第42話 ピルスネ山脈の大爆発1

温泉掘りの検索を止めて、現実モードでアッチの世界に戻る。


一晩明けて翌日、今日は何もしない日。ベッドに寝っ転がってだらだらしている。


窓からは遠くに教会の屋根が見える。そしてそのずうっと向こうにはピルスネ山脈の尾根があった。


うん、長閑だ。


朝はマリーさんが朝食を運んでくれた。


パンと肉、そして野菜のサラダ。


美味しいんだけど、何か物足りない。


向こうでなら米でもラーメンでもなんでも食べれるんだから向こうで食べりゃいいのに、なぜかこっちで食べたいんだ。


無いものねだりっていうか、向こうとこっちでは完全に『俺』が違うので、向こうでいくら食べても、こっちでは食べてないことになるんだからしようがないじゃないか。


そんなわけで持ってきました米と半生めん。ついでにラーメンスープを作るための具材一式も。


昨日向こうで買ってきたんだ。


「ラーメンライスを作るぞ!」


料理長に作り方を説明して頼めば作ってくれるだろうけど、やっぱり自分で作って拘りたいじゃないか。拘るほどの知識も技量も無いけど。



ドゴーーン!!!


そんな感じで気分もウキウキ調理場へ向かおうとしたその時、先程まで長閑に見ていたピルスネ山脈の尾根にモクモクと煙が吹き上がっているのが見えた。


「ええっ!!」


そして俺は思い出す。向こうの世界で見ていた攻略サイトで目に付いた記事。


そう、イベント『ピルスネ山脈の大爆発』が起きたのだ。そう言えばゲームモードでユカリが「イベントに参加するとかしないとか」言ってたような。


あの時は皆んな消沈してたから、有耶無耶になったんだけど、もしかしたらユカリは参加してるかもしれない。


「旦那様、冒険者ギルドからお使いの方が来られております」


「セバスさん、待ってもらって。

今すぐ着替えて行くから」


恐らくあの大爆発の調査隊が組まれるんだろう。


急いで装備を着けると、使者が待つ部屋へと急ぐ。


職員じゃなくて、C級冒険者の見たことある人だった。


「ハヤトさん、ギルマスがお呼びですだ。急いで下せい」


えらく訛ってるな、名前はナマリかな。


しまった!余計なこと考えちゃったよ。


冒険者ギルドに着くと、大勢の冒険者達が外にはみ出るくらいひしめき合ってた。


「ナマリ、遅かったじゃねえか」


やっぱりね。


ちょっと反省しながら冒険者達をかき分け中へと入って行く。


押されて睨んでくる奴もいるが、目が合うと向こうが逸してくる。


それが何回か続くと周りも俺が来たことに気付いて、ギルマスの前まで『モーゼの海割り』が出来た。


「おうハヤト、来てくれたか!

ピルスネ山脈の爆発は見たか?」


「はい、見ました。これから調査隊が向かうのですよね」


「そうだ。お前に隊長を頼もうと思ってな。頼まれてくれるな」


「どうせ有無を言わさずですよね。

行かせてもらいます」


「そうこなくちゃな。じゃあ、頼んだ。


お前らハヤト隊長に従ってしっかり調査してこいよ」



事前にメンバーを絞り込んでたみたいで、俺の他に30人ほどが選ばれていた。


B、C級が中心のようだな。


よく見かける顔もいる。ナマリもいた。


本当にすまん。


俺がこんな面倒な仕事を引き受けたのには理由がある。


攻略サイトによると、このイベントは、堕天使が降りてきてこの世界を壊そうとするのを阻止するものだ。


そして、攻略報酬は『必切のナイフ』


名前の通り何でも紙のように切ってしまう神の道具である。


俺にはこの『必切のナイフ』がどうしても欲しい理由があるのだ。


こうして、俺は調査隊を率いてピルスネ山脈に向かうことになった。


たしかこのイベントの説明では、冒険者ギルドの調査隊がピルスネ山脈に到着すると、堕天使が降りてきて調査隊メンバーを氷山に閉じ込めてしまい壊滅させてしまう。


その救出と堕天使の討伐がイベントクリアの条件だったはずだ。


そして、堕天使が使っていた『必切のナイフ』が、成功報酬となったはず。


よし、プレーヤー側のイベントが発生する前に堕天使を討伐してやる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る