もしかすると、ハヤト王が救出するところまでがイベントだったとか」


「あの焦り方は全く予想外の出来事だったんだと思います。


もしかすると、ハヤト王国には異物であるユキヒコを排除しようとしたのかもしれませんね。


あっ!それじゃ向こうに未だいる先生方にも危険が迫っているかも!


四宮さん、もう一度行って来ます!」


僕は四宮さんに挨拶もそこそこに部屋を飛び出した。


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