第11話 契約したら家を貰えることに

現実モードから戻って、いつもの日常をおくっている。


満員電車に抑え込まれながら通勤し、上司にブチブチ文句を言われながらも何とか仕事をこなす日々。


ダンジョン攻略後の興奮状態が信じられないほどだ。


どうやら俺にとって非日常的なゲームはストレスの捌け口だったみたいだな。


現実モードを体験するようになってからは、ファンタスでの体験全てが、余りにも非日常過ぎてるんだよ。


だから、以前ほどストレスが出なくなってしまっている。


このまま、現実モードでゲームを続けてしまって良いものなのか、不安になっているんだよね。


そのうち、どちらが本当の世界なのか分からなくならないかなってね。


それはそうと、あの日ゲーム世界から戻って来て気付いたことがある。


ダンジョンを攻略して、その後、3日も宴会してたのに、こちらに戻って来たら、全く時間が進んでいなかった。


たしか最初に現実モードから戻った時は時間が進んでいたのに………


このあたりも何かあるのかもな。よく分からんが。


あっそうそう、レベルがかなり上がってた。


ゲームモードなら、画面にステータスが常に表示されていて、レベルアップ時には派手な効果音が鳴ってたのに、現実モードでは常時ステータス表示も効果音も無いから、全く気付かなかったけど。


なんとレベルが15も上がってて、それに付随するように、全てのステータスが大幅にアップしてたんだ。


ソロはパーティよりも危険度が高い分、上がり幅が大きいって攻略サイトに書いてあったけど、その分も加算されてるんだろうか。


そんなこんなで、この数日間、毎日定時帰宅でゲーム機に向かっている。


出来るだけハヤトで居たかったから。


会社と通勤で疲弊した精神も、ハヤトになって無双してればスッキリするしね。


それにファンタスの街最難関のダイヤモンドのダンジョンも攻略したかったし。


攻略したいというか、攻略して欲しいとの要請があちこちから来てるんだ。


領主様やギルマス、商工ギルドからもね。


というのも、ルビーの1つ前のアメジストのダンジョンが攻略されてから、先日俺がルビーのダンジョンを攻略するまでに十数年のブランクがあったみたいで、アメジストやルビーの中間までには既に新しい発見も無く、この街自体の景気が停滞していたようだね。


だからルビーに続いて、未だ未踏破のダイヤモンドのダンジョンから産出される新しい資源に期待を寄せているそうだ。


まぁ、あまり早く攻略するのも問題みたいだけど、ゆっくりと資源を見付けながら潜るのもオツなものかな。


そんな感じで今日もハヤトになってファンタスの街へ向かう。


まずやらなきゃいけないことは、ルビーのダンジョンで採れる鉱物の権利について。


ダンジョンの中は鉱物がたくさんある。


それも深くなればなるほど量が増えていくんだ。


何十年も地下15階くらいまでしか掘られていなかったから、15階まではかなり掘られてしまっている。


「アメジストの時は確か最初の3年間に採掘された鉱石の3%程度が攻略者の取り分になったはずだ」


とは商工ギルドのギルマス談。


つまり、ダンジョンマスターが居なくなったダンジョンは鉱石の採掘がやりたい放題で、膨大な収益が見込める。


その3%を3年間も攻略者である俺個人が貰えるってこと。


採掘技術が拙いこの世界でも鉄や金銀銅などの鉱石が大量に掘り出されるのは間違いなく、そのうちの3%を3年間も貰えるんだったら、何もしなくても生活に不自由することは無いだろう。


その上、もしダイヤモンドのダンジョンまで攻略してしまったら……


うん、とんでもないだろうね。


「ハヤト君?この条件で良いかい?」


両手で白金貨を掬い上げてる姿を妄想してたら、商工ギルドギルマスの声で我に帰る。


「はい、大丈夫です」


あくまで冷静を装って答える。


「じゃあこれにサインを」


テーブルに広げられた契約書を隅から隅まで確認する。


社会人たるもの契約書は隅までキチンと読まなきゃね。


特に問題も無さそうだったので、サインしてギルマスに返した。


「よし、これで契約書終了だ。


ハヤト君ありがとうな。

これでこの街にもまた活気が戻ってくるよ。


そうだ、そういえばハヤト君この街に住む所があるのかい?」


「いえ、宿屋暮らしですが」


「よし、それなら手付代わりに家を提供するよ。


ちょうど良い物件があるんだ。


今から行こう」


半ば強引にギルマスに誘われて家を見に行くことになった。


まぁ、ここの街も住み易いし、拠点があるのは良いことだね。

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